05
少し……少しだけ、絆されてしまいそうになった。
だって、気持ちは分かります。
素敵ですよね、陛下。格好良いですよね、陛下。
分かります。……でも、ルリカ様。
これは見過ごす事は出来ません。
陛下の許し無しに、外部の人間を招き入れた事だけでは無い。
私は、カンナやイオリの情報、そして自分で現場を見て、一つ、辿り着いた仮定がある。
「……だから、賊に襲われたなんて嘘をついたのですか?」
二度目の件だけでは無い。
もしや、一度目の事件も?
そう、思い至ってしまったのだ。
「!!?」
私の言葉に、ルリカ様は明らかに動揺した。
元々大きな目が、際限まで見開かれている。
「……な、何を、……わたくしに向かって、なんて事をっ……、無礼でしょう!!」
一瞬取り乱したものの、ルリカ様は直ぐに我に返り、声を荒げた。
「嘘では無いと?」
「嘘なんてつきませんわ! 貴方こそ、何を根拠にそんな事を……、」
「根拠は、目撃証言の少なさ……そして、その数少ない目撃証言の不可解な部分です。」
証拠が無い以上、ただの推測でしかない。
発言には気を付けなければならないと思ってはいたけれど、……でももう、此処まで来たら躊躇していられません。
私もルリカ様も、瀬戸際。
今を逃したらきっと、色んな事が手遅れになる。
「どこが不可解だと言うのよっ!!」
「……目撃した場所は、この部屋を出てすぐの通路、でしたよね。賊の特徴については、頭と口元を黒い布で覆い隠し、黒衣を身に纏った大柄な男、との事でした。」
「……それの何がおかしいの。」
「そうですね……、まず特徴の方ですが、真夜中でも無いのに、黒一色って、逆に目立つんじゃないでしょうか。」
「……っ、」
「後、格好がそのまんま過ぎるというか……。」
賊の特徴を聞いた私が、一番先に思った事は、『テンプレ』だった。
「争いごとに縁の無い貴族の子女が思い浮べる、賊の姿そのまま……って気がしたんです。」
ベタ過ぎてリアリティーが無い、と思った。
それでふと思い出したんです。
私が女子高生だった頃、近所で事件が起きました。
道を歩いていた人が、暴漢に襲われ、幸い怪我は無かったものの犯人は逃走。
警察が公開した犯人の特徴は、帽子にサングラスにマスク、と個人を特定出来る情報はほぼ無し。
小説か漫画の犯人みたいだけど、現実でもそんな格好するもんなんだな、と私は思ったのですが……後日その事件は、自作自演……狂言である事が判明。
後から考えると、冬場か花粉症の時期ならともかく、初夏にその格好は逆に目立つよねぇ、と納得したものだったけれど。
まさに今回も、それと同じです。
夜でも無いのに、黒ずくめは目立つ。
後宮内でも勿論だが、辿り着くまでの道程でもかなり目を引く筈だ。
それで、もしや……と思ったのですが、同時に気になった。嘘をついたとしたのなら、何故、真夜中にしなかったのか。
賊を見たと証言された時間は、夕方。何故、そんな中途半端な時間にしたのかと。
そこで、目撃場所が絡んでくる。
「次に場所、ですが……この部屋って、基本護衛からの死角が殆ど無いんですよね。」
ルリカ様の部屋は、後宮の裏門に近いので、正面側は門番から見える。左に曲がってすぐの通路は、門番からは死角になるが、今度は別の定所の見張り番の視界に入ってしまう。
「交代の時刻…それも、ほんの僅かな時間くらいです。完全に人目が無くなるのは。」
「っ!!」
夕刻が、見張り番の交代の時間。
ルリカ様の部屋に近い場所で、『たった一人だけが、賊を発見する』には、その時間である必要があった。……私はそう考えました。
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