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マジシャンな黒猫の辿る未来  作者: 金貨の騎士
マジシャンなマジシャン
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第一章 しがないマジシャン

ザ・リベンジ!!


感想・御指摘、お待ちしております!!

 とある世界のとある国に存在するとある街。様々な大きさや形を持った建築物が並ぶその街に、小さくて綺麗な公園があった。その公園の広場の中央にやって来て、中型のトランクを足元に置きながら声を張り上げる一人の青年が居た。



「レディ~ス・エ~ンド・ジェントルメ~ン。タネも仕掛けもいっぱいのマジックショーが始まるよ~」


「あ、手品師のお兄さんだ!!」


「マジか!!おい皆、今日は来てるぞ!!」



 シックなスーツとシルクハットに身を包んだ黒髪で黄色い瞳の青年が発したその言葉に、周囲の人間が老若男女問わず続々と集まる。その全員が期待と羨望の眼差しを彼に向けていた。


 実は彼、この街では結構有名な『マジシャン』である。定期的にふらりとこの公園にやってきては摩訶不思議なマジックショーを披露し、毎度この街の人間達の視線と興味を一身に浴びていた。



「ハ~イ!!皆さん、このインチキだらけのマジックショーにお集まり頂き、ありがとうございます!!このしがないマジシャンの戯れ、特と御覧くださ~い!!」



 初っ端から夢をぶち壊すようなセリフを芝居がかった口調と仕草で彼は言う…。しかし、見物客達は気にしない。むしろそれに拍手を持って応えた。


 彼のこの口上はいつもの事だし、例え言った通りトリックだらけだったとしても摩訶不思議で見応えがあることに変わりないからである。



「それではまず、そこのアナタ!!」


「え、俺…?」


「ちょっと、凄いじゃない。行ってきなさいよ!!」



 彼はいきなり見物客に居た一人の若い男性を指差す。指名された男性は彼女連れのようで、デート中にたまたまここを通りかかったみたいである。


「はい、そこのアナタです。ちょっと此方へお願いします」


「あ…はい、分かりました!!」


 彼女に後押しされたのと、格好良いとこを見せたいためか男性はハリキッテ前に出る。それを確認したマジシャンの彼は商売道具がギッシリ入ったトランクから何かを取り出した。そして男性にそれを手渡してこう言った。



「じゃあ、お兄さん。早速ですがコレを開いて(・・・)下さい。」


「……へ…?」

 

 

 手渡されたものを見て男性は思わず固まる。正確にはどうすればいいのか分からなかったのだ。何故なら、彼が手渡して『開いて』と言ったのは…。

 


「どうかしましたか?」


「……あの、開くって言われてもこれ…ステッキですよね?」



 彼に手渡された物は、そこら辺の紳士が持ってそうなステッキだった。綺麗な弧を描いた持ち手としなやかに伸びた本体を見るに結構値が張りそうなのは分かるが、一体どう『開け』と言うのだろう?


 そんな風に困惑していると、彼は『あちゃあ…』と言って近寄ってきた。



「これは失礼、杖じゃあ何も開けませんね。開くなら…」



 おもむろに懐から赤い布を取り出し、杖の持ち手部分に巻きつける。そしてそのままなぞる様に石突きの先端までそれを滑らす。すると… 



「ッ!?」


「傘ですよね!」



 一体何が起きたのか、黒い本体しかなかった杖に赤い布と骨組みが付き、立派な傘が完成した。早速の不意打ちに周囲の見物客も目の前で目撃した男性も驚きの声を上げる。



「では気を取り直して、傘を開いて下さい…さしてもいいですよ?」


「…ハッ!!はい!!」


 

 話しかけられて正気に戻った男性は慌てるように赤い傘を開く。ほぼゼロ距離で見たにも関わらず、何が起きたのかさっぱり分からなくて明らかに動揺していた…。



「それじゃ、そのままクルクル回して下さい。」


「こ、こうですか?」



 言われた通り男性は傘を上に向けたままクルクルと回転させ始めた。ふと視線をマジシャンに向けると、彼は右手に一個の白いボールを持っていた。



「そうそう、そのままそのまま…ホイ!!」



 え…ちょ、俺曲芸なんて出来ないよ!?という心の叫びが誰かに聞こえるわけも無く、そのままボールは男性が回す傘へと放り投げられた。しかし、ボールをあっさり落として白けた雰囲気と視線にさらされる覚悟を決めたその時…。



「「「「「「おぉっ!?」」」」」」



 周囲からどよめきの声が上がった。決して呆れた口調ではなく、むしろ驚いているようだ…。しかも、何故か傘の上に投げられたボールは未だに落ちる気配が無い…。


「え?え?何、何が起きてるんだ!?」


「は~い、お手伝いどうも。取り敢えず傘回すの、止めていいですよ~」



 困惑する自分を余所に、もう止めて良いよという彼。何が起きてるのかまるで分からなかった彼は困惑したまま傘の回転を止める。



「分かりま…」



---ボトボトボトボトボトボトッ!!



「え?」



 傘の回転を止めた途端、当然のようにボールが落ちてくる。だが、どういうわけか落ちてきたボールは一個では無かった。どう見ても彼が投げたボールは一個だけだった筈なのだが、足元に目を向けると明らかに10を超える数のボールが落ちていた…。



「ご協力ありがとうございました~」



 彼の言葉にハッとして邪魔にならないよう、さっさとその場から離れる。結局、最初から最後まで何があったのか理解できなかった…。


 だが取り合えず、自分に向かって羨ましそうな視線を送ってくる彼女の元へと戻っていく。近づいたら案の定さっきのことを言ってきた。



「凄いじゃない!!あの人の手品をあんな近くで見れて!!」


「でもサッパリ分からなかったよ…最後、俺が傘回してる時何が起きたんだ?」


「あの人がボールを一個だけ傘に投げたのよ。そしたら、傘の上を転がる一個のボールが二個に、二個が四個に…」


「…で、最終的に十六個・・・がコロコロと?」


「うん」


「どんな光景だよ……見たかったなぁ…」



 ゼロ距離ゆえ逆にその光景を目にすることが出来ず、男性は意気消沈する。そんな彼を励ますように彼女は彼の肩に手をポンっと置いた…。 



「続きましては、このボールを使ったマジックをお見せします!!…ほっ!!」



 気が付けば、マジシャンがさっきのボールを全て拾い集めてジャグリングを始めていた。プロ顔負けの腕前で十六個全てのボールを同時に使用してのジャグリングはそれだけでも見応えがあった。


 しかし、ここで数人の見物客が何かに気づいた。



「…ん?」


「あれ、減ってない?」



 彼の両手によってグルグル飛び回るボールが徐々に徐々にとその数を減らしていってるのである。別に落としてるわけでも、しまってるわけでもなく何時の間にかどこかへと消滅していってるのだ…。


 やがてその数が一個に戻ったとき、彼はそれを空高くに放り投げた。



「はい御注目…それ!!」



---パァン!!



「「わ!?」」

 

 

 突如、大きな破裂音と共にボールが破裂した。周囲に居た人間は思わず目と耳を塞ぐ…。しかし、辛うじて目を閉じずにボールを凝視し続けた者は、ボールが破裂して鳩に変身する瞬間を目撃した。


 ボールから生み出した鳩は、そのままマジシャンの肩へと舞い降りた。鳩を肩に乗せた彼は少しだけ申し訳なさそうな表情を見せながら笑みを浮かべた…。



「ちょっと火薬の量が多かったみたいですね、ごめんなんさい…。では、気を取り直しまして…!!」



 その後も彼のマジックショーは続いた。肩に止まった鳩を鶏に変えたり、その鶏が生んだ卵からトランプを取り出したり、そのトランプの絵柄を変幻自在に変化させたり…。


 本人はタネも仕掛けも盛り沢山と自称しているが、集まっている人間達からすればそんなことはどうでもいい。例えその通りだったとしても、見てるこっちは充分過ぎるくらいに楽しい思いをさせて貰っているのだから…。


 けれども楽しい時間は早々に過ぎ去っていくもの…。トランプの束を、最初に取り出した杖に変化させるというマジックを最後に、とうとう今日の分の公演は終わりを迎えた。


 

「はい、今日はここまで!!皆様方、御拝見御視聴ありがとうございました!!」


「凄かった!!」


「楽しかったよ、お兄さん!!」


 

 少なからず終わりを惜しむ者も存在したが、見物客は全員満足げな表情を見せていた。



「どうもありがとうございます。ついでと言っては何ですが、このしがないマジシャンの帽子に皆様の御機嫌を少々お分け下されば幸いです…。それでは皆様、改めましてありがとうございました!!」



 そう言って彼は被っていた帽子を脱ぎ、見物客達の前に差し出す。それを見た人たちは全員財布に手をやり、中から小銭やら札やらを取り出した。


 純粋に楽しんだので払おうという者、彼のファンだという者、また来て欲しいと願う者、『マジシャンの帽子は四次○ポケット』という都市伝説を確かめる者…様々な理由で様々な人たちが彼の帽子に財布の中身を少しずつ入れていった。


 すると、序盤で指名してショーを手伝ってもらった男性が連れの女性と一緒にやってきた。その手には他の人たち同様、小銭が少なからず握られていた。 



「今日は楽しんでいただけました?」


「御陰様でとっても」


「それは良かった。ところで、お二人は恋人同士ですか?」


「えぇ、まぁ…。」


 

 照れくさそうに顔を若干赤くしながら男性は答えた。隣の彼女さんも嬉しそうにしている所を見るに、互いの仲は良好のようである。


 

「お似合いですよ、お二人さん♪」



 そう言って彼は金が大量に投入された筈の帽子をクルリと回しながら被った。



「あ、お金を…」


「今日は手伝って頂きましたのでサービスいたします。その代わり、次回もまたお越しくださいね?」


「…はい、絶対見に行きます!!」



 その返事に満足した彼は仕事道具を纏め終わり、集まってくれた見物客達に向かって仰々しいお辞儀をしながら最後の口上を告げる。



「それでは皆様方、このしがないマジシャンによる次回のショーをお楽しみに!!」 



 そう言って彼は二人に背中を向け、トランク片手にその場を立ち去っていった。その背中にしばし視線を向けていた二人だったが、途中彼が何かの仕草を見せた…。


 こちらの視線に気づいているのか知らないが、こちらに背中を向けたまま仕切りに自分自身のスーツのポケット部分に指を差してるのだ…。


 その動きにつられる様にして 男性は自分のポケットに手を突っ込む。すると、突っ込んだ手に何かが触れた…。



「…何だこりゃ?」


 

 思わず触れた何かをポケットから取り出してみる。すると中から出てきたのは小さな袋だった。不思議に感じながらもさらにその袋を開いてみると…。



「へ!?」


「嘘、何これ!?」



---同じ形したイヤリング(ルビー付き)が2セット入っていた…。



「ちょ、何でこんなあからさま高そうな物が…!?」 


「…あれ、何か紙が入ってるよ?」



 彼女の言う通り袋にはイヤリングと一緒にメモ用紙が入っていた。慌ててそれを手に取り、書いてある文字を確認すると…。



『御似合いなカップルには、ペアルックと良き思い出がよく似合う♪…byしがないマジシャン』



「御似合いな…」


「カップル…」



 そのメモに書いてあったメッセージに目を通し、同時に顔を上げて視線を合わす二人…。



「…次も絶対に見に行こうな///」


「…うん///」



 末永い付き合いになりそうな二人は、互いに顔を赤くしながら頷きあうのだった…。










「ふい~今日も絶好調!!……いや、ジャグリングは改善の余地ありだったな…」



 今日の稼いだ分を少しだけ使って買ったコーヒーを口にしながら、彼は日も沈みかけた薄暗い帰り道を歩いていた。この街は本当に混みごみしており、先程のような公園の近くでもない限り日光が建物に遮られてすぐに暗くなる。


 なので彼は自宅がある商店街へと向かうため、今歩いている住宅街を足早に突き抜けようとしていたのだが、途中で何かに気づく…。



「…おや?」



 住宅地の中では比較的人通りの少ない路地裏に小さな人影が見えた。それは10歳にも満たない少女であり、膝を抱えながら蹲る様にして座り込んでいた…。


 身なりが左程汚れていないところを見るに身寄りが居ない捨て子ってわけでもなさそうだが、それだけで色々と判断するには早計である…。



「やぁ、お嬢さん。どうかしたのかな?」


「…お兄さん、誰?」



 なので取り合えず声をかけてみる。同じ高さの目線になるようにしゃがみ込んで話しかけると、女の子は声に反応して顔を上げた。すると、彼女の頬には涙の後が付いていた…


 それを見た彼は、迷うことなくすることを決めた。



「ふむ、僕が誰かって?…ふっふっふ、君には特別に教えてあげよう。」



 そう言って彼はゆっくりと自分の帽子に両手をやる。そしてしっかりと帽子を掴み、それをパッと勢いよく脱いだ。すると、彼の頭上には…。



「じゃ~ん、兎さんで~す♪」


「ッ…!!」



 なんと帽子を脱いだ彼の頭上に兎の耳が生えていた。予想外の出来事に女の子は視線が釘付けになる。しばらく彼の頭上を凝視していたが、やがて再び帽子を被ることによって兎の耳は見えなくなった…。



「あ…」


「ははは、兎と見せかけての~コレだ!!」


「はわっ!!」



 そう言ってまた帽子を脱ぐと、彼の黒髪の頭上に今度は黄色い三角状の…狐の耳が生えていた。兎の耳が見えなくなって残念そうな声を出した女の子は再度驚きの声を上げる。心なしかあちらもテンションが高くなってきた様だ…。



「わぁ~…お願いお兄さん、もっと見せて!!」


「よ~し、じゃあ次はコレだ!!」


 そして次に彼の頭上に出現したのは、彼の髪と全く同じ色をした猫耳だった。それに合わせて彼女もキラキラとした視線を送ってくる…。


「可愛い!!……あれ?」


「ん?どうかしたのかな?」


「お兄さん、″横のお耳″が無くなってるよ?」


「ハハハ、ナニヲイッテルノカワカラナイヨ?」


「……お兄さん、さっきと違って耳…動いてない?」


「キノセイキノセイ。だからお願い、あまり見ないで…」


 

 恐ろしくギコチナイ口調と動きで帽子をゆっくり被り直す…。ちょっと調子に乗りすぎたと今更ながら後悔するが最早手遅れ、彼女の視線は自分の頭に釘付けである。


 これ以上墓穴を掘る前に話の話題を変えようと試みる。



「取り敢えず、僕の名前は『アスト』。君は?」


「『リリアンヌ』って言うの。お兄ちゃん、もう一度お耳見せて!!」


「それはちょっと勘弁…。代わりにこれをどうぞ」



 そう言ってアストは、さっき手に持っていた缶コーヒーを手で覆う。そして手をどけた瞬間、飲みかけだった缶コーヒーは未開封のオレンジジュースに変わっていた。


 それを見たリリアンヌは、嬉々として差し出された缶ジュースを受け取った。



「ありがとう!!お兄ちゃんって、手品師なの?」


「い~やっ、マジシャンさ…」



取り敢えず名前を聞けたし、ジュースとマジックで御機嫌も取れたので、アストは本格的にリリアンヌに事情を尋ねようとした……のだが…。



「…ハッ!!殺気!?」



 背筋が凍る程のプレッシャーを感じ、アストは思わず後ろを振り向く。すると、路地裏の入口にやたら見覚えのある人物が立っていた…。


 その人物は自分と同年代の少女。バイクに乗っていたのか赤いライダースーツを身に着けており、髪留めで纏めた長めの茶髪、綺麗な緑色の瞳…。


 可愛さと美しさがバランスよく合わさった容姿は、ぶっちゃけアストの好みドストライクである。



「ア~~ス~~ト~~?」


「フィ、フィノ…?」



 しかし、そんなことを考える必要も余裕も無い。彼女に関することなら、アストは誰よりも知っている。逆に彼女…『フィノーラ』もアストのことを誰よりも知っている。



「依頼を受けてから早半日…中々その子見つからないと思ったら原因はアンタかあああああああ!!」


「ちょっと待って!!多分なにか誤解してグゥボオァ!?」



---でも、出会い頭にスクリュードロップキックを決めてくるのは予想外だった…


 

明日中に序章は終わらせたい…

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