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いつも心にBGMを  作者: 六助
首切り魔
1/45

プロローグ

 とりあえず、試験的に始めてみました。

 もう一つの連載の間の、息抜き的な感じです!

 もし良ければ、読んでやってください。


 2012/1/28 修正しました。

「いいですか? 男たる者、いつも心にBGMを流していなければいけませんよ。なぁに、難しい話ではありません。挫けそうな時、自分で自分が嫌になってしまった時、自分の好きな曲を思い浮かべるだけでいいんです。それだけでいいんです。それだけ出来るようになればきっと、貴方はどんな困難にだって向かっていけますよ」

 

 俺がまだ九九の計算も出来ない子供だった頃、親父がそんなことを言っていたのを、ふと思い出した。

 その時は親父が言っていることの意味も、親父がそれを言う意味もわからなかったけれど、『いつも心にBGMを』という言葉だけは、いつでも頭の隅に残っていたんだ。

 そして――――俺は中学三年の冬に、その意味を知ることになる。

「くくく、どうしたのかな? 今更になって躊躇っているのかい? 今更になって怖くなったのかい? ははっ、無理もないだろうけどね」

 吹き付ける雪の嵐が俺の視界を極端に狭めていた。

 だが、その灰色のフードを被った赤髪の少年の姿だけは視界に納めている。

 いくら雪が俺の手をかじかませようが、この手に握るちっぽけな鉄の塊だけは絶対に離さない。

「誰だって、人を殺すときは躊躇うし、恐怖するものなのだから」

 赤髪の少年が穏やかに微笑みかけてくる。

 自分の左胸にナイフが深々と突き刺さって、途切れることなく赤い液体が流れ出ているというのに、まるで苦痛を感じていないかのような表情だ。

 だからこそ、余計に俺の決意を鈍らせる。

 もっと醜く足掻いてくれれば、もっと未練がましく喚き立ててくれれば、その音に掻きたてられるように、この鉄パイプを振り下ろせるのに。

 吐き出す息は荒く、白い蒸気となって吹雪の中に消えていった。

「・・・・・・・・・・・・いつも心にBGMを」

 俺は魔法の呪文のように、親父が教えてくれた言葉を呟く。

 心の中でBGMが流れ始める。

 選曲は俺の記憶の中から一番印象に残ったもの。幼い頃、親父と一緒によく見ていたアニメの主題歌。

 今思えば、無駄に暑苦しい曲だったけど、この吹雪の中なら丁度良い。

 凍えそうな心を奮わせるには、これくらい熱くなければ。

 穏やかに笑う目の前の少年を見据え、俺は鉄パイプを振り上げる。

「ああ、やっと決意できたのかい? ま、このまま放っておいても私は死ぬわけだけれど、そうやって律儀に止めを刺すところが、彼の息子らしいよ」

「・・・・・・最後の言葉はそれでいいのか?」

 赤髪の少年は肩を竦め、苦笑した。

「この私にその猶予を与えるあたり、まだまだ甘いけどね」

「心配するな。俺なら、お前が抵抗する前に一撃で止めを刺せる。それに、今のお前はそんなことを考えていない」

「・・・・・・・・・・・・はははははっ! 前言撤回だ! 君は全然、甘くない。むしろ、その対極にあると言って良いかもね。全部わかりきっていて、その上で私に言葉を吐かせるだなんて、厳しすぎはしないかい? 私にも、君自身にも」

 俺は答えず、ただ愉快そうに笑う赤髪の少年を睨みつける。

 赤髪の少年は愉快そうに笑いながら、これから訪れる結末を受け入れるかのように両腕を広げた。

「祝福しよう、【サトリ】の少年よ! 【魔法使い】であるこの私を、単身で討ち破った君に、生涯最高の呪いを掛けてあげよう!」

 俺は、心の中で流れるBGMのサビに合わせて、鉄パイプを振り下ろす。

 嫌な感触が手に残った。

 嫌な音が耳に残った。

 ――――――救いなんて、無かった。

 

 中学三年の冬、俺は一人の少年を殺した。

 その代償として、俺の心は、この吹雪の世界に閉じ込められた。

 誰も居ない、孤独な世界に。


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