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側室(仮)の別れ。(3)



「サラサッ!急いで!」



 去って行く陛下の背中を、未練がましく見送っていた私は、ホノカ様の声で我に返った。

ピョンピョン跳ねながら私へと手を振る彼女に、慌てて駆け寄る。



「サラサ!」


「ちょ、分かりましたから、跳ねないで下さい!危なっ、」


「きゃ!?」


「言わんこっちゃない!」



 ピョイピョイ跳ねていたホノカ様は、バランスを崩し転びそうになった。

駆け付けた私が咄嗟に抱き止めると、きょとん、とした瞳が私を見る。



 その、あれ??って顔やめて下さい!

何ら不思議ではありませんから!寧ろ跳ねていた貴方を見たら、予測可能な未来でしたからね!?



「貴方は病み上がりみたいなものです。無茶は止めて下さい!」



 それでなくとも危なっかしい方なのに、という苦言は飲み込む事にした。

時間が勿体ない。



「元気になったと思ったのだけれど」


「……もういいです。行きますよ」



 深いため息をついた私は、ホノカ様の手を握ったまま走りだした。





 やがて見え始めた門は、開いていた。

だがその下に、ルリカ様の姿は無い。見送る人の姿さえも無かった。



「っ、遅かった……!?」



 息を切らせながら、ホノカ様が落胆の声を上げる。

だが私は足を止めなかった。



 門を閉めようとしている門番に向けて、声を張り上げる。



「待って下さいっ!!」


「っ?」



 門番は手を止め、辺りを見回す。駆け寄って来る私達を見て、目を見開いた。



「貴方様は……」



 私の顔を凝視しながら、明らかに戸惑っている門番の脇を擦り抜け、門から外を覗く。

慌てて手を掴まれたが、別に逃げ出すつもりは無い。



「トウマ様、それ以上はお進みになりませんよう」


「ごめんなさい、少し覗くだけだから……」



 外に出てしまえば、私だけでなく、門番の方々にも迷惑が掛かる。

なんてもどかしい。



 前に立ち塞がった武官らの隙間から、必死に外を見る。



「!」



 一瞬見えた、小柄な後ろ姿。あの、鮮やかな炎の様な紅の髪は……、



「ルリカ様っ!!」



 私は、声の限りに叫んだ。

その甲斐あってか、小柄な人物は足を止める。

ゆっくりと振り返るその人の名を、もう一度呼んだ。



「……ルリカ様」



 大きな瞳が、一層見開かれる。

何時もよりもずっと質素な衣を身に纏ったルリカ様は、それでも美しいままだった。



 顔の造作だけでは無い。背を丸める事無く、凛と立つその立ち姿を綺麗だと思う。

私達を見て驚愕していたルリカ様は、一歩此方へと歩み寄る。



「見送り、では無いわよね」



 ルリカ様は、形の良い唇を吊り上げ、勝ち気な美貌に笑みを浮かべた。

モエギさんを亡くした日の、弱々しさは欠片も無い。



 質素な衣を纏っても、身一つであっても、彼女は鮮やかな薔薇のままだ。

刺のある、美しい華のまま。



「……ルリカ様に、言いたい事があって」



 乱れた呼吸を正す様に深呼吸をした後、私は彼女に向かってそう告げる。

ルリカ様は、私とホノカ様の顔を眺め、皮肉めいた笑みを浮かべた。



「……いいわよ。最後の恨み言くらい、聞いてあげるわ」



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