表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/120

側室(仮)の弱さ。(2)



 シャロン様と繋いだ手。守る様に、抱かれた私の手。

指先から伝わる温もりに、涙が込み上げそうになった。



 ……だってまるで、大切な宝物になったみたい。

幼子に抱かれたぬいぐるみみたいに、お母さんの腕の中の、赤ちゃんみたいに。



 守られながら愛される、宝物になったみたいだ。



「シャロン様も、貴方から離れようとしなかったわ。迎えに来た侍女も、帰らせてしまって……大人しい方だと思っていたのだけれど、少し考えを改めなくてはいけないわね」



 アヤネ様は、そう言いながら潜めた声で笑った。



「シャロン様が……?」



 私は驚き、アヤネ様の方へと首を廻らせる。

化粧をせずとも傾国を唄われそうな美貌がとても間近にあり、私は目を瞠った。

吸い込まれそうな漆黒の瞳が、私を写す。



「……シャロン様を強くしたのは、きっと貴方ね」


「……え?」



 独り言のように呟かれた言葉を聞き返すが、アヤネ様は繰り返す事はせず、ただ見惚れる位綺麗な微笑みを浮かべた。



「貴方の影響力は、本当に絶大よ。ホノカ様があんな大きな声を出すのも、初めて見たし」


「……何かしましたか」



 天女の如き微笑を苦い笑いに変えるアヤネ様に、嫌な予感を覚える。気分は三者面談の母親だ。

身構える私に、アヤネ様は苦笑を深めた。



「大変だったわよ……貴方が気を失ったのを見て、大層取り乱していたわ」


「…………」



 私は頭痛を覚えた。

テンパってあわあわするホノカ様が、容易に想像出来ます。



 全くあの方は。どうしてくれよう……沈み込んでいた事も一瞬忘れそうな位、トキメいちゃったじゃないか。



「起きるまで付いているんだって、ダダをこねていたけれど……体力が限界だったんでしょうね。貴方と同じく気を失ったから、部屋まで武官に運ばせたわ」


「それは……ありがとうございます……」



 複雑な表情でそう呟いた私に、アヤネ様は破顔する。母親なの貴方、なんて鈴の様な笑い声をあげた。



 私も、穏やかな空気につられる様に口元を緩める。

それを見たアヤネ様は、嬉しそうに目を細め、



「……やっと、笑った」



 そう、小さく呟いた。



「……え……?」



 私は呆然とする。笑みを消したアヤネ様は、とても真剣な目で私を見た。



「何が起こったのか、詳しくは分からない。でもこれだけは分かるわ。……貴方、自分のせいだって抱え込んでいるでしょう」


「……ど、して」



 疑問系ですらないソレに動揺し、私は擦れた声で呟いた。

アヤネ様は、困った様な顔で、私の髪を撫でる。



「どうして分かったのかって?……分かるわよ。貴方の事くらい」


「…………」



 凄い事を、言われた気がする。凄く嬉しい事を。



「ねぇ、サラサ。どうか一人で抱え込んでしまわないで」


「……アヤネ様」



 アヤネ様の手が、私を引き寄せる。肩口に頭を埋める様な形で、私は彼女の言葉を聞いていた。



「自分のせいだなんて決め付けて、笑うのを止めてしまわないで……お願いよ」


「……っ、」



 懇願する様な声が、私の胸を締め付ける。暖かな感触と優しい手に、色んなものがこぼれ落ちてしまいそうだ。

弱さとか甘えとか、卑屈な想いが、涙と一緒に。



「……っ、」



 わたしは、ずるい。



 こんなにも、心配してくれている人達がいるのに、殻に閉じ籠もろうとした。

誰の手もとらなければ、巻き込まずに済む。迷惑をかけて、嫌われてしまう事も無い。



 私が傷付くだけで済むのなら、大切な人達の心配しなくていい。後悔するのは、もう嫌だ、なんて



 どうしようも無い。

そんなの、身勝手過ぎるただの自己満足だ。



 弱い自分を正当化する為の、言い訳だ。



「……ごめ、なさっ……、……」



 謝罪の言葉さえ詰まってしまう私の頭を、アヤネ様は宥めるように撫でる。

弱い私を、彼女は一言も責めなかった。



 強く、なりたい。

私も、誰かを許し護れる強さが欲しい。



 大切な人の心を、護れる強さが。



.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ