側室(仮)の告白。
部屋に戻った私は、当然の事ながらイオリにこってり絞られた。
連れ出してくれたのが陛下だと知っているらしく『反則でしょう』と嘆息したイオリに、私は俯いて謝罪する事しか出来ない。
最終的には、苦笑を浮かべて許してくれたが『今日は1日お部屋で反省していて下さい』と最後に付け加えられた。
少し考えたい事もあったので、その日は部屋で大人しく過ごした。
そして、夜。
日付が変わる頃に、私の寝室の戸が硬質な音をたてた。
何時もはノックなんてなさらないのに、と思いつつも返事をすれば、音と同様に硬い表情をした陛下が現われる。
「…………」
戸口に立ったまま彼は、動こうとしない。
嫌われてしまっただろうか、と私の中の怯えた心が顔を覗かせる。
決心した筈……でもそう簡単に、強くはなれない。
嫌われるのは、怖い。
ましてやそれが、大切な方なら尚更。
「………」
俯きそうになった私は、顔を上げる。
怖くても、同じ過ちは繰り返してはならない。
掌を握り締め、深く息を吸い込んだ。
戸口から動かない陛下と、瞳を合わせる。
「……!」
私は目を瞠る。
その、厳しい眼差しの中に私と同じ怯えを見つけた気がした。錯覚かもしれないけれど。
それでもそれは、私の背を押す力となった。
立ち上がり、私は小走りで陛下の元へ向かう。
「…………」
まるで壁が其処にある様に、一歩も踏み出さない彼の手にそっと触れる。
息を飲む音がしたけれど、拒まれ無いのをいい事に、もう片方の手を陛下の手と繋いだ。
ゴツゴツとして硬い手の感触が、単純に嬉しい。
その気持ちのまま、私は笑った。
「……おかえりなさいませ」
「っ……!!」
切れ長な瞳が、見開かれる。
戸惑う陛下の手を引き、私は部屋の中へと戻った。
……寝室に男性の手を引っ張って入れるなんて、よくよく考えずとも、はしたないですよね。旦那様とはいえ。
でも逃げられてしまっては大変。
せめて、謝罪の言葉くらい聞いていただかなくては帰せません。
妙な方向に意気込む私を知ってか知らずか、陛下は拒む気は無い様で、ベッドへと腰を下ろした。
「…………サラサ」
「はい」
名を呼ばれ、隣へと腰掛けた。
長く、息を吐き出す音が聞こえる。
繋いだままの手を握る力が、僅かに増した。
思わずその手を、じっと見つめる。
私の右手と繋がれた陛下の左手。私の1.5倍くらいある大きな手。
あちこち傷だらけで、掌も硬くかさついている。
手触り的には全く良く無い筈なのに、どうしてこんなに惹き付けられるんだろ、と場違いにも考えていた。
「……サラサ?」
「っ!」
そんな私を、陛下は不思議そうに呼んだ。
我に返ると、至近距離にある漆黒の瞳が私を映している。
「……っ、」
謝罪しなきゃ、とか
お礼も言わなきゃ、とか
色々考えていた筈なのに、私の頭からそれらは一気に吹き飛んだ。
「……何を考えている?」
だから、そんな陛下の問いに咄嗟に出てきたのは、シンプルで欲望に忠実な、
「す、」
「……す?」
「好き、だなぁって」
こんな、一言だった。
.