皇帝陛下の告白。
タイトルで想像がつくかとも思いますが、またも過糖注意です。
もう少し続きますので、苦手な方は回避をお願い致します。
「アカツキ様が、すきです」
その言葉に、世界中の音が遠ざかった気がした。
自分の鼓動と、サラサの声しか聞こえない。
真っ直ぐに向けられる、黒い瞳に映る自分は、酷い顔をしていた。
女に、愛を請うた事も、言葉を求めた事も無かった。
それは、皇帝である自分が何かを求める事は、強要する事と同意であると知っていた為でもある。
そんな虚しいものに、何の意味も無い。請わずとも得られた愛の言葉も、オレにでは無く、皇帝に捧げられたものだと、識っていた。
だが、それでも自分を……アカツキを見てくれる人間を、探そうと思えば探せた。
側室として迎え入れた女達の中にも、極僅かながらも、皇帝の寵愛を求めない者がいたのだから。
それをしなかったのは、単純に興味がもてずにいたと言う理由だ。
女は、男を癒す生き物。
それを、本能の部分では感じていた。欲を吐き出す為には、女が必要だ。
しかしそれ以上のなにかを、誰にも抱けずにいた。
大抵の人間が、当り前に持つ『愛』と言う感情が、オレには欠けていたんだ。
「……っ、」
欠けた部分を得た今、オレは痛感する。こんなにも苦しいものだったのか、と。
初めて手に入れた感情は、己の汚さや臆病さを、否応なしに引き摺り出した。
他の奴を見るな。
何処にもいくな。
どす黒い感情が身の内を焼き、叫び出しそうになる。
彼女の細い体を組み敷いて、食らい尽くしてしまいたい。
サラサが怯えて逃げ出したのならば、オレはきっと地の果てまでも追う。
追い詰めて、彼女を鎖に繋いでしまうだろう。
そうならない様、オレは理性をかき集めて、彼女の愛を請うた。
どんなに不様でも、構わない。
欠片であろうと、サラサがまだオレに好意を持ってくれているのなら、
オレはそれを、必死に育てよう。
お前を、縛り付けてしまわない様。
お前を、壊してしまわぬ様に。
「……好き、ですっ」
彼女の墨色の瞳に、涙の膜が張る。
今にもこぼれ落ちそうな雫は、かろうじて留まっていた。
「…………っ!」
愕然とする。
その目を見た瞬間、オレは己を括り殺したくなった。
何をしている!!
オレは一体、何をしていた!?
彼女の愛を請う事に必死な余り、オレは順番を間違えていた。
請う前に、オレは言わなければいけなかった筈だろう……!!
スッ飛ばして、好きな女を泣かせるなど、屑過ぎる!!
「サラサ……!!」
「っ……?」
手を伸ばし、サラサを抱き締めた。
腕の中に容易く収まる華奢で小柄な体は、震えている。
恐がらせているのだろうかと一瞬躊躇したが、細い手が縋る様にオレの袖を掴んだ事に安堵の息を吐き出した。
「……すまない。お前に先に言わせるなど……オレはどうしようも無い愚か者だ」
「……陛、下」
おずおずと顔を上げたサラサは、小さく呟く。
呼び方が戻ってしまった事に、苦笑を浮かべる。だが強要はするまい。
愚か者には勿体ないものを……望んでいた以上の言葉を、貰えたのだから。
「サラサ」
「……はい」
静かに名前を呼べば、幾分落ち着いた彼女は、真っ直ぐにオレを見た。
目尻に留まっている涙を、指で掬い上げる。
そのまま頬に手を滑らせて包み込めば、表情を緩める少女に胸が熱くなった。
いつの間に、だろう。
いつの間にこんなにも、かけがえの無い存在になった。
初めは、ただ愛でていた筈だ。
初々しくて、何の作為も無い綺麗な笑顔を見せてくれる少女を、愛らしいと思いこそすれ、女として見る事など無かった。
汚したくなど、無い。
オレの汚い部分など、知らないで欲しい。
ただ傍で笑っていてくれたらと、身勝手な理想を押し付けていたと言うのに。
いつの間にか、捕われていた。
いつの間にか
大切な少女は、――かけがえの無い女へと変わった。
「……陛下?」
戸惑い揺れる瞳を見つめたまま、その白い手を取る。
思いの丈を込め、手の甲に唇で触れると彼女の震えが伝わってきた。
「……オレもだ」
「…………え?」
しっかりと手を繋ぎ、至近距離で瞳を覗き込む。
信じられないとばかりに見開かれた瞳に、動揺が広がって行くのを見つめながら、オレは言葉を重ねた。
「オレも、お前が好きだ」
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