側室(仮)の悩み。(2)
数日悩んで、カンナを心配させていた私ですが、気分転換しようと庭へ散歩に出た日、ある事に気付いたのです。
東屋から咲き誇る花々を眺め、のんびりと過ごしていた私は、視界の端に回廊を歩く少女の姿をとらえました。
数人の侍女をつれ回廊を進んでいるのは、楚々とした美少女。お名前は確かシャロン様、と仰ったか。
鴻国の藩属国の第三王女――そう、正真正銘のお姫様なのだ。
初めてお会いした時はあまりの可憐さに、大人しやかな美少女!!リアルプリンセス!!とひそかに興奮したりしたものです。
(……ん?)
ゆったりと回廊を歩いていたシャロン様は、何かに気付いた様に顔を強張らせ足を止めた。
彼女の視線を辿り、前方に目を向けると、誰かが歩いてくるのが見える。
沢山の侍女の先頭を堂々とした様で歩くのは、咲き誇る大輪の薔薇の様な艶やかな美女。
鴻国の有力貴族の令嬢、アズミ様だ。
彼女は、シャロン様に気付いたようだが、全く歩調を緩めずに歩く。
逆にシャロン様は、廊下の端へと寄ってしまった。
……完全に負けてる。
怯える様に俯くシャロン様をアズミ様は一瞥し、馬鹿にする様に鼻を鳴らす。
……いくら王女様といえど、藩属国の小さな国の第三王女。しかも彼女自身、とてもか弱く大人しい方なので、余計に侮られてしまう。
アズミ様が去った後、シャロン様はお付きの侍女の制止を振り切り、泣きながら駆けて行った。
たぶん擦れ違った時に、なにか言われたんだろうな。15くらいの少女が、あんな百戦錬磨っぽいお姉さんには勝てないよね。可哀想に。
……見ての通り、後宮の側室同士はとても仲が悪い。
後宮とは、皇帝の寵を得る為に競い合う女の戦場だから、当り前といえば当り前なんでしょうけれど。
でも、折角こんなに麗しい女性が集まってるのに、喧嘩ばっかりじゃ皇帝陛下だって癒されないんじゃないでしょうか。
美しい妻達が、笑顔で仲良くしていてくれた方が、嬉しい筈。
「…………」
私は知らず知らずの内に、テーブルの上で手のひらを握り締めていた。
ずっと、後ろに控えていてくれたカンナが、気遣わしげに声をかける。
「……サラサ様?」
「……カンナ」
「はい」
振り返った私の顔を見て、カンナは目を瞠った。
今まで意気消沈していたのが嘘の様に笑う私に、カンナは瞠っていた目を笑みの形に細める。
「私、決めたわ!」
「はい」
何を決めたのかも言っていないのに、カンナは穏やかに笑んだ。
お元気になられた様で、ようございました。と私が元気になった事のみを喜ぶ。会話のキャッチボールが成り立っていない気もするが、良い侍女に恵まれたなぁ、私。
「カンナ、私ね……縁の下の力持ちになるわ!」
大好きな皇帝陛下の為に、何か出来ないかとずっと悩んでいた。
美しい女性達の様に、彼の目を楽しませる事も出来ず、教養ある姫君の様に、彼の興味のある話も出来ない。
詩歌や楽器など、雅やかな趣味も無く、私は彼の為に何も出来る事が無いと落ち込んでいたけれど……。
彼が後宮に来た時に、癒される様、煩わせる事が無い様に、私は、お姫様達を仲直りさせよう。
彼女達には色んな目的や責務があるから、それは簡単な事じゃないだろうけれど……。
それでも。
少しでも歩み寄れる様に、私が頑張ろう。
彼女達が、憂い無く咲き誇れる様。
彼女達が、皇帝陛下を満たし癒せる様に、
私には、私にしか出来ない事がある筈。きっと。
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