04
「…………。」
用意してもらったお粥を取り分け、手渡そうとしたが、ホノカ様は受け取ろうとしなかった。寝台の上で膝を抱えたまま俯いている。
私の、空気を読まない発言のせいで怒りを削がれたのか、さっきまでの勢いは無いけれど、眉間にシワを寄せたまま、ムス、と黙っている姿は、拗ねた子供の様です。
シーツは被ったままですし…。小さい女の子みたいで可愛い事は可愛いんですが…。
「…ホノカ様。ご飯食べて下さいな。」
「……………。」
ほら、とお粥を渡そうとしても、ホノカ様は益々俯く。膝に顔を埋めて、こっちを見ようともしません。
……誰か助けて下さい。
「………………。」
困ったな…。
私が一つため息をつくと、ホノカ様の肩がピク、と小さく揺れた。
それを見て、私は苦笑を浮かべる。
だって、その反応はまるっきり、拗ねた子供のものですよ。
顔を背けつつも、意識は此方に完全に向いている。お母さんに反抗しつつも、怒らせはしないかと気にしている子の様。
私は器からお粥を一さじ掬う。
時間が結構過ぎてしまった為、冷まさなくても丁度良い温度になっていそうだ。
「…ホノカ様。あーん。」
「…っ!?」
私の呼び掛けに、チラリと此方を窺い見たホノカ様は、私の行動に目をむいた。
驚いてますねー…まぁ、女の子同士であーん。は無いです…確かに。
ですが!!痛かろうと関係無い!!優先事項は、まずはホノカ様の栄養摂取です!
嫌ならご自分で食べましょうねー。
「……いらな…ムグッ!?」
拒絶しようと開いた唇に、半ば無理矢理突っ込みました。
「………………。」
お嬢様であるホノカ様は、無理矢理食べさせられたにも関わらず、ちゃんと咀嚼している。口の中にものが入っている時に話すなんて論外なんでしょうね。
「…っ、…何す…ングッ」
はいはい次ですね。
飲み込んで、やっと抗議しようとしていたところに、再びお粥をイン。
鬼畜と呼ばれても、止める気は無いですが何か。
そのまま数回、そのやり取りを繰り返す。学習能力が無いあたりに少しキュンときました。
「………………、」
最後の方には諦めたのか、ホノカ様は何も言わずに口を開け、お粥を食べていた。
「………………。」
取り分けた分は、あと少しで完食です。
もう少し食べて頂きたいところですが…その前にお茶でも用意しますか。
最後の一さじをホノカ様の口に運び、カンナを呼ぶべく振り返ろうとした私は、目の前の光景に目を瞠る事となった。
「……………、」
ホノカ様は、無言のまま、泣いていた。
透明な雫が、白い頬を滑り落ちる。ホロホロ、ホロホロと、とめどなく。
「…ちょ、……ホノカ様っ!?」
私は吃り、慌てふためいた。
…これはもしかしなくとも、私が泣かせたんですよね!?
無理矢理食べさせたのが、そんなに屈辱的でしたか…!!
「………っ、ふぇ…」
「…ご、ごめんなさいっ!!」
ホノカ様はしゃくり上げ、本格的に泣き出した。
私はその背中を擦りながら、謝る事しか出来ない。
殴られる覚悟はしたんですが、まさか泣かれるとは…そもそもこんな場面で殴れる様な方なら、閉じこもって無いって話ですよね。…失念してました。
ああああ……どうしよう……。
「………?」
途方に暮れている私の袖口を、つい、と何かが引っ張る。
視線を下げると、ホノカ様の細い指が、私の袖を掴んでいた。
「………ホノカ様?」
呼び掛けながら覗き込むと、袖から移動した指が、私の手を握る。
縋る様な懸命な力に、私は目を見開いた。
「………ホノカ様…」
「……っ、…」
そっと手を回し、震える背を、ぎゅうっと抱き締める。
私の肩口に顔を埋めたホノカ様は、小さな子供の様に泣き声をあげた。
「……っう、ふ、あぁあっ…!!」
背中に回ったホノカ様の手の力は、痛いくらいだったけれど、私は何も言わず、ポン、ポン、と一定のリズムで、ホノカ様の背を叩いていた。
それ位しか、出来なかった。
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