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マジシャンな黒猫の辿る未来  作者: 金貨の騎士
王国からの使者
10/23

第十章 長き序章の終わり

な、長かった…本当に長かった……!!


次回から日常話を挟みつつアストの過去に迫っていきます。



「…どうやら、終わったみたいだね?」


「そのようですね…」



 カフェテリアに居るにも関わらず何度か感じた魔力反応。おそらくエリゼネアと例のもう一人がフィノーラと戦闘…もとい、一方的に撃退されたようだ……。


 その証拠にエリゼネア達の魔力反応は一度感じた場所からピクリとも感じなくなった。さしずめボコボコにされた挙句に放置されたのだろう…。



「で、君はこれからどうする気だい?」



 おもむろにアストに尋ねられ、アイカは困惑した。この任務はアストを王国に連れ帰ることが一応の目的である。故に自分の手で彼を強引に拉致してでも連れ帰るべきなのだ…。




―――しかし、自分にとってそれはただの建前である。




「本音を言いますと、私はアスト先輩と話をするためだけに来ました…」


「……。」


「さっきの先輩との会話で、私の目的は済んだと言っても過言ではありません」



 『王国を去った理由』と『第二王女の縁談を断った理由』を尋ねることはできた。彼は言葉を濁して誤魔化していたが、エリゼネアの報告と"恋する乙女の勘"を信じるならば大体のことを想像することもできた。根拠は無いが確信しており、同時に悲しくもある…。


 

「ですが、最後に訊かせて下さい…」


「…何かな?」



 一瞬だけ口にするのを躊躇ったが、どうしても訊きたいのが本心である。故に彼女は口を開く…。









―――あなたにとって『私』は、王国同様に無価値な存在でしたか…?



 


「王国なんかより、よっぽどあったさ…」


「ッ!!」


「正直に言うと、国を出るとき君に黙って出て行くべきか否かを三日間悩んだよ…」




 彼の即答にアイカは一瞬ビクリと肩を震わせた。積み上げてきた全てを躊躇うことなく捨てれるほどに無価値と言った王国での過去の中で、自分は例外であったことに安堵する。しかしだ…。



「だったら…だったら何故、黙って行ってしまったのですか…!?」 



 彼女のその問いかけにアストは沈黙した。しばらくアイカの目から視線を逸らさずにジッと見つめ続け、やがて懐に手を突っ込みながら財布を取り出した…。



「それは君が純粋・・な王国の人間だからだよ…」


「王国の…人間……?そんなの先輩だって一緒じゃ…」 


「まぁ、とりあえずコレを見なよ…」



 そう言って彼は財布から一枚の黄色い紙幣を取り出した。確か3種類ある帝国の紙幣の中で一番低い価値のものだった筈である…。



「手品でタネや仕掛けは凄く大事だ。それがなければ、魔法を使わない限り何も出来ないからね。けれど、同じくらいに大切なことがあるんだよ…」



 そして彼は取り出した紙幣を小さく何度も、何度も折りたたんでいった。やがて限界まで小さく折りたたまれた紙幣をアストは彼女によく見せた後に広げて戻し始めた。すると…



「あっ…」


「どうかな?」



―――黄色い紙幣は、一番高値である緑色の紙幣に変わっていた…



「それはね、その手品が『いつ始まったのかを悟らせない』ことだよ。アイカ…いや、アリス……君はいつ僕がタネと仕掛けを使ったのか分かった?」



 さっきまでアストに詰め寄っていたことも忘れて紙幣を凝視するアイカ…。アストの問いかけにようやく反応した彼女は少しだけ首を捻り、真剣に考え始めた。



「…紙幣を折り始めた時ですか?」



 その答えにアストは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。その笑顔に少しだけアイカはドキッとしたが抑える。時と場合を考えるだけの理性は持っているつもりだ…。



「残念、不正解。これを見てご覧…」



 アストは紙幣を裏返した。すると緑色の紙幣の裏には先ほど小さく折りたたまれた筈の黄色い紙幣がくっついていた…。どうやら最初から二枚を貼り付けてあり、折り畳む時にうまく入れ替えたようだ。



「正解は、この手品をやると決めて『財布にこの紙幣を入れた時から』でした~」



 確かにそうだ、こっちにきてから紙幣に細工なんて出来る訳無い。だが、それが今の会話とどのように関係しているのか皆目検討もつかないのだが…?



「いいかいアリス?これは全ての物事に言えるんだ。心理戦だろうが陰謀だろうが全てのことにね…。そして何より僕の…『猫に呪われた男の子』に関してもね……」


「それはどういう…!?」


「おっと、それ以上は僕の口からは言えないよ…。」



 まるで強引に話を終わらせるようにアストは席を立ち始めた。どうやら今日はもう帰るつもりのようである。何故か先程の言葉が頭から離れず、アイカは俯きながらその意味を考え込んでいた…。



「『猫に呪われた男の子』が本当に始まったのは何時なのか…それが分かれば、僕の言葉の意味を君なら理解できると信じてるよ?……もっとも…」






―――君は僕の存在を否定すると思うけど…





「そんなことするわけ…」



 反論するべく顔を上げた時にはもう、彼の姿は店内から消えていた…。














「覗き見とは、大空賊も堕ちたものだな…」


「その空賊と横に並んで同じことしてる警官に言われたくねーよ」



 アストとアイカが対話していたカフェテリアから遠く離れた場所で、先日のようにヴィリアントはその様子を伺っていた。自分と同じように双眼鏡を手に、同じ光景を見ているカザキリを隣に…。



「やれやれ、お前の言う通り物分りのいい嬢ちゃんでよかったよ…」


「カリーヌ嬢達はあんなだが、クラリーネ嬢は本当に良い子だ…。一回本気で勧誘したんだぜ?」



 この前のエリゼネアという前例があるため、交渉が決裂した際に大規模な戦闘が行われることを警戒していたのだが杞憂だった。些細な口論はあったようだがそこまで大事にはならなかった。


 『雇われた者』と『街の監視役』の二人は揃って安堵の溜息を吐いていた。ここ最近のことを考えると胃に優しくない出来事が続きすぎている…。



「ところで、警官と犯罪者がこんなに長く一緒にいて平気なのか…?」


「この街の警察及び政府組織の人間は全員俺の息が掛かってる。安心しろ。」


 

 この街、『ミロクボンド』はただの商業都市では無い。無論、住民の多くは帝国の一般市民で占められているが、それに比例して帝国中の『裏社会の産物』が紛れ込んでいる。



―――元帝国軍特殊部隊…


―――政府高官御用達の犯罪者…


―――腕は確かな違法研究者…


―――敵国からの亡命者…


―――空白地帯からの移民者…



 表向き受け入れることはできないが、手放すには惜しい…。そんな一歩間違えれば帝国の存亡を脅かしかねない者たちの一時保管所・・・・・がこの街の実態なのだ。


 政府の許可が下りて本国へ引っ越す者や空白地帯へと旅立つ者も多いが、この街が気に入ってそのまま居つく者も少なくない。そして先程も言ったが、実態はともかく街の住民の大半は一般人だ。隠居を望んだ者達とはいえ、元裏世界の人間が安全と言い切れる根拠は無い…。


 故に政府が監視役を派遣するのは必然であり、元暗躍機動部隊出身で確かな実力を持っていたショウ・カザキリ元中尉にその話が来るのもまた必然であった…。



「それにしても警官と監視役の掛け持ちなんてするか普通…?」


「やかましい。空白地帯より酷い治安なんて認めてたまるか…!!」



 派遣されたその日のうちに彼は警察署へと赴き、そして監視者としての権限を少しだけ利用(職権乱用とも言う)して警察官の地位を手に入れた。その後の彼の行動力は凄まじいことこの上なかったが、長くなりそうなので語るのはまた今度にしよう…。



「……『計画』の方はどうだ…?」



 少しの間を置いてカザキリが問いかけてきた。それにヴィリアントは双眼鏡から目を離し、口を開く。



「…順調だ。」



―――十年前から進めてきたとある『計画』。


―――今までの行動は全てこの『計画』のため。


―――自分の全ては『あの人』が死んだ瞬間に始まった。


―――あの人が死んで『蒼風』の名を受け継いだときから始まった。


―――自分はそのためだけに生きてきた…。



「進行具合は7割を超えたあたりだ。『起爆剤』も手に入ってる…」


「抜かるなよ?」


「俺を誰だと思ってんだ。じゃあな、兄弟・・…」



 アストがカフェテリアから出て行ったことを確認し、アイカを出迎えるべくヴィリアントはその場を跡にする。今頃リザがフィノーラにブチのめされた二人を回収している筈である。さっさと合流しないと後が怖い……彼女は指定の時間に遅れることや、約束をすっぽかした者には容赦無いのだから…。


 さっさと向かうべく建物の出口に差し掛かった瞬間、カザキリの声がヴィリアントの耳に届いた…。



「こっちに居る間くらいは俺のことを頼れよ?…そんで……」



―――『昨日よりマシな今日を…』



 幼き日に交わした兄弟分との合言葉。自分達の育ての親である『あの人』の口癖を元に二人で考えたそれは、今は『蒼風』の一員である証であり、誓いの言葉となっている…。


 とっくに忘れているものだと思ってた合言葉を、兄弟分であるコイツはしっかりと覚えていた。それが

どうにも嬉しくて頬が緩んでしまう…。だからこそ自分はしっかりと奴の方を向き、返事をする…。



―――『今日より素晴しい明日を…』 



 同じ人間に育てられ、別々の道を選び、そして再度同じ道を歩み始めた血の繋がり無き兄弟は一度だけ視線を合わせ、その場を後にしたのだった…。
















「ただいま~」


「お帰りなさ~い」



 アイカとの対話を終わらせたアストは『ヴェルシア探偵事務所』へと帰宅した。時刻はすっかり夕方を過ぎ、辺りは既に日が沈んで暗くなっていた。そして扉を開ければ案の定、無傷のフィノーラが自分を出迎えてくれた。



―――瞳からハイライト消しながら…



「え、ちょ…フィノ……?」


「ヴァンから聞いたよ?……昔の女と会ってたって…」


(あの野郎おおおおおおおおおおおおおおおおお!!)


 

 確かにアイカは王国に居た時に心を許せた数少ない女性だ。けれど、恋愛方面でという訳では無い!!断じて無い!!アイカには悪いが僕はフィノーラ一筋である!!



(アイツ絶対わざと誤解するように言いやがったな!?)


「ねぇ、アスト…」


「ッ!?」



 地を這うような冷たい声で囁かれ、アストは全身の毛が逆立つような感覚に襲われた…。これ程までのプレッシャーは魔衛騎時代でもそうそう経験したことが無いぞ…!?



「私のこと、愛してる…?」


「両手にナイフを持ったまま言わないでよね!?」



 思わず恐怖で『容姿隠蔽魔法』を解除してしまった。頭のてっぺんと下半身の方に懐かしい感覚が甦るが今はそれどころでは無い。自分の心境を表すかのように、いつもはピクピク動く猫耳・・も尻尾もピンと逆立って動きやしなかった…。


 しかし逃げ場は無いし逃げる気は無い。体を強張らせながらも身構えながら目を閉じ、彼女の怒りなり罵声なりを浴びる覚悟を決める。そして彼女は口を開いた…。











「な~んちゃって♪」


「…へ?」



 予想外なセリフに思考がフリーズする。目を開くと、彼女は可愛くぺロっと舌を出しながら笑っていた。呆然とする彼の様子を面白がるようにフィノーラは笑いながら言葉を続けた。



「あははは、ごめんごめん…!!この前本で読んだヤンデレって奴を試してみたんだけど…駄目ね、私の性に合わないやコレ。」


「心臓に悪すぎるよ!!」



 要するにからかわれたらしい…。人を騙して驚かせるのが仕事の『マジシャン』がドッキリに引っ掛かるとは情けない話である…。



「でも、昔の女と会ったのは本当なんでしょ…?」


「…まぁね。けれど、ただの後輩だからね?」


「好意を寄せられてるって聞いたけど…?」


「……多分、その通りです…」



 ぶっちゃけた話、昔のアストは女心に対して鈍感の極みにあった。育った環境が環境だったのが原因でもあるが、それでも酷かった…。今はフィノーラという恋人が居るのである程度は女心というものが理解できるようになった。


 だからこそ昔を思い出しては後悔する。かつての記憶の中に、今思い返せばアレはアプローチだったのでは?と言えるものにいくつも心当たりがあるのだ。それはもう後ろから刺されそうなくらい…。 



「正面から刺されそうになったことはあるけどね。主に君やミレイナに…」


「そういう意味じゃないでしょ」


「…はい」



 シュン、としたら頭の猫耳と尻尾が垂れ下がった…。それを見たフィノーラは頬を緩ませて近寄ってきて耳を触り始める。敏感なのであんまり触るとニギャァアァァ…!!



「ふふ、魔法が解けるくらいに動揺してたの?本当にゴメンね…」


「あニャ、別に、それは、もういいけど…あんまり触らないでえぇ……!!」



 結構触り心地が良いと皆は言うが、触られる身としては勘弁して欲しい…。まぁ、フィノーラならいいけどね…。他の子や野郎には触った瞬間にぶっ飛ばす所存である。



「…その子は『猫に呪われた男の子』のことを知ってたの?」



 耳を触るのを中断し、突如投げかけられた一つの問いかけ。その問いに少しだけ悲しそうな表情を見せながらアストは答えた…。



「……知ってたよ。″王国の人間″として、ね…」


「…そう。」

 


 アストの返答にフィノーラは短く答え、それっきり何も言わなかった。そしておもむろに立ち上がり、何かを決心したかのような表情でこう言った。



「ま、その子がミレイナに続くライバル候補だと分かっただけで良しとしようかしらね…!!」


「そんなんでいいの…!?」


「私は不戦勝が嫌いなのよ。戦闘だろうが仕事だろうが趣味だろうが恋愛だろうが、ちゃんと勝ってこそ意味があるの!!」


「…本当に君らしいよ」



 さっきのドッキリも、彼女なりの気遣いだったのかもしれない。本音を言えば、アイカに会って昔の事を嫌なこと含めて思い出さなかったと言えば嘘になるし結構へこんでいた。帰宅して早々にアレの御蔭ですっかり忘れることができた…。

 

 本人も言っていたが、やっぱり彼女にヤンデレは似合わない…。こういう所こそが『フィノーラ・ヴェルシア』という人間たる証であり、自分が心から惚れた彼女なのだから…。



「さて、この話は終わりにしましょ?それより夕飯食べに行かない?」


「…そうだね。また『ねこじゃらし亭』にでも行く?」




―――アイカに続き、王国からの追手や僕の過去がこれから何度も付き纏ってくるだろう…




「異論無し!!」


「それじゃあ、さっさと準備しようか…」




―――けれど今の日常を守るためなら、僕はその全てに向き合おう…




「今日は私が奢るわ。今は財布の中身がギッシリなの!!」


「あれ、依頼は罠だったんじゃ…?」




―――過去があるからこそ今の僕がある。でも、未来を決めるのは今の僕自身だ…




「襲ってきたバカ全員と魔法使い二人の所持金」


「…あれま」




―――だから来るなら来い、僕は逃げない…!!




「だから気にせず贅沢できるのよ」


「じゃ、お言葉に甘えようかな?」


「ふふふ、ど~んと任せなさ~い!!」




―――全ては僕の過去を…僕の全てを受け入れてくれた彼女のために…




「ねぇ、フィノ…」


「なに?」




―――僕が愛し、僕を愛してくれた彼女のために…




「…励ましてくれてありがとう。愛してるよ♪」


「私もよ…///」




 顔を少しだけ赤くしながら、二人は夜の街へと繰り出していった。まるで誰かからの御褒美のように、この日は二人の時間を邪魔するようなモノが現れることは無かった…。
















―――けれど翌日、ソレは早速やって来た…。



「おはようございます!!今日、隣に引っ越してきたアイカ・クラリーネです!!あ、つまらない物ですがコレどうぞ…」


「何でだよ!?」



―――ゆっくりと…しかし、確実に歯車は回っていく……



「う~ん…、やっぱり先輩は引っ越し蕎麦より御茶菓子の方がよかったですか?」


「そういう意味じゃ無い!!って、フィノも普通に受け取らないで!!」


「え、駄目?」



―――本当にゆっくりでのんびりだが…


その前に人物設定でも書こうかな…?

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