表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/120

07



「……ルリカ様。」


「……っ、」



私の呼び掛けに、彼女は体を震わす。細い肩が大きく揺れた。


先程までの勝ち気な部分はなりを潜め、ルリカ様は私に……いえ、私の突き付けた現実の重さに怯えている。



「……ル、」


「知らないっ! 私は何も知らないわっ!!」



もう一度呼ぼうとした私の声は、取り乱したルリカ様の声に遮られる。

全てを否定する様に、ルリカ様は耳を塞ぎ激しく頭を振った。



「落ち着いて、話を聞いて下さい。」


「私は何もしていないわっ!」



窘めようとしても無駄だった。ルリカ様は私の言葉を聞こうともしない。


事の重大を、今更自覚しても遅いのだと、彼女自身もたぶん気付き初めている。

でも受け止めきれなくて、目を反らしているんだろう。



「私は何もしていない! ……そうよ、侍女が勝手に言った事だわ!! 私は悪く無い。」


「ルリカ様っ!!」


「っ!?」



突然声を荒げた私に、ルリカ様は、目を見開き息を詰めた。



「……ルリカ様、」


「………………。」


「……それは一番してはいけない事。貴方がした事の責任は、貴方が負うしかないのです。」


「……わたくしはっ、」


「ルリカ様っ!」



ルリカ様は、ぐずる幼子の様に、大きくかぶりを振る。


何も聞きたくないのだと言わんばかりの彼女の肩を掴み、私は視線を合わせた。



「もし貴方が此処で侍女に罪を擦り付けたら、その方はどうなるとお思いですか!!」


「知らないっ! もう聞きたくない!!」


「聞きなさいっ! いいですか、ルリカ様。身分というものは法においても不平等をもたらすのです。同じ罪を犯したとしても、貴方ならば罰金や身分剥奪で済むところを、平民では肉刑……下手をしたら死罪になる可能性すらあるのですよ!! その重さを背負えるのですか!?」


「っ!!」



アヤネ様に教えていただきながら、私は少しずつこの国の事を学び始めました。



身分制度、政治体制、法律……まだ読み書きも完璧では無い段階なので、正直、ちんぷんかんぷんだったりする。

それでも手探りで進んでいた私は、法律を学び、とても驚かされた。

身分制度がある以上、全てが平らであるとは思わなかったけれど、ここまであからさまに差があるなんて。



罰金刑は、庶民にはとても払える金額ではありませんし、耳馴染みの無かった『肉刑』の内容に、吐き気を催した。



体の一部を削ぐなんて、考えられない。いくら罪人とはいえ、酷すぎる。

死罪も肉刑に含まれる様ですが、息たえるまでの間、藻掻き苦しむものもあって……。


此処は、私が生まれた国では無いのだと、痛切に思い知らされた。



「無実の罪で殺された人の無念や恨み辛み、その家族の苦しみまで、貴方に背負えますか!?」


「……煩い煩い煩いっ!!! わたくしは知らないと言っているでしょう!! モエギッ……モエギーッ!!」



私の手を振り払ったルリカ様は、激昂した様に叫び、モエギさんを呼ぶ。



「はい。」



今まで扉の前に直立したまま、人形の如く微動だにしなかったモエギさんは、主人の呼び掛けに、平坦な声で返事をした。



「……この女を、消して。」


「……っ、」



ルリカ様は、私から間をとる様に数歩後退る。

胸のあたりをギュッと押さえ、絞り出した声は、震えていた。



ゆっくりと持ち上げた手で私を指差し、ルリカ様は綺麗な顔を歪める。



「私の前から、消してしまって……!!」



.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ