側室(仮)の外出。(4)
再び、過糖注意です。
苦手な方は回避して下さい。
「……!!」
一瞬で私は沸騰した。
眩暈がする。心臓が耳元にあるみたいに、ドクドクと煩い。
真っ赤な顔で固まる私に、陛下は苦笑する。最後に頬を一撫でしてから、陛下の手は離れていった。
そこで漸く私は、詰めていた息を吐き出す。深呼吸する私を見て、陛下は可笑しそうに喉を鳴らして笑っていたが、それに抗議するだけの余裕さえ無かった。
「お待ちどおさま!」
私が手で仰ぎ頬の熱を冷ましていると、料理が運ばれて来た。
威勢の良い声と共に、お皿が置かれる。さして広く無い卓一杯に、沢山の料理が並べられた。
「…………」
……どう反応したらいいのでしょうか。
これは、少なくとも初デート、しかも朝食で出てくる量じゃない。
恋人扱いしてもらった、と浮かれていましたが、もうすでに雲行きが怪しい。これは同性との飲み会、もしくは家族の食事会レベルです。
メニューも凄い。揚げ物あるしね。
初デートで牛丼屋に連れて行かれたって、昔、友達が怒っていた気がするけれど。
女扱いされていないって、落ち込むべきところですか?ここ。
……ああでも、何より残念なのは、私自身です。
凄い美味しそう!!
落ち込む所かテンション上がっている自分が、心底残念です!!
目を輝かせながら料理を見つめる私に、陛下は破顔する。
「食うか」
「はい」
どうやら呆れられてはいない様で、私は胸を撫で下ろした。
はしたないとは思うけれど、美味しそうな料理を前に、無関心を装うなんて私には無理です。
いただきます、と手を合わせてから箸をとる。
目の前にあるお皿には、薩摩揚げに似た物がのっていた。一つ取って口に運ぶ。
「!」
何コレ!美味しい!!
サックリとした表面に、中はもっちり。魚のすり身では無いようで、生地は割とアッサリしていて、酸味のあるタレと良く合う。
「気に入ったか?」
コクコクと頷く私に、陛下は笑みを深めた。
教えてもらったところに寄ると、材料は蓮だそうです。つまり蓮根餅みたいなものでしょうか。
その他の料理も、凄く美味しい。
気になっていた焼きそばもどきは、どちらかといえば焼きビーフンでした。米粉で出来た麺に野菜とお肉が絡んで、絶品。味付けは割とスパイシーな気がします。
「急がなくていいぞ。羹も頼んであるから」
ああ私、本当何しているの。
初デートで、こんなに一杯食べるとか……羹も凄く美味しいです。具沢山スープ最高。
半ば自棄になりながら、料理を堪能する。
羹の椀を置き、顔を上げた私は、此方をじっと見つめる陛下と、視線がかち合った。
「!?」
ゴクン、と喉が鳴る。一気に血の気が引いた。
ぴ、ピーンチ。
やっぱり呆れていました!?寧ろ引いた!?
「……?もう食わんのか?」
凍りついた私に、陛下は首を傾げる。
油切れしたロボットの様に、ぎこちなくかぶりを振る私を、陛下は不思議そうな表情で見たが、それ以上突っ込む事は無かった。
「美味いな」
「……はい」
美味しいです。美味し過ぎます。
そのお蔭でやらかしましたが……。
羹の具を咀嚼しながら、私は遠い目をした。
「何時もの料理も美味いが、今日は格別だ」
「……」
城の料理は、良い素材を使い、一流の料理人が作っているのだから、勿論美味しい。
けれど、毒見を終えた後に運ばれてくる為、どうしても冷めてしまう。
冷たくても美味しく味わえるよう考慮されているのだろうけれど、矢張り、暖かい料理にはかなわないでしょう。
陛下がご満悦な理由を、そう結論付けていた私は、軽く投げて寄越された陛下の言葉に、危うく吹き出しそうになった。
「お前と一緒だと、こんなにも美味く感じるものか」
「……はっ?え、えぇ!?」
手元が狂い、椀が卓に落ちた。幸い中身が少なかった為、零れる事無く、見事着地を決めたけれど。
動揺し過ぎでしょう私。
きっと陛下は、一人より二人で食べた方が美味しいって言っているのよ。うん。
落ち着こう……待って右手、箸が逆だから。
挙動不審な私に、陛下は輝く様な笑みを向ける。
切れ長な瞳が弓型に細められ、雄々しい美貌が甘く溶けた。
「毎日お前と一緒に食事出来たら、きっとオレは肥えてしまうな」
幸せ過ぎて。
そう笑う陛下に、私は撃沈した。
何処にご飯入ったか、分からなくなりそうなんですけれど……!