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いつも心にBGMを  作者: 六助
首切り魔
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冬の少年

 未だに消えることの無い冬の世界。

 雪が降り積もった大地を、俺はスコップを手に掘り進めていた。

 俺の傍らには、頭の割れた赤毛の少年が横たわっている。

「力任せに掘り進めるのは感心しないね。ここの土地は荒れているから、石が多くてスコップの刃が弾かれてしまう」

 赤毛の少年は、自らの頭から、その髪と同色の液体を零しているというのに、なんでもないように言葉を紡ぐ。

 それそのはず、これは夢なのだから。

夢なのだから、どんな理不尽も許される。いつまでも変わらない冬に閉じ込まれていよおうが、死人に口があるどころか、口が減らないのも仕方が無い。

「それにしても、人一人が十分に入る穴を掘るというのは、思ったよりも重労働のようだね。この体が動けば、君を手伝ってあげるのもやぶさかではないのだが、今の私の役割は死体でね。困ったことに、指一本動いてくれないな。まぁ、こんな状況でも、相変わらず口だけは十分に動いてくれるのだが」

うるさい。本当にこいつはうるさい。

俺が殺す前から、この【魔法使い】は本当に締りの悪い蛇口のように言葉を垂れ流し続けていた。そして、死んだ後も、俺に付きまとって戯言をほざき続けてやがる。

「おいおい、冷たいじゃないか。私は言わば、君が作り出した罪の象徴みたいなものなんだよ? 言わば、君とは切っても切れない関係なのさ」

 そういうことは、さっさと輪廻転生して、女に生まれ変わってから言え。

「そうだね、来世で君と縁があったらそうさせてもらうよ」

 俺はしゃべる死体の隣で、ひたすら穴を掘り続ける。

 今日の夢は、そんな内容だった。

 

 

「杏奈さんって、兄と仲が良いんですよね?」

 二人で格闘ゲームに熱中しているとき、ふと、思い出したように冬花ちゃんが私に尋ねてきた。ああ、その質問が冬花ちゃん以外の人から言われたものだったら、まっさきに、NOと答えられるのに。

「あの、もし良かったら、兄が学校でどんな生活をしているか聞かせてくれませんか? 冬治さんったら、全然、私にそういうことを話してくれないんです」

 可愛らしく唇を尖らせて言う冬花ちゃんの姿に、私は愛らしさと憎らしさを覚えた。もちろん、憎らしさはあのロボット君に対して。

 あんなロボット野郎に、どうしてこんなに綺麗で可愛くて完璧な妹が居るのか? 私は神様の気まぐれを呪いたくなるけれど、そもそも、冬治くん(クラスメイト)の妹でなければ、冬花ちゃんとは接点が無かったわけで。

「あははは、それじゃ、格闘ゲームで私の本気に勝てたら教えてあげるよー」

「むー、ずるいですよ、杏奈さん。杏奈さん、凄く強いのに」

 複雑な気持ちで私はコントローラーを握り、笑顔のままリミットを解放。

 ゲーマーとしての誇りと、ぶっちゃけ冬治くんとは友達でもないでもないことをごまかすため、私は今日、限界を超える。

「冬花ちゃん、悪いけど、今日は手加減できないよ」

 お互いにキャラクターをセレクトし、画面が切り替わった。戦闘開始を告げるゲームの声が、私を修羅へと変える。

 数十分後、負けに負け続けた冬花ちゃんは、ついにふて腐れた。

 

 

 えー、そんなわけで、ふて腐れてしまった冬花ちゃんの機嫌を直すため、嫌が応でも冬治くんの学校生活を語らなければいけなくなりました。

 あまり気乗りはしないのだけれど、あの帰り道以来、私と冬治くんはまともに口も利いていないというか、どの顔をして話せば良いのかわからないし、元々そんなによく話していたわけでもないので別に良いかとごまかしていたし、逆にいい機会なのかもしれない。

 それに、私も、心が読めるという少年の日常というものを観察してみたいのだ。

 朝、冬治くんは気だそうに登校してくる学生に混じって歩いている。耳元にはイヤホンが。どうやらウォークマンで音楽を聴いているらしい。遠目から観察している限りでは、どんな音楽を聴いているのかまではわからない。案外、格好つけて洋楽でも聴いているのかも?

 授業中、特に変わった様子は見当たらない。無表情で背もたれに寄りかかって時間を過ごしている。先生に当てられても、困った素振りも見せずに解答した。ひょっとして、心を読んで答えをカンニングしているのかもしれない。あ、でも、普段は心を読まないようにしているって言ってたしなぁ。

 昼休み、机に突っ伏して、静かに寝ている。寝息すら聞こえない静かな眠りだ。寝不足なのかもしれない。あ、委員長に叩き起こされた。どうやら、委員会の集まりがあるので、副委員長である冬治くんも出席しなければいけないのだとか。冬治くんは無表情のまま、面倒だからという理由で丁寧に断った。委員長は小動物のような奇声を上げて、冬治くんの頭にかかと落しを喰らわせる。良い気味だ。けど、委員長、下に短パン穿いているとはいえ、スカートでそれは無いと思う。

 放課後、どうやら冬治くんは帰宅部のエースみたいで、真っ先に下校した。しかし、そうなると少し疑問が残る。実は私も最近は帰宅部のエースに近い存在で、真っ先に冬花ちゃんの家に遊びに行っているのだが、今までに一度も鉢合わせしたことが無い。というか、最初に紹介してもらった時以外、私は冬治くんを彼女の家で見たことが無い。

 疑問に思ったので、とりあえず尾行してみることにする――――

「一体、何をしているんですか? 大森さん」

「ひぃあうあっ!?」

 背後からの声に、私は思わず奇声を上げてしまった。

 恐る恐る振り返ると、いつもどおり無表情の冬治くんが、若干怪訝そうに私を見ている。い、いつの間に後ろに回られたんだろう? さっきまでは私の前に居たはずなのに。

「というか、朝からずっと、俺のことを観察していましたよね?」

「な、なんのことやら・・・・・・」

 私は冷や汗を掻きながら目を逸らす。

 すると、冬治くんはしばらく無機質な瞳で、じぃーっと私を眺め、何か納得したほうに手を打った。

「ああ、妹に俺のことを質問されたんですね。なるほど、だから俺と友達でもなんでもない大森さんは俺を観察していたと」

「人の心を読まないようにしているんじゃなかったの!?」

「ケースバイケースです」

 あっさりと言い切る冬治くん。

 うわぁ、やっぱりこいつむかつくなぁ。

「・・・・・・はぁ、あのですね、大森さん。そういうことだったら、素直に俺に訊いてくればいいんですよ。妹が質問しそうな項目をしぼって、適当に俺のプライベートを切り売りしますから」

 本当に、むかつく。なんでそんなに自分をあっさり切り捨てられるのかがわからない。

「まったく、大森さんが余計なことをしたせいで、折角、鎮火させておいた、俺と大森さんが付き合っているという噂が盛り返しそうになっているんですよ? 本当、いい加減にしないと、いくら俺だってぶち切れますからね」

 おまけに、さりげなく私のフォローもしているから最悪だ。なんで頼まれもしていないのに、私が告白したときの後始末をしているんだろう? 本来だったら、その後始末は私の役割なのに、私は冬花ちゃんと会えたことに浮かれていて、すっかり忘れていたんだ。

「冬治くん、なんで怒っていないの?」

 気付いたら私は、そんな言葉を口にしていた。

「正直、私は私がやったことが、最低だと思っているんだよ? 君を利用するつもりで勝手に告白して、冬花ちゃんを紹介してもらったその日に、何の事情もしらない私風情が、冬治くんの兄妹関係に口を出して。挙句の果てにはこの始末だよ。いくら、恋する乙女だからって、こんなのはダメ過ぎると思う」

 口が勝手に滑り出す。

 頭では制止しているんだけど、口が動くのやめない。

「なのに、さっきの言葉からはまるで怒りが感じなかった。ただ形式的に、怒る振りをしていただけだ。私が、怒られた方が罪悪感を減らせるから、ただ、そうしただけなんでしょ? 機械的に、無機質に、ロボットみたいに!」

 私は目の前の異常者を睨みつける。

「人の心が読めると、自分の心なんてどうでもよくなるかよ!? 怒りたいなら、ちゃんと怒れよ! むかついたら、ちゃんと苛立てよ! 自分を犠牲にして、『はい、お仕舞い』だなんて、おかしいだろ!? だから、だから私は君が嫌いなんだ!」

 言ってやった、言ってしまった。

 なんという逆ギレ、さすが現代っ子という感じだよ、私。うあぁ、どうしよう? 今更になってなんか、後悔がふつふつと湧き上がっているんだけど。

 私が頭を抱えて悶絶したいのを我慢して、冬治くんと向き合っていると、冬治くんはぽつりと呟いた。

「大森さんは正直ですね」

 顔は無表情のままだったけど、そのとき、私には冬治くんが微笑んだように見えた。

「だから、俺は貴方が嫌いになれないんですよ」

「・・・・・・あ」

 何か言おうとした、けど、何も言えない。その前に、冬治くんが私に問いかけてきたから。

「大森さんは、俺と冬花さんの間に何があったのか、知りたいですか?」

 私は、躊躇うことなく頷いた。


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