表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/120

側室(仮)の外出。(3)


 曲がり角を曲がった先に飛び込んで来た光景に、私は圧倒された。

見渡す限りの人、人、人。決して狭くは無い道幅一杯、人で溢れかえっている。



「……」


「逸れるなよ」



 口を半開きにしたまま固まる私の手を、陛下は引いた。人と人の間を擦り抜ける様に、器用に進む。

流されそうになりながらも私は、周りを忙しなく見渡した。

 


 朝市、というものなんでしょうか。

路上に敷いた布の上には、店ごとに様々な商品が置かれている。野菜や魚などの食品に、衣料品や装飾品。乾燥させた葉や虫など、一見しただけでは、どんな用途に使うのか分からない物もあった。



 軒を連ねる食事処では、仕事前に朝食を取る人達で賑わっている。

 オープンテラスの様に、外にも席があるお店もあり、行儀悪くも覗いて見れば、美味しそうな料理がテーブルに並べられていた。



 蒸し焼きにされた白身魚や、具沢山のスープと粥。麺類はラーメンの類は見当たらず、野菜などと一緒に炒められている焼きそばみたいなものがあった。

 良い匂いが此処まで届く。



「…………」



 今更だけど、お腹減ったなぁ。

無意識に自分の腹部をさすっていると、どうやら見られてしまったらしい。立ち止まった陛下は、破顔して私を覗き込む。



「腹減ったな」


「…………はい」



 ……恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。

好きな人と一緒で、その人と手を繋いで街を歩いているというのに、乙女心よりも食欲が勝る自分が情けなさ過ぎて泣けてきます。



 でも取り繕っても意味がないので、私は正直に頷いた。

 耳まで赤くなった私を見て陛下は、気にするなと言う様に頭を撫でる。



「何処か、店に入るか」



 ふむ、と陛下は、考える素振りを見せた後、ぐるりと辺りを見渡した。そして一軒の店を指差す。



「あそこにしよう」



 馬を繋ぎ、私達は店へと入る。混みあってはいるけれど、ピークは越したのか、すぐに座る事が出来た。

 何が食べたいかと聞かれても正直、料理の名前がよく分からないので、陛下にお任せする事にしました。



「……どうした?」



 注文を終えた陛下は、私を見る。

 今更ながら恥ずかしさがこみ上げてきた私は、赤い顔を隠すように俯いた。



「予定を変えてしまって申し訳ありません。本当に私、無作法で恥ずかしいです……」



 初デートで食事優先、食べ物屋直行とか……詰んだ。詰みましたよ私。

 女の子としてどうなのそれ。しかもさっきは、人様のテーブルの料理を興味津々に見てました。うん、終わった私。



「?」



 どんよりと暗雲漂う私に、陛下は不思議そうに首を傾げた。



「生きていれば腹が減るのは、当たり前だろう。何が無作法だ」



 陛下は私の自己嫌悪を一蹴するように、言い切る。真っ直ぐな視線に嘘は見つけられず、慰めではなく本当にそう思っているようだ。

黒曜石の瞳が、緩く細められる。頬杖をついた陛下は、雄々しい美貌に柔らかな微笑を浮かべた。



「簡単に折れてしまいそうな、細くて大人しい女よりも、お前の様に朗らかで健康的な方が魅力的だと思うぞ」


「っ!」



 褒められた、と喜ぶのは単純すぎるかもしれません。健康的とか、女性の褒め言葉としては微妙な気がします。

 けれど私は、嬉しかった。陛下に、魅力的と言ってもらえた事が。

 


「……っ?」



 再び熱を持ちだした頬を、伸びてきた大きな手が包む様に撫でる。



「現に何人か、お前を見ている男共もいるしな」


「え?え?」



 一瞬不機嫌そうに視線を外した陛下は、小さく何事かを呟く。それを問い返す間も与えてはくれず、彼は私の頬を人差し指の背で緩く辿る。



「……お前はそのままでいいって事だ」



.


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ