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09



「………貴方は、一体、」



呟いた声は、酷く擦れている。極度の緊張と困惑、それから恐怖で、気を抜いたら昏倒してしまいそうだ。



『どうなさいましたかっ!! トウマ様っ!! エイリ様!!』



施錠された出入口の戸が、外側から強く叩かれる。さっき私が壁に突っ込んだ時の音が聞こえたのか、護衛武官の方々が、必死に私達を呼んでいた。



「……っ、」



助けて。その言葉は、口から出る前に飲み込まざるを得なかった。


分かっていますね、と言いたげな視線と共に、モエギさんは剣をルリカ様の頭へと突き付けたから。



私は悔しさに唇を噛み締め彼女を睨み付けるが、モエギさんの表情は全く崩れなかった。



「っ、……大丈夫です。まだ入って来ないで下さい。」


『……しかしっ、』


「……お願いします。」


『…………。』



私の言葉に納得がいかないのか、食い下がった武官に、静かな声で訴えると、扉の音は止んだ。



今は、まずい。


どうにか、ルリカ様も私も、無事に逃げられるような、隙を見つけなければ。



「…………ど、…して……?」


「!」



消え入りそうな、小さな声がした。私の腕の中で、ルリカ様が顔を上げる。

その顔色は、青を通り越して紙の様に白い。



鼻先を掠めてしまいそうな間近に切っ先を突き付けられながらも、ルリカ様はまだ信じきれずにいる。


ルリカ様とモエギさんが、どの程度の仲なのかは知りませんが、少なくとも、こんな風に裏切られる事は予想していなかったらしい。


気が強くプライドが高い彼女が、弱々しく体を震わせている。



しかし、そんなルリカ様を見るモエギさんの目は、氷柱(つらら)の様に冷たく鋭かった。



「……どうしてっ?モエギ……!」



絞りだした悲痛な声に、モエギさんは唇の片側を吊り上げ嘲けるように笑う。



「……どうして、ですか。お聞きになりたいのならば、お話しますが。」


「…………。」



無言で見上げるルリカ様に、返事を『是』だと判断したのか、モエギさんは、事も無げに言い放った。



「私怨ですよ。」


と。



ルリカ様は、あまりの事に目を見開き絶句している。


きっと彼女は、『止むに止まれぬ事情故に』、そんな言葉を期待していたのだろう。

自分を、裏切りたくて裏切っている訳じゃない。そうやって、抱いていた微かな希望は、あっさりと潰えた。



「う、そ……嘘よっ! モエギが、私を裏切るなんて……っ、」



ルリカ様は、必死に否定する。だがモエギさんは至極冷静なまま、張り付けたような微笑を浮かべた。



「ルリカ様。貴方は私の何を知っているというのです?私がどこで生まれ、どのように育ち、どうやって生きてきたのか、貴方は何も知らない。」


「……それはっ、」


「そうですね。それは知りようが無い。……ですが貴方は、知ろうとすれば知れる事からも目を背けた。父親や周囲に甘やかされ、守られる事を当然と思い、奪われる人間の痛みなど、知ろうともしなかった。」



淡々とした声は、だんだんと責める色を濃くして行く。

私はそれに口を挟めずにいる。泣きそうなルリカ様の肩を抱いたまま。



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