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03



空気が和らいだ所で、話を本筋に戻すべく兄は『ところで』と切り出した。



「目撃証言を集めさせていた件ですが…」


「ああ。」



陛下の顔も真剣なものに変わり、続きを促す様に相槌を打つ。



「目撃者は、エイリ家の侍女のみ。後宮内外を警備していた武官等は、誰一人見ていないそうです。」


「…矢張り、か。」



陛下は瞳をスゥと眇め、椅子に寄りかかり腕を組んだ。負荷を受けて椅子が僅かに鳴る。



「だからこそ、『誰かが手引きした』などという噂が流れたのでしょう。」



私の言葉に、陛下は今度は感情的になる事は無かった。

冷静になれば、取るに足りない事だと分かるのだろう。そもそも、サラサ様が当事者でなければ、この方はきっとそんな噂など『馬鹿馬鹿しい』の一言で一蹴していた筈だ。



「お嬢様方は、相当武官を見縊っているらしいな。…どんな手でどんな場所を通ればそんな事が出来る。」



後宮は、出入りにとても厳しい検査がある。

武官は勿論、側室や侍女も例外では無い。


外部の者を入り込ませるなど、まず不可能だろう。



元々勤めていた武官や侍女が凶手となる場合は防ぐ事が難しいが、素性が定かで無い者はまずそれらの職にはつけない。

一族郎党を巻き込んでまで、凶行に及ぶ者はほぼ皆無だ。…完全にいない、とは言い切れ無いが。



「底が浅い方々は、その様なところまでは考えておりませんよ。」



嘲る様に言った陛下の言葉に、兄はそう返した。

バッサリと切って捨てる言葉には、温度というものが感じられない。



「まぁな。」



陛下は雄々しい美貌に、皮肉げな笑みを浮かべた。



「侍女の証言一つとっても、お粗末過ぎます。『前の賊と同じ人物』と言いますが、『布で頭や口を覆った大柄な男』が何故『前と同じ人物』だと分かるのです?」



聴取に立ち合っていた私は、馬鹿馬鹿しい、と思いつつも軽く其処をつついてみた。

明らかに狼狽した侍女は、同じ色の布で顔を覆っていたから同一人物などとほざいていたが…黒い布が世の中にどれ程出回っていると思っているんだ。


大柄な男も然り。鴻国は武力に秀でる男が多いので、体格が良い男は数多居いる。



目が二つで鼻が一つ、口も一つだったから、同じ人物、と言っている様なものだと分かれ、と言いたい。



「何が目的かは、大体想像がつきますが…事の重大性をご理解されていないようですね。侍女もですが…あのご令嬢は。」



兄の言葉に、陛下は目を伏せる。その静かな表情からは、憐憫や同情は一切窺えない。


残酷な程に冷静な声が、呟く。



「姫君は、きっと深くは考えていないのだろう。…大勢の人間を巻き込み謀り、ひいては皇帝をも欺く事の罪の重さを。」


「……愚かの一言に尽きます。」



話の流れは最早、一点に絞られている。可能性の一つでは無く、結論として。



二度目の賊の侵入は、―――狂言である、と。



状況全てが導きだした答えがソレだ。



「…そうとも知らずに、父親である吏部尚書が騒ぎ立てておりますよ。陛下が娘をお守り下さらないのなら、自分が娘を守る、と。」


「…剣の持ち方すら知らぬくせに、よく言うわ。勝手にしろ……と言いたい所だが、アレは何をしでかすか分からんからな。」



馬鹿にする様に鼻を鳴らす兄に、陛下は苦々しい顔付きでそう返す。


先帝の頃の地位にしがみ付いている輩が多数いるが、その中でも吏部は、入れ替えをしたいと常々陛下が思っておられる部署だ。



「いっそ醜態を晒し失脚してくれると助かるが…それには周りを巻き込む可能性があるからな。」



長く息を吐き出す陛下に、私は表情を引き締める。



私は私の務めとして、サラサ様をお守りせねば。

あの方は、皇帝陛下の大切な方。ひいてはこの国の大切な方。



………そして、それだけでなく、


私自身の、大切なお方として。



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