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いつも心にBGMを  作者: 六助
最後の魔法使い
41/45

因果はつながり、罰が来る

『さーて、次のお便りは……ハンドルネーム『ファウスト』さんからー! えーっと、何々ぃ! カタリ様こんばんは。私は今、人生ではじめての恋をしています。恋の相手はバイト先で知り合った年上の人なんですけど、その人はとても優しくてかっこいい人で地味な私と吊り合いがとれません。彼のためを思うなら、このまま身を引いた方がいいのでしょうか? っと、うん! ネガティーブ! ネガティブすぎんぜ、ファウストさん! 恋なんて所詮精神病の一種だぜ! だから、病人は病人らしく熱に浮かされながらラブっちゃえばいいのさ! 相手がどうこうじゃねぇ! まずは自分がどうしたいかとよく考えることだな!』

 深夜。

 私は宗次君のアパートで、彼を待ちながらラジオ番組に耳を傾かせていた。

 そろそろ寒くなってきたので、彼のベッドから無断で毛布を拝借し、ちょっと気合を入れて作ったホットココアを飲みながら一息。これが、もっぱら、彼が深夜のバイトから帰って来るのを待つときのスタイルだ。

「まずは、自分がどうしたいか、かぁ」

 それが分かれば、苦労しないと思う。

 私はだらん、とテーブルに突っ伏して、最近の私の【魔法使い】としての活動を思い返してみた。何人か、私がばらまいた噂を辿ってやってきた愚か者たちに、魔法具を渡したり、後はその魔法具に食いつぶされた奴をちょちょっと改造して、自分の兵に仕立て上げたり。こんなことをしても、冬の王や委員会の化物どもに対抗できるかわからないけど、何もしないでじっとしているのだけは嫌だった。

「でも、身の安全だけは保障されているからなー」

 しかし、ぶっちゃけてしまえば、私は『最強』である宗次君に守られているわけで、宗次君が私の隣に居てくれる限り、どんなことが起きても大丈夫なんじゃないかと思うのだ。と当時に、ただ守られているだけの存在になりたくない、というわがままもあるのだけど。

 いや、そもそも、私は何をやっているのだろうか?

 先代の【魔法使い】は、私と同じ、もしくはそれ以上の窮地に立たされてなお、自分の狂気を貫いた。貫いた上で、冬の王に殺されていったのである。なのに、今の私ときたら、自分の狂気を自分自身で殺してしまっているではないか。

「う、うがー」

 唸り声を上げて、のそりと私は顔を上げる。

 駄目だ、こんなぬるま湯につかっていたんじゃ、駄目だ。なに、通い妻みたいなことをして、まんざらでもない気持ちになっているのだ、私は! そんなんじゃないだろ! 私の世界に対する憎悪と嫌悪は! 私は、この世界を自分の狂気で染めてやりたいんじゃないのか!?

「…………でも、そもそも私の狂気って?」

 自分で口に出して、自分で気付く。

 もしくは、最初からわかっていて見逃していたことから、逃げ切れなくなった。

 私は狂人である。

 それは間違いない。

 世間一般の感覚と私の感覚は大きくずれていて、人が顔をしかめてしまうおぞましい出来事が大好きだ。でも、それはあくまでも『趣味』の範疇。ライトノベルというジャンルの中で、マイナーな作家の著作が好きだと言っているようなものである。私はそれなりの情熱をもってそれを愛しているけれど、信念になるほど強固ではないし、他の人間が違う趣味でもそれはそれで寛容してしまうところがある。

 結局のところ、私はこの程度なのだ。

 逃げるのだけが上手い、三下の愉快犯。序盤で主人公たちに倒されるはずだった端役なのに、何の因果かクライマックスまで生き延びてしまったみたいな。

 おまけに、今はそこら辺の女子高生みたいに恋に浮かされて、深夜のラジオにお手紙を投稿しちゃったりしているのだ。もう、死んだほうがいいんじゃないかと思う、私。

「でも、死ぬのは嫌だしなぁ」

 とりあえず、私が恋していることだけは確かなので、この恋をさっさと終わらせよう。んでもって、想いが成就しても破れても、思うが侭に世界を蹂躙してやろう。私の狂気がどこまで通用するのか、試してみよう。

 なに、宗次君がいざとなったら助けてくれると思うから……助けてくれなくても、それはそれでいいし。どの道、私がどうあるべきかを定めるために、自分の全力を尽くしてみるのだ! そうすればきっと答えがでるはず――――


「『冷たき世にこそ咲き誇れ(ウィーク・スノウ・フラワー)』」


 まず感じたのは衝撃。

 地面にいきなり真横からたたきつけられたみたいな、途方も無い、固い衝撃。

 シェイクされた脳と、辛うじて残った左の鼓膜が破砕音を感知する。吹き飛ばされたと理解するまでにコンマ数秒、そこから【グリモワール】を使用し、重力制御。吹き飛ばされながら、体制を立て直し、衝撃が来た方向へ視線を向けた。

「遅いですよ」

 脳髄を刺すような冷たい声は、耳元で囁かれた。

 同時に、体の到るところから白い花が生えてきた。まるで、体内から自然に発芽し、そのまま早送りで花が成長していくような、そんな違和感の塊が、私の体にたくさん。

これは【異能】による攻撃? 効果は?

「吸い尽くせ」

 この攻撃から逃れようと、私は陽炎の魔法を使おうとするが、なぜか、魔力が集まらない。上手く使えない。それどころか、体中から魔力が消え去っていく。

 そうか、この花は私の魔力を養分にして…………ああ、もう、まったく。

「それでは、しばらく眠っていてください。あ、安心していいですよ。私は貴方と違って嬲る趣味はありませんから、貴方の最愛の人が死ぬのを見せ付けてから、貴方もすぐに後を追わせてあげますね」

 美しい黒髪を靡かせた女性が、アスファルトに落ちた私を、ぞっとするような笑みで見下しているのを眺めながら、つくづく思う。

 ままならないなぁ、人生って。



●●●



「とまぁ、そんな経緯があって、私がこうやって顕在化しているわけだよ。わかったかい? 佐々木君」

「はぁ……大体は」

 有里さんの顔をした【魔法使い】クロウリーから、僕は白鷺さんがこうなった経緯についてざっくりと教えてもらった。うん、蚊帳の外感ぱないんですけど? えーっと、白鷺さんが存在ごと消えかけていた有里さんと杏奈さんを助けるために、【全能】の力を宿す人格を解放してしまったと。んでもって、その結果、僕がこうして拉致られて、世界を賭け金にして、賭けをしているわけだ。

「すみません、何がなんだかわからないんですけど?」

「乙女心なんてそんな物じゃないかな?」

「乙女心がどこに関係してんっすか?」

 僕が質問すると、クロウリーは笑顔のまま数秒首を傾げた後、ぽん、と手を叩いて何かを勝手に納得しやがりました。

「ああ、君って鈍感なんだね」

「いきなり失礼な」

「や、だって女性からあんな過激なアプローチを受けてもさっぱり理解できていないのなら、鈍感としか言いようがないじゃないか」

 くすくすと、僕を小ばかにするように笑うクロウリー。

 ……えっとつまり、ひょっとして。

「カナエって僕のことが好きでこんなことしてんの?」

「むしろ、君の気を惹きたいがためにこんなことをしているんだろうね」

「世界も巻き込んで?」

「あれによっては世界なんてどうでもいいんだよ。君に比べたらね」

 愛が重いです。

「でも、だよ? カナエによって僕なんて、隣人が恋した普通の男子に過ぎないじゃん。話したことだって、さっきが最初だよ? なのになんで?」

「さぁ? 私に乙女心は理解できないからね。ただ、一つだけ訂正させて貰えるのなら、アレは隣人じゃないよ。むしろ、隣人そのものだ」

「……へ?」

 口をぽかんと開ける僕に、クロウリーは『頼れるお兄さん』みたいな笑顔で、僕の胸元を指差す。

「ヒントはここまでさ。後は自分の胸に訊くといい。その方がアレも喜ぶだろう」

「は、はぁ」

「ちなみにこの会話はカナエに聞かれないように工夫してあるから、ご心配なく」

 気遣いがそつなく出来る人だなぁ。

 この人が本当に、もろもろの出来事の元凶が疑いたくなってくるほどの気さくさだけれど、心のどこかが、目の前の人物と触れ合うことを強く拒絶している。感情とか、そういう問題ではなくて魂が目の前の存在を拒絶しているのだ。

「じゃあ、そろそろ君が私の存在に拒絶感を覚えてくる頃だろうし、さっさと退散するよ。何か恨み言とかあるかい?」

「あの、恨み言とかいきなり言われても」

「いいのかい? 元と正せば私が存在しているから、君の学校に通っていた罪の無い生徒が診断だよ? 後は罪の無い一般人とか。さすがに全部生き返られろは無理だけど、君の知り合い程度だったら蘇生してあげてもいいんだけど」

「あ、それは遠慮しときます」

「ふふっ、即答かい」

 何が愉快なのか、微笑を零すクロウリー。

 や、だってねぇ。さすがに僕の友達が死んだんだったら、少しは考えるけど、あんまり関わり無い他人が死んだところでね。それにほら、死者が生き返るなんて『普通』じゃないしね。

「君はなんでも『普通』と認識できるくせに、当たり前のことも『普通』に認識できるんだね」

「言っている意味がわかりませんが?」

「君は凄い奴だって褒めているのさ。【魔法使い】の誘惑を撥ね退けた奴は早々居ない」

「まず【魔法使い】に会ったって人が少ないですよ」

 それもそうだ、とクロウリーは肩を竦める。

 何だろう、この人は。

 前に会ったファウストよりも拒絶感を感じるのに、気付くと人の懐にあっさり入ってきている。その癖、またすぐに手の届かないところへ遠ざかっている。距離感が掴めない。本当にクロウリーが目の前にいるのすら、怪しくなるほどに。

「さて、振られてしまったことだし、私はここら辺でお暇させていただくよ」

「ちょっと、お暇って、ここに出口があるんですか?」

「出口は無いよ、そういう世界にあの【全能】は作った。けれど構成が甘いからね。私一人ぐらいなら上手く逃げることぐらいはできるのさ」

 な、なんかとてつもなく凄いことをさらっと言っているよーな?

「あ、そうそう。この塔の何処かに、私や冬治に対する人質として杏奈を隠していると思うから、君が上手くあれの意識を逸らして、外に向かないようにしてくれたまえ」

「そしてさりげなくむちゃくちゃな要求!?」

「心配しなくていいよ。困った時は抱きついてあげればいいから。あれは攻められると弱いタイプだよ、きっと」

「あんたは中学二年生に何を期待してんですか!?」

 僕の問いに、クロウリーは答える。

 穏やかな笑みを浮かべて。

 けれど、どこか有里さんらしい、不器用な笑い方で。


「もちろん、世界を救うことさ」


 無責任な期待を押し付け、クロウリーは消え去った。

 赤髪を梳くような突風が吹いたかと思うと、瞬く間にいなくなったのである。まるで、コマ送りで流していた映像の途中から無理やりその部分だけ切り取ったかのように。

「世界を救う、ねぇ」

 一体、あの人は何を言ってくれるのだろうか? そんなもの、『普通』の男子中学生である僕に出来るわけがないだろ。世界を救う云々で心が動かされるほど、僕は夢見がちじゃない。

 だけど、

「とりあえず僕が守りたいのは、大好きな女の子と『普通』の日常だけだよ、【魔法使い】さん」

 何もせずに自分の大切な日常が零れていくのを待つほど、大人じゃないから。

 うん、やれるだけやってみようじゃないか。


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