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08



……どうする、私。

本格的に死亡フラグが立った気がする。



「……そんな事をしたら、貴方もただではすみませんよ。」


「何それ……自分に何かしたら、陛下が黙っていないとでも言いたいの!?」


「そうじゃなくて、」


「そうよね、陛下は黙っていないでしょう。陛下は貴方を……貴方だけを心配しているのだから……!!」



私の忠告めいた言葉は、ルリカ様の逆鱗に触れてしまったようだ。ルリカ様は激昂し、腹の奥底に溜まった澱を吐き出す様に叫んだ。



「そうよ……私は、あの方の気を引きたくて、嘘をついた。賊が侵入したとなれば、きっと陛下は後宮に来て下さる……そして発見場所に一番近い私を案じ、朝までついていて下さると…………そう信じていたのに!!」


「…………、」



きっと、中々来ない陛下に焦れ、侍女に様子を見させるなりしていたのでしょうね。それなのに、やっと来たその方は、私の部屋に入って行った。


……ルリカ様が私を憎く思うのも、当り前だ。



陛下が私に恋愛感情を抱いているとは思わないけれど、そんな事、他の方には分からない。傍目から見たら私は、寵妃に見えてしまうだろう。



「貴方さえいなければ!! ……何度そう思った事か。……でも、もういいわ。貴方は、後宮から消えるのだから。」


「…………。」



無意識に一歩後退った私の足元に何かが当たり、危うく転びそうになった。此処で無様に倒れて、そのまま串刺しコースになったらどうする。気を付けろよ私!!



首を動かさず視線だけで確認すると、火かき棒のような物だった。壁に立て掛けてあったのが倒れたのかもしれない。



「…………。」



使える、かな。

丸腰で立ち向かうよりは、遥かにマシな気がした。


気付かれないよう、家具の影に足で追いやりながら、私はルリカ様とモエギさんに視線を戻す。



モエギさんは、微塵も表情を崩さないまま、私の方へ踏み出す。靴底がたてた硬質な音が、やけに大きく耳に響いた。



「……本当に、宜しいのですね?」



平坦な声が、ルリカ様に向けられる。

感情が一切込められていないソレは、責めもしないし援護もしない。淡々と、確認をとっているだけ。



それでも、ルリカ様は一瞬苦悶する様な顔をした。まるで糾弾されたかのように。



罪の意識は、確実にある。


でも、認められない。もう引き下がれない、とルリカ様の表情が物語っていた。



「……早く、やってしまって。」


「…………御意に。」



長い沈黙の後、モエギさんは低く呟いた。



彼女の左手が鞘を押さえ、親指が鐔を押し上げる。



「……っ、」



……いよいよ、ヤバイ。


握り締めた手の平が、じっとりと汗ばむ。息が上手く吸えなくて、短く荒い呼吸を繰り返すが、全く頭に酸素がいかない。



恐怖故に目を瞑る事も適わず、彼女の手元を凝視する私に見せつける様に、殊更ゆっくりとした動作で、モエギさんの右手が剣の柄に掛かる。


スラリと鞘から引き抜かれた刃が、鈍い光を放った。



……怖いっ…怖い……!!!



今までの余裕が、一切取り払われる。

生まれて初めて見る真剣は、圧倒的な存在感と生々しい恐怖を私に刻み込んだ。



気を抜くと足元から崩れ落ちそうな自分を叱咤し、私は視線はモエギさんから外さないまま、足元の棒へと意識を向ける。



一刀目を、避けれれば、何とか時間を稼げるかもしれない。

避けたと同時に火かき棒を拾い上げ、それで防ぐ。



脳内で必死にシミュレーションしていた私は、凝視していたモエギさんの、一瞬の違和感に眉を潜めた。



それはほんの、瞬きする間の出来事。

必死に見つめていたからこそ気付けた、一瞬の仕草。



モエギさんは、獲物である私では無く、ルリカ様の方を確認したのだ。



「……っ!!!」



それからは、良く覚えていない。


ただ、言うなれば、体が動いたのだ。考えるよりも先に。



「きゃっ!!?」



モエギさんが高く掲げた刃が、私の方では無くルリカ様へと振り下ろされる直前、私はルリカ様へとタックルをかけた。



勢い余って、壁にぶつかったと同時に、ヒュオ、とすぐ横の空間が、切り裂かれる。


「……っ、」



間一髪。

私の背筋を、冷たい汗が伝う。



腕の中のルリカ様を抱き締めたまま、私は顔を上げた。



無表情では無く、蔑む様な冷たい瞳をしたモエギさんは、改めて刃を、私……否、私の腕の中のルリカ様へと向けた。



……一体、何がどうなっているの……!?



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