側室(仮)の挑戦。
さて。
姫様同士を仲良くさせようと意気込んではみたものの、正直ノープランです。
脊髄反射で生きてます。すみません。
取り敢えず、姫様同士を仲良くする前に、私が仲良くなってみようと思います。
ほぼ面識の無い女に仲立ちされても、気持ち悪がられるだけな気がしますので。
いきなりアズミ様とか難易度高過ぎなので、大人しく優しいシャロン様にまずはアタック。
……べ、別に最初から狙ってた訳じゃないですよ?
細くて可憐でぎゅーっとしたら壊れてしまいそうなシャロン様萌え!!とか、私が男だったら土下座してでも嫁に来て欲しいとこだよね……とか、思ってないんだから!!
………すみません。わたくし嘘をつきました。
リアルお姫様に超キュンキュンしてました。はい。
シャロン様が侍女の皆さんとの会話中、控えめな微笑みが、はにかむ様に少しくしゃりとなるのを遠目に見た時から、仲良くなったら間近であれ見れるのかなー……と羨ましがっていたりもしました。
ですが!!
リサーチによると、シャロン様のご趣味は手芸!!詩をしたためる事!!うん無理!!
……だって私一番の苦手科目、家庭科な女ですよ?
課題の浴衣を必死に仕上げようとはしたものの、何故か袖から腕が出ないし、測った筈なのに丈はつんつるてんだし。先生涙目だったよ……。
詩の方は……うん。
たぶん中学二年生的なものならいける気がする。
非常に頭悪さげなものが出来上がる気がします。
あ、それ以前に私、字が完璧じゃなかった。
皇帝陛下に貰った絵本のおかげで、なんとか五歳児程度の読み書きは出来る様にはなりましたが。
あれ、絵が入ってるから非常に助かる。流石陛下……分かってる!!
でもつい口が滑ったとはいえ、貴族の子女が読み書きがイマイチとか……アリなの?私迂濶過ぎない?
…………ま、まぁ、突っ込まれてないからセーフなんだよね?
で、話を戻しますが、趣味を介してシャロン様と仲良くなろう計画は、そんな訳で早々に頓挫しました。
私に女らしさを求めるのは、ペンギンに鳥らしさを求める位無謀だという事です。
うーむ。
腕組みをし唸っている私の前に、スッとティーカップが置かれた。
「……ありがとう、カンナ」
「はい」
優しい微笑みを浮かべるカンナにお礼を言い、紅茶を飲む。
……良い匂い。癒されるなぁ。
こっちの世界にもお茶があってよかった。残念ながら緑茶は無い様ですが。
発酵させずに飲む、という発想が無いのでしょうか?
もしかしたら、貴族には知られていないだけで、地方を探せばあるのかもしれませんね。
「……お茶会とか、出来ればいいのに」
「お茶会、ですか?」
私の独り言を拾ったカンナは、不思議そうに首を傾げる。
「うん。仲良くなりたい方がいるんだけど……」
苦笑してみたが、無理な事は私にも分かっている。
お呼ばれするならともかく、身分が下な私が主宰のお茶会に招くという事は、侮って喧嘩売っている、と受け取られかねない。
仲良くなるどころか嫌われてしまいます……。
お茶会でなくとも、隣り合って会話が出来れば、仲良くなる為の糸口が見つかるかもしれないのに。……こういう時、身分ある立場って面倒だなって思います。
「……どなたと仲良くなりたいのでしょうか?」
「…………え?」
暫し沈黙し、思案する素振りを見せたカンナは、じっと私を見る。
「……シャロン様だけど?」
それがどうかした?と首を傾げる私に、カンナはお手本の様に綺麗な笑顔を向けた。
「その方なら、お茶会を介さずとも、お近づきになれるかもしれません」
「えっ!?本当?」
……そんな会話をした、次の日。
私は、東屋近くの物陰に隠れております。
時刻はまだ早朝。
後宮の規則で取り決められている、部屋を出てもいいとされるギリギリな時間なので、人影はほぼありませんね。
侍女の皆さんは、活動を初めてらっしゃいますが、側室の皆様の朝の準備に忙しく、東屋に近付く方は皆無です。
何故そんな時間に、こんな場所にいるかというと……。
「……!」
澄ました耳が、小さな音を拾った。ゆったりとした足音が近付いて来る。
影に隠れながらも、東屋の方を窺うと……本当に来ました!シャロン様です!
カンナが教えてくれた通り、シャロン様がいらっしゃいました。
凄いな……カンナの情報網恐るべし。シャロン様のご趣味を調べてくれたのも実はカンナだったりします。
カンナって一体何者……?
モヤモヤしたものを抱えつつ、シャロン様へと視線を戻した。本日も美少女です。
「…………。」
一人で東屋に来たシャロン様は、懐から何かを取り出した。
ハンカチの様な小ぶりの布に、何かを包んである様です。此処からでは良く見えませんが。
それを掌の上に広げたシャロン様は、小さく口笛を吹いた。
「…………!」
すると、何処からともなく、小鳥が数羽下りてきた。
鮮やかな羽の小鳥は、シャロン様が差し出した白魚の様な手に、警戒無くとまる。
……成る程。餌付けしてらっしゃるんですね。
ハンカチに包んであったのは、パンクズか穀物的なものなんでしょう。
「…………、」
彼女の行動を見守っていた筈の私は、いつの間にか呆然と見惚れてしまっていました。
朝の光を透かし、キラキラと輝くプラチナブロンド。
繊細な美貌に穏やかな笑みを浮かべ、戯れる小鳥を愛しそうに見守る様は、まるで聖女。
その光景は、お伽噺の挿し絵か、美しい宗教画を見ているかの様だった。
「………………。」
あまりにも綺麗で、惚けていた私は、ついつい引き寄せられる様に一歩踏み出す。
――パキリ、と
足元で小枝か何かが割れた音で、私は我に返った。
しまった、と思っても、もう遅い。
「……!」
羽音をたてて鳥が飛び立ち、シャロン様は弾かれた様に私の方を見て、大きく目を瞠った。
「……あ、」
「!」
大量の冷や汗をかきながらも、私は引きつった笑顔を浮かべ彼女に声をかけようとした。
けれどシャロン様は、怯える様に後退る。
顔を反らし、声を掛ける間も無く、逃げる様に駆けて行ってしまった。
「…………」
引き止める為向けた手が、虚しい。
それを力無く下ろしながら、私は長いため息をついた。
………なにしてるの自分。
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