側室(仮)の外出。
初投稿から一年たちました。遅いペースながら続けてこられたのは、読んで下さる皆様のお陰です。
本当に、ありがとうございますm(__)m
冷えた空気が、肌を撫でる。
寒さに意識を引き上げられ、ゆっくりと目蓋を押し上げれば、辺りはまだ薄暗かった。
まだ夜明け前。正直な体が欲するまま、私はもう一度目を閉じる。
掛布を肩口まで引き寄せ、寝返りをうち、暖かい方へと体を寄せた。
「…………」
ふ、と空気が震える。途切れそうな意識の中、小さな音を聞いた気がした。
そしてそれが何の音なのかも分からないまま、暖かな何かに包まれる。
さっきまでの冷気が嘘のように、暖かい。
柔らかな布団の感触ではなくて、結構しっかりとした硬度の、何か。でも不思議と不快感は感じない。
寧ろ、とても心地好くて。
もっと近付きたいと言う欲求のまま擦り寄れば、再び空気を震わす音がした。
何の音だろう。
鳥の声だろうか。
明け方に鳴く鳥の話を聞いた事がある。
天上に住まうその鳥が鳴くと、それに応じて地上の鳥が朝を知らせるように鳴くのだと。
天上の金の鳥、あけのとり、
暁の、
「…………」
もう一度、目を開ける。
まとわりつく眠気を振り払い、音の正体を確かめるべく開けた視界に広がるのは、
薄暗い見慣れた天井、では無かった。
「…………」
手触りの良さそうな夜着の間から覗くのは、古い傷痕の残る肌。彫像の様に無駄のないラインを描く、鎖骨から首へと視線を上げ、私は数度瞬いた。
シャープな顎、形の良い唇、通った鼻筋。最後に辿り着いたのは、私を見つめる漆黒の双方。
下ろした前髪の間から覗く黒い瞳は、目を瞠る私を映して、ゆっくりと弓形に細められた。
「……お早う、サラサ」
「……っ!!!」
低く擦れたバリトンが耳朶を打つ。
蠱惑的な微笑に、私の頭は一瞬で沸騰した。
「っ、へい、か……」
「……」
耳まで赤くなった私を見て、陛下は軽く目を瞠り、次いで喉を鳴らして笑う。
その振動を聞きながら、ああ、さっきの音はこれですか、と現実逃避気味に私は思った。
鳥の声ではなく、寝呆けた私に、湯タンポ代わりにされた陛下の笑い声だったんですね……。
「……おはよう、ございます」
恥ずかしくて俯きながら、小さな声で呟くように言うと、大きな手が私の髪を掬うように撫でる。
「目は覚めたようだな」
「……はい」
そりゃあもう、はっきりしっかり。
もう二度寝なんて出来そうもありません。
「気持ち良さそうに眠っていたから、起こすのが躊躇われたんだが……丁度良かった」
そう言って陛下は、寝台から身を起こす。
私もつられて起き上がると、部屋を見回した。
辺りは矢張り、まだ薄暗い。夜明け間近くらいだろうか。早朝独特の、澄んだ冷気が肌を刺す。
「お戻りですか?」
以前陛下は、私が他の側室方の反感を買ってしまわないように、深夜に訪れ夜明け前に戻られていた。
私の存在が知られ、今後はどうするのだろう、とは思っていたのだけれど……やっぱり朝まで一緒にいる事は出来ないんですね。
贅沢過ぎる事を考えながら、そう問うと陛下は振り返り、かぶりを振る。
「今日は、執務は休みだ」
「……え?」
「仕事は粗方片付けてきた。一日位自由に過ごしても、バチは当たらんだろう?」
目を丸くする私を見下ろしながら陛下は、悪戯を企む子供の様に笑う。
反応出来ない私の前に、ゴツゴツとした大きな手が差し出された。
「遊びに行こう、サラサ」
「………は、……い?」
「出掛けるぞ」
「……えっ?」
簡単に投げて寄越された言葉に、私は呆気にとられた。
今、なんて仰いました?
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