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いつも心にBGMを  作者: 六助
最後の魔法使い
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魔法使いの回想

 生まれた瞬間、私は理解した。

 『ああ、違う』と。

 余りにも周りの生物と、自分と、性能が違いすぎると。母親の中から這い出た瞬間に、私は理解してしまった。だからこそ、このまま『人』として過ごしていれば、いずれ軋轢が生まれるのは火を見るより明らかだったので、適当に自分の分身を作って姿を晦ませた。

 三歳の頃だった。

 私は生まれた時から、様々な魔術が使えた。

 なぜかはよくわからない。けれど、まるでそうであることが正しいかのように、始めから私の頭の中に数多の叡智が埋め込まれていたのである。その叡智を使い、私はただ、生きた。何も目的も無く、ただ、なんとなく生きていた。

 できないことなんてほとんど無かった。

 一見、出来ないように見えたことでも、それなりに研究を重ねればあっさり出来るようになったし。魔術を使えば使うほど、私はその叡智を極めて行った。

 けれど、私の胸の中にはぽっかりと、空洞があった。

 アレイスター・クロウリーとして生きている分身が、生き生きとオカルトに傾倒していたころ、本物である私は既にそれを極めきっていた。

 ああ、なんてつまらない。

 なんて怠惰な日常だ。

 こんな世界ばかりならば、いっそのこと――――

「よう、坊主! なぁに、湿気た面ァしてんだよ!」

 そんな時だった、私が【魔法使い】に会ったのは。

 彼は、私が呆然と街を歩いている時、なんでもないように私に話しかけてきたのである。誰にも見破れないと思っていた隠形の術を、あっさりと看破して。

 生まれて初めて、私は目を剝いた。

 なんだ、この男は?

 私が見た限り、男の姿はどこにでも居るような、スーツ姿のおっさんだった。多少痩せ気味でくたびれている者の、オカルトなどとは到底無関係に見える、おっさんである。

「くっくっく! 驚いたか! 『世界はつまらない』みたいな顔しやがって! どーだ! 世界はともかく、この俺は最高におもしれーだろ!?」

 後で知ったことなのだが、このおっさんが、異能【グリモワール】を継いだ【優しい魔法使い】だった。

「あんた、誰?」

「俺かい? みりゃわかんだろ、【魔法使い】さ」

 そういえば、本当に些細な噂なのだが、私はおっさんと出会う前に、時々、どう考えても魔術の理論を無視して、魔術を行使するような存在がいる、という噂を聞いたときがあった。

 なるほど、こいつがそうかと私は頷き、なんとなく嬉しくなったので笑った。

 やっと、少しは退屈を紛らわせることができる玩具が見つかったと。子供ながらの上から目線で、変に達観した態度でその【魔法使い】を評価していた。

 自分の浅はかさを理解するのに、そんなに時間は要らなかった。

「走れ走れ走れ、アレイスター! 追いつかれるとあの化物に飲まれちまうぞ!」

「そう言いながら遅れているのは貴方じゃないですか! というか、なんですかあれ!? 名状しがたい邪神みたいな奴は!」

「外宇宙からの侵略者だ! 耐性ない奴が見ると、ちょっとテンション下がるぞ!」

「むしろ、精神崩壊起こすでしょう!?」

 彼の行動ははちゃめちゃで、彼が見えていた物は私よりはるかに上で、私はただ、彼に振り回されてばかりだった。

 振り落とされないように必死でしがみ付いて、振り落とされたら拾われて。

 まるで、冒険小説かB級映画みたいな日常を過ごして。

 それなりに長い時を一緒に過ごした。

「あ、俺そろそろ寿命だったわ! 悪い、死ぬ! あ、ついでに【グリモワール】継いでくんね? ちなみに、答えは聞いてネェ!」

「おい。おっさん、いろいろとおい」

「んじゃな! あーばよ、来世であおーぜ!」

 そして、あっけなく【魔法使い】は死んだ。

 寿命だとかほざいて、口から血を吐いて、笑いながら死んだ。私が彼の死を本当に理解できるまで、少しだけ時間が掛かった。

 けれど、彼がなぜ、笑って死ねたのか、その理由が分からなかった。

 彼が死んだとき、私の頬に涙が伝わっていたことと、同じように。

 だから私は、さまざまな方法を使って、『人』について理解しようと努めた。色々なことを、本当にありとあらゆる実験を行った。

 聖人と呼ばれるような事だってしたし、

 悪魔と呼ばれるような事だってした。

 特に、人の心の闇に惹かれ、それを気に入って研究対象にしていた頃、余計なことに手を出して、私も冬治君にやられて、あっさりと死んだ。

 復讐者によっての殺害なので、少なくとも先代よりはそれなりに意味のある死に方だと自負しているが、やはり、先代がどうしてあんな風に笑って死ねたのか、理解できなかった。

 なので、冬治君に呪いをかけると同時に、彼に取り憑くことにした。

 彼に取り憑いていれば、理解できると思ったのだ。彼がどうして、笑って死んだのかを。


 彼と同じ色の魂を持つ、冬治君に取り憑けば、きっと。



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