側室(仮)の願い。
最近、何故か陛下は私の部屋で寝て行く。
なんの比喩でも、控え目な表現でも無く、本当にただ寝に来る。
今でこそ忠犬よろしく待っていますが、二回目に来た時は、驚きましたよ。
初夜失敗してるのに何で来たし。まさか仕切りなおし的な!?とドキマギしたものですが、完全なる自惚れでした……。
未だにチューさえされていない側室なんて、私くらいのものじゃなかろうか。
確かに私、色気ゼロですし。そんな気になれないのは当り前かもしれません…………落ち込んでなんかいません。いませんとも。
………デリケートな部分なんで、そっとしておいてやって下さい。
最初に赤っ恥かいて妙な期待をバッサリ切り捨てられたおかげか、最近は素直に接する事が出来る様になりました。
陛下の態度を見る限り、私を女として見ているというより、ペット感覚な気がするんですよね。
よく撫でられるし、しかも触り方が全くいやらしくない。絵本くれたし……あれ、子供扱い??
何より、意識している女性……しかも妻を、ただ抱き締めるだけで寝るなんて、健康な青年男子のする事じゃないでしょう。
陛下の態度は、あれですよ……えーと……あ、アニマルセラピー。
気付いた時は、好きな人にペット扱いって……!!とショックを受けたりもしましたが、それでも好きなものは好きなんです。
元より、叶うはずの無い恋です。会えるだけでラッキーと思っておこうぜ私、と割り切る事にしました。
そう悟ってしまえば、もう怖いものはありません。
色っぽい方面の癒しは他の方にお任せして、ペットならペットの特権として思いっきり甘えさせていただきますよ。
それに割り切ってしまえば、ペットポジションってかなりおいしいのです。
撫でて貰えるし、ぎゅうって抱き締めて寝てもらえるし。寝顔も見放題。
……あ、寝顔といえば、気になる事があるのですが。
陛下は、他の方のところへ通っている時は、ちゃんと朝まで寝ているのでしょうか?
私のところへ来て下さる時は、深夜に来て夜明け前に帰ります。
それは恐らく一介のペットである私を寵妃だと、他の方に勘違いさせてしまわない為だと思いますが……彼の体が心配です。
私が他の方に嫌われてしまわない様に、他の方が傷付かない様に、配慮して下さるのは、とても嬉しいのですが、そんな事を繰り返していては、体が休まりません。
……やっぱり、早いとこ奥様方に仲良くなっていただかなければ。
無謀は承知。
ですが、私は私なりに、譲れないものがあります。
二回目に来て下さった貴方に、テンパった私が思わず『おかえりなさい』と言ってしまった時に、見せてくれた笑顔を……。
安堵したような、無防備なあの笑顔を、護りたいというのは、分不相応な願いなのでしょうか。
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