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いつも心にBGMを  作者: 六助
最後の魔法使い
39/45

神人

 気付いた時から、私は一人だった。

 桐の匂いがする木製のお城に閉じ込められて、ずっと一人で王子様が助けに来てくれるのを待っていた。

 誰も居ないのに、なぜかご飯が欲しいと思えば、ご飯が出てきた。

 何かを知りたいと思ったら、テレビと本が。

 欲しい物は、ある程度なんでも、どこからか誰かが置いていった。

 でも、どれだけ『他者』を欲しがっても、自分以外は誰もこの世界に居ない。だから、仕方ないから、王子様が私をここから連れ去るまで、自分で友達を演じることにした。

 ちょっとお調子物で明るいケリー。

 堅実で真面目なカトリーナ。

 いつもニヒルな笑みを浮かべているジョン。

 他にも、たくさん。

 自分で友達を演じているうちに、なんだか、その友達が本当に私の目の前に現れるようになった。最初は触れることも出来なかったけど、だんだんと、その感触がわかるように。

 いつの間にか、本当に友達が目の前に。

 それがなんだかとても嬉しいから、私はもっとたくさんの友達を作ろうとした。

 この小さな世界で、私は何でもできるような、そんな気分になっていた。多分、ものすごく傲慢で思い上がっていたと思う。

 だからきっと、彼女が生まれた。

「ねぇ、貴方はどうしてこんな狭い世界に居るの? 外に出ない? 楽しいことがたくさんあるわよ?」

 彼女は私にそう囁き、私はそれを受け入れてしまった。

 だって、私の中から生まれた者は、全部私の友達だったから。彼女の囁きを、悪魔の如き甘い誘惑に乗ってしまったのである。

 その結果が――――一面の焼け野原。

「あははははははっ! 吹き飛んで! ほぅら! 綺麗に舞って! 笑って! 散って!」

 私を閉じ込めた組織。

 私を利用しようとした悪党。

 私と関係ない部外者。

 その全てを等しく殲滅して、彼女は、『カナエ』は笑っていた。

 この時、やっと私は理解することが出来た。

 私が、とんでもない災厄を生み出してしまったことを。



●●●



 僕、佐々木幹二は平凡な中学二年生男子だ。

 これといって取り得もないし。

 これといって苦手なこともない。

 外見だって、そこまで地味じゃないけど、特筆して何かを挙げるほど目立つ容姿はしていない。強いて言うのなら、すこし、猫っぽいところがあるとか、言われているぐらいだ。

 そんな平凡な僕だったのだが、つい最近、彼女が出来ました。

 美少女です。

 超美少女です。

 クラスメイトからは祝福交じりの罵声を受けながら、日々を過ごしています。平凡な人生がモットーの僕だけど、さすがにこんな追加要素があるのなら、自分を『平凡』と評価するのにためらいを覚える。加えて、その美少女が実は世界を守る秘密組織の一員っていうんだから、さぁ、大変。なんか、異能バトル系のラノベみたいに、これから僕が主人公になって世界を救う物語が展開される妄想すら、してしまった。

 けれど、一時期を除き、僕と僕の彼女――白鷺さんの日常は実に平和である。特にこれと言って、大変なことは起きていないし。毎日、白鷺さんと楽しくTRPGが出来るし。強いて言うのなら、【魔法憑き】を何人か倒したぐらい。

 しかし、それももうすぐ終わり。どうやら委員会が本格的に【魔法使い】の排除に乗り出したらしく、少なくとも今年中にはその【魔法使い】の存在を世界から消す予定のようだ。

 決して、平凡とは言い切れないけど、なかなか平和な日常。

 こんな日常が、ずっと続けばいいと思っていた。

「うん…………そんなことをふと思い浮かべた時点で、分かってた! これがフラグだって、なんとなく分かっていたもの!」

 というわけで、はい。

 非日常タイムですよー。いえー。うわーん。軽く泣きたくなってきたけど、とりあえずそれは状況を把握してからにしよう。

 まず、落ち着いて整理していこう。

 周囲には何がある?

 木造の壁と、床。何処かの建物のなか? ここからじゃ、窓は見えない。ただ、桐の匂いがする。

 今は何時だ?

 陽の光がどこからか差し込んできているから、少なくとも、夜ではない。

 どうしてここに?

 理解不能。昨日、自分のベッドで横になって就寝した次の記憶から、ここに居た。しかも、パジャマでネタはずなのに、なぜか今は学生服姿だ。

 これは夢なのか?

 否定。夢であるのなら、余りにも五感が醒めすぎている。そして、軽く頬を抓ってみても、正常な痛みが返ってくるところからも、夢だというには余りにも現実味がありすぎる。

 どうしてここに?

 白鷺さん絡み? もしくは、僕がどこかの組織に情報目当てで拉致られた? 駄目だ、今の状況じゃ、どちらとも判断がつかない。

「なら、まずは白鷺さんと連絡を取らないとね。この状況が不可解であることには変わらないんだから。僕みたいな素人が判断するよりも、ケリーを通して白鷺さんと相談した方がいいだろうし」

 僕の左腕はとある事情があって、白鷺さんの異能【空想友達】によって補完されている。白鷺さんの人格の一つであるケリーが、自分の身体を変化させて、僕の左腕を模して体にくっ付いているのだ。本当はもっと、複雑で高度な技術が使われているらしいんだけど、ものすごく簡単に言っちゃえば、そんな感じ。だから、僕とケリーはいつでも会話できるし、軽く以心伝心みたいなことも出来る。人格の一部とはいえ、白鷺さんと一心同体になれたのだから、こう、左腕を失ったのも悪くないのではないかと思えてくる……と、惚気たものの。

「あれ?」

 いくら呼びかけても、僕の左腕は何も返してくれない。いつもだったら「いよう! 旦那! どうしたんですかい!? あ、これからナニやるんですか!? いいですねぇ! おれっちにも手伝わせてくださいよぅ!」と軽く引くレベルの下ネタで反応してくれるのに。

「僕の左腕があるってことは、ケリーが居なくなったわけではなさそうだけど。眠っている? いや、そもそも僕の意識をリンクしているところがあるから、僕が起きている状態でケリーが眠っているはずもないし」

 むぅ、やはり不可解だ。

 僕の情報目当ての拉致だったら、例え左腕を何らかの術で封じたとしても、こうして野放しにしておくメリットがない。人質にするのだって、もっとそれなりの扱いをした方が焦られることができるだろう。

 更に言えば、白鷺さんの異能の一部が常に守護している僕を、こうもあっさりと拉致するほどの実力者が居たとして、わざわざ僕みたいな奴の情報が欲しいのだろうか? 白鷺さんに対する人質だとしても、拘束一つも無し、というのもおかしい。

 なら、やはり白鷺さん関係だろうか? ケリーの反応が無いというのも、白鷺さんに何かが起きて、その結果、僕がここに居るのだとしたら――――白鷺さんが危ない。

「きゃっはー! 佐々木くぅーん!」

「へぶらっ!?」

 そこまで考えたところで、僕は腹部に強烈な衝撃を受けた。

「あーもう、佐々木君だ! 佐々木君の感触! 佐々木君の匂い! 佐々木君の味だ!」

 加えて、首をぎりぎりと細い腕で締め付けられながら、僕の頬を触ったり嗅いだり、舐めたりしてくる。

 お、落ち着け僕! ここは冷静になるんだ! たかが変態が襲ってきただけのことだろう? これくっらい、僕の日常ではもう『普通』になっているじゃないか! だから、僕はこんなことで動揺しな…………ギブ! ギブ! 息が! 息が! やっぱり無理でした。いくら精神面で慣れたとしても、肉体面は荒事には慣れません。ああ、くそ。せめて白鷺さんの腕の中で死にたかった。

「って、あ、れぇ? し、白鷺さん?」

「んー? なにかなー? 佐々木君」

 鈴の音が鳴るような声。

 柔らかく甘い匂い。

 背中に感じるうっすい感触。

 間違いない、この変態は白鷺さんだ! 

 僕は必死で腕を首から引き剥がしながら、白鷺さんに叫びかける。

「ちょ! 勘弁! また白鷺さんの悪戯!? もう、朝からいきなりは心臓悪いっていつもいってるじゃん! それで、今回はどの人格が悪戯してるの!?」

「……むふふ、さて、誰でしょー?」

 まるで猫の如く、僕に擦り寄る白鷺さん。白銀の髪がこそばゆく僕の首元をくすぐり、甘い微香が理性のたがを溶かしていく。

 えーと、白鷺さん?

「ねぇ、佐々木君」

 先ほどまでとはうって違い、撫でるように白鷺さんの白い手が僕の胸元を這い回る。今更だけど、気付いた。横目で見た白鷺さんの姿は、薄いキャミソールや下着に身を包んだだけで、他には何も着ていない。

「いいこと、しよっか?」

 這い回る手がやがて、僕のへその方へと伸びていく……その時、僕はため息混じりに腕を掴んだ。

「お前、誰だ?」

「…………えへっ。私は白鷺美鶴だよ? 偽物だと思う?」

 耳元で囁かれる甘い声。

 違う。

 確かに、声色はそのまんま白鷺さんだが、彼女はこんな甘ったるい声を出さない。

「本物だろうさ、少なくとも、その肉体は。でも、人格に違和感がありすぎる。君が白鷺さんから生まれた多重人格だとしても、主人格である白鷺さんがこんなことを許さない。彼女はアレで、ものすごく恥ずかしがり屋だからね」

「……女の子が勇気を出したと考えない?」

「だとしたら白鷺さんは、こんなやり取りせずにすっぽんぽんになって僕に襲い掛かってくると思う」

「あはははっ。確かに! あの子だったら、そうするね!」

 けらけらと笑いながら、白鷺さんの姿をした何者かは、僕から飛びのく。そして、ぱちんっ、と軽く指を鳴らすと、それだけで彼女の姿が下着から純白の着物へ変わった。まるで、手品みたいな所行だが、僕の知る限り、そんな能力を使える人格を白鷺さんは所有していない。

「初めまして、愛しい人」

 彼女は朱色の唇を、白魚の如き指で艶やかになぞりながら僕に告げる。


「私の名前はカナエ。白鷺美鶴が所有する人格の中で、唯一、彼女から生まれた者ではない存在。【管理者】の人格と能力の一部をコピーして、この身体に押し込められた哀れな女さ」


 白鷺さんの顔で、カナエと名乗った少女は笑う。

 哂う。

 嗤う。

 まるで、全てを見下す絶対者のように。

 世界を掌握する神様のように。

「そして、今は軽く世界の命運とか握っちゃっているかな?」

 僕を、世界を揺るがす大事件に巻き込んだ。



●●●



 意識の浮上を確認。

 異能系等による昏倒状態への強制保持を確認。

異能【全能】の脆弱性を確認。

異能【グリモワール】によりプロテクトを解除。

 メインプレイヤーの覚醒が確認されません。

 よって、魂の欠片を持つサブプレイヤーに一時的に存在を移します。よろしいですか?

「了承したよ」

 サブプレイヤーの了承を確認。

 これより、【サトリ】プログラムの稼動を終了いたします。良い人生を。

 ――――――こうして、私の意識が覚醒した。

「やれ、律儀に私のために自身の異能をプログラム化しておくとは。いやはや、どこまでお人よしなのでしょう? いえ、お人よしというよりは、自分に厳しいだけ、だね。この場合は」

 私は、いまだ身体を蝕む寒気を、魔法を使って完全に排除。他にも魂に不具合が無いか自己検査を行うこれど、特に異常は見当たらない。ふむ、さすが【全能】を行使する神人。まさしくご都合主義とも呼べる力だ。

「とはいえ、全知でないがゆえに、構成が甘い」

 私の意識が覚醒しないように能力をかけていたようだけれど、どうやってそうなるかを理解していないがゆえに、私にも付け込めるような穴があるのだ。けれど、さすがにこの隔絶された世界から離脱するのは難しいけれどね。

「ん……確かこれは、ああ、あの【殲滅者】が作られた場所じゃないか。なるほどね、彼女はここで生まれたからね。ここが一番イメージしやすいわけか」

 辺りを見回し、探査魔法を放つ。

 すると、無限とも思われる階層を持つ塔の姿が脳内に浮かび上がる。素材は木で出来ているようだが、現存する植物の中で、これだけの質量を支えきれる物は確認されていない。恐らく、【全能】の力をもってこの矛盾を成り立たせているのだろう。

「ふぅん」

 さて、あの全能者が何を考えているのか、私にはわからないし、どうでもいい。こうやって、彼との契約上、無事に復活したところだし、この隔離世界から脱出するのも、骨が折れるだけで出来ないわけじゃない。

 けれど、


「なぁ、私はどうすればいいんだろうね? 冬治君」


 今の私には、そうしなければいけない理由が、どうしても見つからなかった。



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