側室(仮)の告白。(2)
糖分過多です。苦手な方はご注意下さい。
「……え?」
呆然と、陛下は私を見た。
その見開かれた瞳に、物凄く居たたまれなくなる。
そ、そうですよね。
何言ってんだって感じですよね!!
ケーワイ過ぎるわたし……埋まる穴は何処でしょうかぁっ……!?
私の脳は最速の空回りを始めた。
忙しなく動いているにも関わらず、全く冷静な状態を取り戻せない。俗に言うテンパっているって奴です。
落ち着きましょう、私。
きっと陛下にしてみれば、言われ慣れた言葉に違いありません。
今更私に言われた程度、挨拶みたいなもんです!!
それに私が陛下大好きな事なんて、ダダ漏れなんですから!!
「……!!」
そう己に言い聞かせ深呼吸をした後、陛下を見て、私は愕然とした。
慣れている筈の彼は、精悍な頬を赤く染めていたから。
な、何でですかー!?
陛下の照れが伝染したみたいに、私の顔も真っ赤に染まっていく。
頬が異様に熱い。
「……好、き……?」
「え、あ……」
「好きって……」
呆然としたまま、陛下は呟く。
語り掛けると言うよりは、理解する為に繰り返しているような言葉に、私は過剰反応をしてしまった。
「……手が!!」
「は?」
「陛下の手、素敵だなって!!」
思わず私は、そんな言い訳を口走ってしまっていた。
「……あ、あぁ。手か」
「そうですっ……!!」
陛下は、一拍置いて頷いた。
それを全力で肯定する。
「そうか……手、か」
苦く笑んだ陛下は、自分の手に視線を落とした。
ゆっくりと握ったり開いたりを繰り返す、その力無い笑みに、気付けば私は叫んでいた。
「でも手だけじゃありませんっ!」
「……は、」
「手も素敵ですけど……っ」
「手、だけじゃないのか?」
「はいっ!」
見上げた先、間近にある陛下の顔がより赤くなる。
私はそれ以上に赤い自信があるけれど。
「……他は?何処が好きだ」
「えっ?」
陛下は、目を丸くする私を覗き込む。その表情は思いの外真剣だ。
「……っ、」
耳まで熱が広がっていく。
鼓動の音があり得ない位煩くて、心臓が破裂してしまうんじゃないかなんて、馬鹿みたいな心配をしてしまう。
繋いだままの手が、汗をかき始めている。
それまでも私を追い詰めて、泣いてしまいそう。
でも私は、震えそうな声を絞りだす。
もう、この方から逃げたくないと思った。
「……目、とか」
「目?」
「形も、濁りが無い色もすき、です……あ、眉と唇の形も……」
……これは総合して顔が好きでいいのでは?と、途中で気付いた。
しかも顔が好きって……真実ではありますが、結構えげつない気がする。
考え無しな己の発言に頭痛を覚えた。
だが陛下は、気にした素振りも無く頷く。
「それだけか?」
「……いいえ。あと、背中も好きです。お声も、とても」
怒るでも呆れるでも無く、陛下は真面目なお顔で私の言葉を促した。
その事に私は困惑するけれど、素直に返す。
外見ばかりで我ながらがっかりするけれど、内面が好きだなんて言える程、陛下の事を私は知らない。
知っているのは、
「……私を気遣って下さる優しい所」
あとは、
「少し意地悪な、笑顔とか……意外と不器用なところとか」
繋いだ陛下の手に、力が籠もる。
何だろうと彼を見れば、何故か懇願する様な強い瞳と目が合った。
「……へ、いか」
「……どの位だろうな」
「え?」
意味が分からず問い返す私を、陛下は真っ直ぐに見る。
「……お前に、『オレ自身』が好きだと言ってもらえる様になるには、どの位それらを増やせば良いんだろう」
「……っ、」
私は目を見開き、胸元を握り締めた。
胸を突かれた様な、痛みが襲う。息が苦しい。
何をしているの私は。
この方の不安を拭いたいと思っていたのに、今更何を怖気付くの。
恥ずかしいのが、何。
好きな人に、こんな事を言わせてまで、護りたいものなんて無いでしょう。
そう思うと同時に、私は叫んでいた。
「……好きです!!」
「まだあるのか?」
叫んだ私に、陛下は瞬いた後、嬉しそうに笑う。
どうか、こんな小さな事で満足してしまわないで。
わたしはもっと、貴方に色んなものを貰っているのだから。
泣きそうな己を振り払う様に、私はしっかりと言葉を紡ぐ。
「貴方が、」
「…………」
ゆっくりと瞠られる瞳を見つめながら、私は告げた。
「陛下が…………アカツキ様が、すきです」
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