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側室(仮)の現実。



「サラサッ!」


「ぅわわっ!」



 扉が開くなり、転がり込む様に入って来た人は、そのまま勢いを殺さずに私へと向かって来た。



 猪突猛進な突撃に驚きつつも受け止めると、彼女は強い力で私に抱き付いた。

幼子(おさなご)が母を求める様な、懸命な仕草で。



 力に加減が無くて、少し痛い。でも引き剥がす気にはなれず、緩く波打つ赤毛をそろりと撫でる。

何度も繰り返すと、ゆっくりと顔が上げられた。



 涙の膜が張ったペールグリーンの瞳が、私を映す。

頬を紅潮させた涙目の美女は、どんな堅物であっても籠絡出来そうな色香があった……が、如何せん、この儚げ美女の正体はお子様。いや、ホノカ様。



「し、死んじゃ駄目っ!!」


「……………何故そんな結論に至りましたか」



 彼女の必死な叫びに数秒沈黙し、私は頭痛を感じつつも問う。

私が部屋で療養中に、一体何があった。勝手に死亡フラグを立てるのは止めて頂きたいのですが。



「だって、倒れたと聞いて……きっと恐ろしい病なのでしょう?死んではいや……!!まだ貴方と沢山お話したいのに、こんな……」


「私は貴方が恐ろしいですよ!後ろ向きな暴走思考で勝手に私の余命を決定しないでください!!」



 天然怖い。ネガティブ天然怖い。

悪気がゼロな分、質が悪い。

この方が誰かのお見舞いに行く時は、物凄く気を付けようと思う。



「あまり無理をさせちゃ、駄目よ」



 疲労を感じた私がため息をつくのと同時に、開いた扉から諫める声が聞こえた。

視線を其方へと向けると、二人の女性が入って来る。



「アヤネ様、シャロン様」


「具合はどう?」



 アヤネ様は、理知的な美貌に苦笑を浮かべた。



「お騒がせしました。もう大丈夫です」


「無理なさらないで……どうかご自愛ください」



 気遣わしげな視線を向けてくれるシャロン様に、若干の後ろめたさを感じた。



 べ、別に仮病を使っている訳では無いのです。

……ただ、理由は情けなさ過ぎて言えなかった。



 陛下に『好きだ』と言っていただけたあの日の私は、あろう事かそのまま昏倒した。

言い訳が許されるなら、短い期間に色んな事があった為、脳のキャパを超えたのと、悩んでいた事で夜あまり寝れてなかったせいだと思う。



 気付いたら朝で、目を開けた途端陛下と目が合い、死ぬ程驚いた。比喩で無く、心臓が止まるかと思いましたよ。



 陛下は驚愕に言葉も出ない私の髪を撫で、優しい顔で、お早う、と笑って下さったけれど……。

陛下が去った後、色んな事を思い出した私は、恥ずかしさと情けなさで泣きたくなった。



 何故寝た私!!

折角好きと言っていただけたのに!

漸く女として認めていただけたのに……あれ、でもまた隣で普通に寝てらっしゃったよね。どゆこと。

確かに私に色気なんて皆無ですけど。どーやったら発生するのか皆目検討もつかないですけどね!!



 そんな感じに、朝から私はぐるぐるしていた。

17年間あまり恋愛方面に使用してこなかった脳ミソを、盛大に空回りさせて。



 たぶん、それが悪かったんだろう。

その日の夜、私は熱を出した。



 頭使い過ぎて熱でるとか、恥ずかしくて死ねます……。しかも、題材は『どうしたら色気が出るか』。

我ながら、情けなさで泣けてくる……。



 理由を言いたく無かったのもありますが、万が一風邪だったら移してしまうので、ホノカ様達が来て下さった時も会えなかったのです。



「……本当に、大丈夫?」



 不安げに見つめる翠緑の瞳に、私は笑みかけた。



「えぇ。もう元気です」



 ほら、と軽く体を動かせば、漸く安堵した様に笑顔を見せてくれたホノカ様に、私は胸が暖かくなる。



 ネガティブな妄想も、それだけ心配してくれたんだと思えば嬉しいものでしかない。



「良かった……でも気を付けてね?病は、本人も気付かないうちに悪化していくものもあるから」


「…………」



 嬉しいものでしかない……筈だ。



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