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02



モエギ、と呼ばれた女性武官は、まるで人形の様だった。


イオリの様に、非常に整った顔立ちをしている、という意味の比喩では無い。

確かに整った顔立ちではあるのだが、彼女には『表情』というものがまるで無かった。



例えば近衛軍のセツナ・イノリ大将も表情豊かでは無いが、それでも変化はある。

機嫌が良ければ、僅かに口元が緩んだり、不愉快に思えば、眉間にシワが寄ったりと、感情が出るものだ。



なのに、彼女にはソレが無い。すぐ傍で、諍いが起こっているにも関わらず、モエギさんの表情は、ピクリとも動かなかった。

まるで全ての感情を、凍り付かせているかの様に。



「……しかし彼女は、近衛軍には属しておりません!後宮内部の事にも詳しく無い。有事の事を考え、どうか我らをお側に!」


「……近衛軍に所属する事が、そんなに重要な事かしら?」



必死な武官の説得を、ルリカ様は鼻で哂い一蹴した。



「後宮の内部の事なら私が知っているわ。近衛軍がどれ程優れているかは知らないけれど、モエギの方が優秀で忠実だわ……少なくとも主人に口答えなんてしない。」



ねぇ? と笑みを向けられても、モエギさんは全く表情を変えない。平坦な声で『御意に。』とだけ呟く。


忠実という表現が滑稽にすら聞こえる。否定しない事は、忠実である事と同義語では無いでしょう。


この言葉に、武官らは激昂した。


……これは確かに、ルリカ様の失言です。

彼女等のみならず、近衛軍そのものを侮辱する発言をし、更に傲慢にも己を主人だと言い放った。


近衛軍の主人は、あくまで皇帝陛下、唯一人。私達を護っている事も、陛下のご命令にすぎない。



「首を縦に振るだけの人形を、忠実な家臣だと仰るか!! そもそも我々は、その者が後宮に入る事事態納得していない!」


「ぶ、無礼なっ!! 私を誰と心得る!? 」



……ヤバイな。


近衛軍所属の武官の方々の言い分は、最もだ。まったくもって正論です。



でも、例え正論であっても、相手に理性と聞く耳が無ければ意味が無い。

寧ろ、権力を振りかざされたらそれまでだ。



「事実です。」


「っ! …吏部尚書の娘であり、現皇帝陛下の側室である私にその様な口をきいて……覚悟は出来ているのでしょうね!? モエギっ!!この者達を……」


「っ!!」



本格的に、マズい!!

目の端で、相変わらず無表情のモエギさんが、剣の鐔に親指をかけたのを見て、私は咄嗟に割って入った。



ルリカ様が最後まで言い切る前に、手を振り上げ、近衛軍の武官の頬を打った。パァン、と渇いた音が鳴る。


ああああ……ごめんなさい……っ!! 音は大きいけど、あんまり痛く無い……筈なんですが。



「……っ?」



護衛の方は、大きく目を瞠った。その瞳に浮かぶ感情は怒りでは無く、戸惑いと疑問だ。

ルリカ様さえも、驚愕している。



「……無礼でしょう。身の程を弁えなさい。」



……本当に、ごめんなさい。でも、吏部尚書の愛娘相手に無謀ですよ。

此処はどうか堪えて下さい。



そう心の中で願いながらも、私は冷たく吐き捨てた。



「さぁ、ルリカ様。この者達は放っておきましょう。……私にご用事があるのですよね?」


「……え、………そうね。」



呆然としていたルリカ様にそう促すと、彼女の意識は私へと戻った。

……良かった、けど、嬉しくは無い。



自分でピンチを招いてどうするよ……。



「サラサ様っ……、」



必死な声に、私は振り返らなかった。


長いため息をつきたくなった私の後ろで、ゆっくりと扉が閉まったのだった。



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