表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/120

側室(仮)の困却。



 本日の天気は晴天。

透き通る様な青と白い雲のコントラストが目に焼き付く。

穏やかな南風が心地好く、誰もがフラリと外に誘われる……そんな陽気の日。



「…………」



 後宮の一角にある自室にて、私は困惑していた。



「これは何かしら……?」



 次々と運び込まれる荷物に、私は戸惑う。隣のカンナを見ると、彼女は困った様な笑みを浮かべた。



「サラサ様への贈り物です」


「贈り物……」



 鸚鵡返しで呟いた私は、今一度荷物へと視線を移す。



 横幅四、五尺程の大きな箱は衣裳箱の(たぐ)いだろうか。蓋の部分の四つ角には、蔓をモチーフとした金具が嵌められ、側面には鮮やかな大輪の花が描かれている。

中に何が納められているかは分からないけれど、箱そのものも芸術品としての価値が高そうだ。

他にも螺鈿細工が施された漆器や、素人目にも高そうな壺等、器だけでも取り扱い注意な品物ばかり。



「……贈り物と言うのは、一体どなたからなの?」


戸部(こぶ)官吏、キサト様よりの贈り物です。キサト様はご側室のチヨリ様のお父上であらせられます」


「え……?」



 そのお名前に、私の困惑は更に大きくなった。

チヨリ様を知らない訳じゃない。勿論名前もお顔も知っている。



 ……けれど、直接言葉を交わした事は殆ど無い。

ルリカ様のお茶会でご一緒した程度です。あの方はルリカ様と懇意にしていらっしゃる様でしたから。



「変わり身の早い事だ」



 呆れを隠しもせずに、深いため息を吐き出したのはイオリだ。

以前私の護衛を勤めてくれていた彼女は、事件の収束と共にその任を終えたのだが、またこうして傍にいてくれる事になった。



「エイリ様が去り、お仲間も去り、身を護る(すべ)が無くなった方は必死ですね」



 苦笑を浮かべたイオリは、辛辣にそう言い放った。



 確かにルリカ様が去られた後、彼女と懇意にしていた方がお二人、後に続くように後宮を去った。

ご実家の方も、エイリ家と浅からぬ縁をお持ちだった様で、没落に引き摺られるように力を削がれてしまったらしい。



「……孤立してしまっているの?チヨリ様は」



 呟く様に問う私に、イオリもカンナも困った様な顔付きになる。

その問についての返答はなかった。



 チヨリ様……正しくは彼女の御父上が、私に贈り物をした事が知れ渡れば、彼女は私サイドの人間だと思われてしまう。

私の存在を快く思わない、高官、貴族、側室方に敵視されるでしょう。



 そうなっても構わないと思っているならば、彼女自身もご実家も、かなり差し迫った状況にあるのでは。

……でもこの贈り物は、素人目にも高級そうですし、経済的に困窮している様には見えない。中身は未確認ですが。



 考え込み、じっと贈り物を見ていると、イオリは先回りする様に口を開いた。



「サラサ様、念の為調べさせて頂きますので、どうかお手を触れぬ様お願い申し上げます」


「……はい」



 ハッと、目を見開く。

目を覚ませと、頬を叩かれた気がした。



 アヤネ様達にも、散々注意されたでしょう。

敵は、国の外だけにいるのではない、と。



 勿論運び込む前に検査はしているでしょうから、問題は無いでしょうが、と安心させる様にイオリは微笑む。

そんな彼女に、私は硬い表情で頷く事しか出来なかった。







「…………」



 時間は夜半過ぎ。

寝室の窓から見える半分欠けた月を見ながら、私は深いため息をついた。



 結局頂いた贈り物は、中身を見ていない。カンナに頼んで片付けては貰ったけれど。

正直、会った事も無い人から、理由も無く贈り物を貰うと言うのは、あまり嬉しいものでは無い。



 突っ返してしまえるものなら、そのまま送り返したいくらいだ。



 寵妃であると周囲に認識されたからには、嫌われる覚悟はしていたものの……こういうパターンは想定していなかったぁ、とボンヤリ思った。





――コンコン、



 どの位、そうしていたんだろう。

ドアをノックする音で、私は我に返った。



 深夜に私の部屋を来訪する人なんて、一人しかいない。

でも、その方はここ最近とても忙しくて、お顔さえ見れない日がずっと続いていた。



 一瞬夢かと思い躊躇したが、それは数秒の事。私は慌てて寝台から降りて、扉へと向かう。



 勢い良く開いた扉の向こうで、その方は目を軽く瞠り、

次いで、嬉しそうに瞳を緩めた。



「……ただいま、サラサ」



.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ