側室(仮)の指導。
「…………反省しているの?」
「……はい。」
アヤネ様は腕組したまま、床に正座した私を見下ろす。古今東西…いや異世界ですが、反省させる時の格好は変わらないのですね。
「本当に?」
「そりゃもう!地の底よりも深く。」
「…貴方のその物言いが、真剣さを削ぐって、そろそろ理解してちょうだい。」
ハァ、とアヤネ様は深いため息をついた。
マ、マジですか。
私なりの精一杯の表現が逆効果だなんて…!
……と、いいますか姐さん…あ、足がそろそろ限界なんですが…。
痺れ過ぎて、足がついているかさえ認識出来なくなってまいりました。
「……あ、あの…もうその辺で…」
後ろで成り行きを見守っていたシャロン様が、おずおずとアヤネ様に言ってくれた。
流石わたしの天使…!!お土産無くてごめんなさい!!
「…シャロン様はこの子を甘やかしすぎです。」
「ですが…反省してらっしゃる様ですし…」
「…ぬるいです。そんな甘やかすから、こんな後先考えない子になるんですよ?」
…あっれ。私、元の世界でもこんな場面に遭遇した事がある気がしますね…。
というより、父と母に置き換えてみると日常茶飯事でした。ただ叱るのが母で庇うのが父でしたが。
ごめんなさい父さん。とばっちりでお小遣いを減らされた埋め合わせはいつか必ず…まぁ帰れたらになりますが。
「こんな危機感が無いままじゃ、いつか絶対危ない目にあいます。それからでは遅いのですよ?」
「…さ、サラサ様が危険な目に…?」
「ええ。それは嫌でしょう?」
「当然ですっ!……そうですか……それ、なら…」
「分かって下さいましたか。」
………あれ。
父を懐かしんでいたら、何かいつの間にか味方が消えました。アヤネ母さん交渉スキルパネェ…。
「…さぁ、味方はいなくなったわよ?」
「…………。」
あ、姐さん、イイ笑顔過ぎて怖いです…!!
ワキワキと指を動かしながらアヤネ様は、私へと近付いてくる。
い、いやぁー!!勘弁して下さいませお代官様ー!!
「…ち、ちょ……………っ!!!!」
ツツー…と、アヤネ様は痺れた私の足を辿る。感覚が無くなる程痺れた足にそんな事をされたらどうなるか…経験のある皆様にはお分かりでしょうとも。
「この辺はどう?」
「ひゃぁ………っ!!!!!」
「ほら、どうかしら?」
「や、やめ…っ!!」
私は余りの衝撃に、息を止めて団子虫の如く身を丸くして耐えるしかなかった…。変な声が出るのは許して下さい…。
「…本当に懲りたわね?」
「…………ひゃい。」
一通り私を虐めて気が済んだのか、漸くアヤネ様は正座をといてくれました。
…うぅ…足がプルプルする…。
生まれたての子山羊の様になりながらも椅子に座る。…隣を見ると、何故かシャロン様が真っ赤な顔をしていました。
……目を合わせてくれないのは何故ですか??
「…とにかく、」
いつもの書庫の定位置、私の向かいの席に座ったアヤネ様は、私を見る。
「あまり無茶はしないでちょうだい。今回の事で貴方は確実に、ルリカ様に目をつけられてしまったわ。」
「…はい。…ごめんなさい。」
アヤネ様の目は、純粋に私を心配して下さっていました。
申し訳なさに、少し俯いて謝罪すると、
しなやかな長い指が、私の頬をスルリと撫でる。
「…本当に、お馬鹿ね。人の事で怒るなんて。」
ムニ、と私の頬を押したアヤネ様は、言葉と裏腹に怒ってはいないようです。
慈しむ様な目は、お母さんが私を叱った後に見せてくれるものと似ていて…照れくさいのと同時に、………少し、ほんの少しだけ、寂しくなりました。…まぁ、ウチの逞しいお母さんは絶対元気でやっているでしょうが。
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