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将軍閣下の見解。



「サラサッ…!」



バン、と開け放たれた扉から、陛下は少女の元へ駆け寄る。


寝室に私が踏み込む訳にもいかないので、手前の部屋で止まるが、開いたままの扉から見えた少女は、愕然としていた。



「陛下っ?」



少女の驚愕した顔には、『何故この方が此処に!?』とありありと書いてあった。



陛下の寵妃、『サラサ・トウマ』。年は確か17。父は工部の官吏。


目を瞠る様な美女では無いが、整った顔立ちの少女だ。陛下は『猫』の様だと言っていたが、確かに吊り上がり気味の大きな黒い瞳や艶のある黒髪が、毛並みの良い黒猫を彷彿とさせる。



戸惑う彼女をよそに、力強く抱き締めた陛下は『無事か…。』と深く安堵の息をついた。


本当に、他が目に入らない寵愛ぶりだ。



「後宮に賊が侵入したと聞いて、すぐにでも駆け付けたかったのだが、急務の仕事が入っていてな…遅くなって、すまない。」


「そんな事っ…!」



目の前にいても完全には安心出来ないのか、陛下は隠す様に彼女を抱え込む。


だが、唯一無二、至高の存在である皇帝陛下の寵愛を一身に受ける少女は、その事を喜び優越感に浸るどころか、(むずが)る幼子の様に身を捩り、陛下の腕を解こうとした。



「私は無事ですし、何事もありません。…それよりも陛下…何故いらっしゃったのですか…!」


「…何故とは、」



怒り、というよりは焦燥に顔を歪める少女に、陛下は戸惑っている。



「いつ何時、また賊が入るか分かりません。本日は王宮のご自分のお部屋でお休み下さい。」


「……何を言っている。」



苛立ちを隠しきれなくなっている陛下とは逆に、私は思った。面白い、と。



たかだか二十年弱しか生きていない娘が、己の身可愛さに保身に走るでも、皇帝の寵愛を受け図に乗るでも無く、不興をかう事を覚悟しながらも、皇帝陛下を諫める事が出来るのか。



しかも、



「貴方に何かあったら、どうするのです…!」



その、悲痛な叫びには、陛下への愛情以外のなにも、含まれてはいない様に感じた。



互いが互いを想い過ぎてすれ違っている事にも気付かず、陛下はらしくもなく少女と本気で喧嘩をしていた。


大人げ無い事この上無いが、それ程真剣なのだろう。互いに。



…流石に少女が哀れになり、助け船を出すと、陛下は苛立った目で私を睨んだ。



頭を冷やして下さい。


そう目で訴えると、陛下は舌打ちをして部屋から出ていった。



残されたサラサ・トウマは、気丈にも泣き崩れる事は無かった。それどころか、私に駆け寄り深々と頭を下げる。



「…ありがとうございました。どうか、皇帝陛下をお守り下さい。」



私は、目を瞠った。


この少女は、あの方の強さを知らないのか?



「……あの方は、私などよりずっとお強いですよ。」


試す様な私の言葉に、サラサ・トウマは迷い無く頷く。濁りの無い漆黒の瞳は、一瞬たりとも反らされる事はなかった。



「それでも、です。」



…本当に、面白い。


知りながらも、こんな過剰なまでにあの方の身を案じるのか。



「確かに、承りました。」



―――サラサ・トウマ。


この少女は、ただ愛でられ、傍にいるだけの寵妃には向かなくとも、もしかしたら、それ以上の器を持っているやもしれぬな。



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