第十二章 マジシャンの一日 後編
バトルは次回になりました…
「4と7の2ペア!!」
「残念、フルハウス。俺の勝ち…」
「ところがどっこい9の4カード」
「「「またテメェかよ!?」」」
ちゃんとした病院が存在するにも関わらず、街の中ではそこそこ有名な『ドラグノフ診療所』。そこの主である銀髪赤目に眼鏡がトレードマークの『リゲル・ドラグノフ』は名医と言っても差支えのない腕前を持っており、街の病院が手に負えない患者を請け負う事も日常茶飯事である。
しかし何故か本人は街の病院に籍を置くこと拒否しており、現在もこうして仲間3人と一緒にこの診療所の一室でポーカーを興じてるいるわけなのだが…。
「おい…」
「どうしたリゲル?」
自分は賭け事が好きだ。一時は賭博による借金で身を滅ぼしそうになるほど好きだ。今だってこうして警官と手品師とジャンク屋の仲間たちとトランプで遊ぶほど大好きだ……しかし…。
「さっきからクズみたいなカードしか来ないんだが…?」
「いつものことだろ?」
「いつものことだね」
「いつものことっすよ」
―――3人に言われるほど、自分は運に見放されていた…
「そう言う割にはリゲルって、妙なとこでツイてるじゃねーか」
「そうだよ。暇だから僕たちに電話しようとしたら丁度集まったんじゃん」
「そうだけどよぉ…」
実際、例によって患者が来ないので退屈だった。なので暇つぶしがてらに全員に声を掛けようとしたらカザキリ、アスト、ジェームズの3人が同時にやってきたのである。
何故か頭から出血中のジェームズを二人で抱えながら…。
「本当に運が無いのは俺の方っすよ。この前は理不尽な理由でミレイナにフライパンで殴られるし、偶然フィノーラさんと会って世間話してたらアストさんにぶっ飛ばされるし…。今日に至ってはカザキリさんが…」
「だから悪かったって言ってんだろ…?」
今日こそはまともな一日を過ごすつもりで外に出た瞬間にそれは起きた。自宅の扉を開き、まず最初に耳に入ったのは女性の悲鳴と、下品染みた男の笑い声…そして、顔馴染みな警官の…。
『きゃあああああああ!!引ったくりよーーーー!!』
『ぎゃっひゃっひゃっひゃ!!盗られる奴が悪いんだよバーカ!!』
『じゃあ、死にかけたら死にかけた奴が悪いってことでオーケー?』
『へ?』
『そこにあったベンチをフルスイング!!』
―――ブオン…バキャア!!………ゴッ!!
とまあ、カザキリが引ったくりを豪快なベンチのフルスイングでぶっ飛ばした訳なのだが…。
「何でワザワザ俺の居る方に飛ばすんですか?ねぇ、どうして?ねぇねぇねぇ?」
「ワザとじゃ無いんだって!!偶然だ、偶然!!」
勢いよく飛んできた引ったくりの頭とゴッツンこしたジェームズはそのまま失神…。この状況を作った元凶は引ったくりを警察署に、完全な被害者であるジェームズは今日の公演を終わらせて暇を持て余していたアストを巻き込みながらこの診療所へと連れて来たわけなのである。
詳細を聞いたアストとリゲルは大層呆れたそうな…。とりあえずアストが軽い治癒魔法で応急処置をし、念のため本格的な治療をリゲルが行った御蔭で今はジェームズの調子も戻ってきたとこだった。
「まぁまあぁ、とにかく続きやろ?」
「それにしても、リゲルが滅茶苦茶弱いのはいつものことだが…」
「ほっとけ!!」
「いくらなんでも勝ち過ぎじゃないか、アスト?」
今の所勝率はアストが5割、カザキリが3割、ジェームズが2割である。…え、リゲル?ゼロに決まってる。ついでに言うと掛け金無しの純粋な遊びなので負けて減るのはプライドだけである。
「そんなこと無いって。流石に僕もこの面子相手にイカサマ仕掛ける勇気は無いよ?」
「どうだか…」
「この前なんてトランプ自体を最初からすり替えるなんて真似しましたからね…」
「そうだ。きっと俺が負けっぱなしなのもお前がイカサマし…」
「「「それは無い」」」
優しそうな顔してアストは結構えげつない真似をする。手品師になり、魔法を使わずに人を惑わす手段を身に着けてからというもの、彼の賭場における戦績は無敵を誇っていた…。
どう考えてもイカサマしているとしか思えないのだが、“素人達には”その証拠を掴めないので結局は店を潰す一歩手前まで搾り取られる羽目になる。なのでアストはこの街にある全てのカジノと賭場のブラックリストに載っており、入店を完全に拒否されている…。
「そもそもお前、そんな賭場を潰しかけてまで集めた大金を何に使う気だ?」
カザキリの一言でアストの動きはピシリと凍ったように固まった。そういえば、今まで直接尋ねた事は無かったが疑問には思っていたのでリゲルもジェームズも興味津々である。
「…あんまり言いたくは無い、かな?」
「ほほう…てことは、フィノーラ絡みだな?」
―――ガタッ!!
「図星だな」
「図星っすね」
言葉を濁したにも関わらず、即座に言い当てられたために動揺して椅子から転げ落ちたアスト。その様子は無言で白状したようなもんである。ヨロヨロとしながらも椅子に無言で座りなおす彼だったが、先程から目が縦横無尽に泳ぎまくる…。
そんな彼の様子をおもしろそうに眺めながら名(迷)警部の推理は続く…。
「相思相愛、同棲すること約2年、生活に関しては特に不自由なし、それでも大金が欲しい…。そうなると、答えはおのずと限られてくるな…」
「そうだな」
「そうっすね」
カザキリの言葉でリゲルもジェームズもなんとなく確信した。狼狽えるアストを余所に3人は一度だけ視線を合わせ、互いの予想の答え合わせを無言で行った。そして…
「二度とお前らに『もう結婚しちゃえよ』とか言わねーよ」
「代わりに『早く結婚できるといいね』という言葉を送ってやる」
「式には是非とも呼んでくださいね」
「ぎにゃーーーーーーーーーーーーーー!!」
あ、この悲鳴を上げるってことはマジか…。最初は『婚約指輪』かと思ったが、魔法使いのアストが直接作った方がそんじょそこらの店の品よりよっぽど立派なもんが出来るだろうから無いだろう。日常生活においても金が足りないとは聞いてないし、マイホームも一応ある。
というわけで、このバカップルに残ってそうな大金の使い道は『結婚式』の資金ぐらいだろうと予想したのだが……案の定のようだ…。
「あーーーーー!!もう、絶対にフィノには教えないでよ!?」
「大丈夫、大丈夫。絶対に言わないから…なぁ?」
「そうっすよ。まぁ、フィノーラさんが喜ぶかどうかは別ですが…」
ただでさえ形だけとはいえ居候の身であるアストに養われつつあることを気にしているフィノーラが、そのアストに結構な費用が掛かる結婚式の資金を全額出してもらったらかなり気にするのではないだろうか…?
「でもさ、時たま結婚式場のカタログを眺めながら溜息つく彼女を見たらやっぱり、ねぇ…?」
「……それは確かに男としては放っておけないな…」
そもそも互いに愛し合い、同棲を二年間も続けといて未だに結婚できてない方が不思議だったかもしれない。まぁ、ぶっちゃけた話…。
「因みに、二人は何処までいったんだ?」
「…キスより先にはあんまり進んでない」
「「嘘だろ!?」」
―――この二人、妙なところで奥手なのだ…
「あんだけラブラブの癖に未だにキス止まりって…!!」
「どんだけだお前ら…!!」
「いや、だって…」
アストもそうだが、それ以上にフィノーラがああ見えて“そういうこと”に耐性が無いのだ。キスにしても、彼女が恋愛小説を愛読した御蔭でどうにか普通にできるようになったというのに…。
ついでに、滅多な事が無い限り一緒の布団で寝ることさえ無いと聞いたら3人は全力でアストを諭しに掛かったかもしれない……主に、どんだけアストが妬ましくも勿体無い状況かという愚痴で…。
「ま、まぁとにかく…頑張れよ資金集め……」
「ありがとう」
「ったく、お前が変なこと言い出すから空気がおかしくなったじゃねぇか…」
「俺たちも途中まで悪ノリしてたっすけどね…」
何とも言えない微妙な空気を醸し出し、4人はポーカーを再開するのだった。その微妙な空気のせいか4人に勝負の結果を尋ねてみると、全員が口を揃えて『散々だった…』と答えたそうな…。
「はぁ、全く…あの3人は……」
リゲルの家を出た後、商店街で夕飯の買い物を済ませたアストはビニール袋を片手に自宅への帰路についていた。まだ日が沈むまでには時間があるが、空が朱色に染まって来たので歩調を少し早める。
「フィノと結婚、か…。出会った当初はまるで考えれなかったけどね……」
彼女との初の出会いを考えるとロマンの欠片も無いと言えば無いし、運命と言えばそんな気がしなくもない奇妙なものだった。何せ恋のキューピットの役割を果たしたのが一発の砲弾だったのだから…。
もっとも、そっから先に進めたのは自分がフィノーラに一目惚れし、彼女が自分に惹かれていたことが一番の理由なのだが…。
「…本当に人生ってのは分からないものだね。ま、とにかく今はさっさと帰ろうかな……」
いくら仕事で帰りが遅いといっても、連絡が何も無い限りあと二時間前後でフィノは家に帰ってくる筈である。帰宅まであと3分、料理の下ごしらえに20分、調理に1時間、食事の準備そのものに10分…そうすればフィノーラに出来たての夕飯を食べさせることができる…!!
そう思った時には既に、アストの足取りは無意識に軽やか且つ素早いものになっていた…。
「……と、思ったんだけど…あれ?おかしいな…」
怪訝に思い自分の腕時計に目をやる。赤くなったわけでも角を付けたわけでも無いのに1分で自宅前に辿り着いていた。にも関わらず、目の前の『ヴェルシア探偵事務所』には明かりが灯されている…。
「予想を外した?でも、いつもより断然早いよね…?」
フィノーラは連絡を寄越さない限りいつも決まった時間に帰ってくる。もしも彼女の身に何かが起きた場合は自分の第六感が警鐘をならすがそんなことも無かった…。
「……まぁ、いいか。空き巣ならボコボコにしてカザキリに引き渡すだけだし…」
することを決め、事務所兼自宅の玄関のドアノブに手をやる。そして…
―――ガチャ…
「ただいま~」
「ッ!!お、おかえりなさ~い…」
玄関を開けて返ってきたのは間違いなくフィノーラの声だった。随分と引き攣っている気がしたが、それは置いておくとしよう…。
とりあえず玄関からリビングへ入ると、昼間の自分並に目が泳いだ状態のフィノーラが立っていた。心なしか背中越しに何かを隠しているみたいだが…。
「…何してるの?」
「え、え~と…」
言葉を詰まらせ完全に挙動不審な状態の彼女を見て、アストは前回も似たようなことがあったのを思い出した。確かその時は…
「…フィノ。今度は何を拾ってきたんだい?」
「ッ!!ば、ばれた…!?」
彼女は可愛いものに目が無い。それ故、かなりの確率で捨て犬やら捨て猫を拾ってくるのだが、時たまとんでもない生き物を拾ってくる。今までで一番やばかった時は『竜の子供』を拾ってきたこともあった。その時は親竜が街に飛来して大パニックになった気がする…。
「まったく、しょうがないなぁ…。で、君の後ろには一体何が居るのかな?」
「え、いいの…?」
「別に君が良いなら僕は構わないさ。それに、竜の子と比べたら何だって平気だっ…」
「……ぶっちゃけ竜の子より厄介かもしれないんだけど、“この子”…」
「…え?」
少々聞き捨てならない言葉を耳にした気がしたが、アストがその言葉の真意を確かめる前にフィノーラは背後に隠していた“この子”を前に出した…。
「……ちょっと待って、どういうこと…?」
「事情はちゃんと説明するから…」
―――“その子”は鮮やかな白い翼を生やしていた…。
―――“その子”は綺麗な赤い瞳を持っていた…。
―――そして、口から発せられる声はとても美しく…。
「お、おじゃましてます…」
―――礼儀正しかった…
「……確かにこれは厄介そうだよ…」
「…ほんとゴメンナサイ」
―――人間の背中に翼を生やしたような種族…『飛鳥族』の子供が御辞儀をしていた…。
因みにフィノーラが拾ってきた犬や猫は全て、アストとカザキリが手を回した施設に引き取られ、街でも有名な動物園となりつつある…。




