側室(仮)の交流。
「…え、えと…その……ご一緒に、お茶でもいかがでしょうかっ?」
「……………………。」
扉を開けた格好のまま、私は数秒固まった。
…固まるでしょう。固まりますとも。こんな、私の妄想を具現化したのではないでしょうか?と言いたくなる様な可愛らしい子がおりましたら。
朝食のおかわりまでしたのに、また夢の世界に迷い込んでしまったのかと思いました。
ああもう…顔を真っ赤にして、そんなプルプル震えて…何処の天使様が迷い込んだのかと…。
あまりのシャロン様の愛らしさに、私がうっとりと見惚れていると、シャロン様は何を勘違いしたのか慌てだした。
「……やはり、直接お誘いするのは…失礼ですよ、ね……ごめんなさ…」
「シャロン様。」
「…は、はい…?」
慌てたかと思えば、ショボンと俯くシャロン様を、私は真顔で遮った。
「抱き締めてもいいですか?」
「………え、……え??」
「ぎゅうっとしてもいいですか。いいですよね。」
「…ええっ?は、」
答えを聞かずに、私はシャロン様をきゅうっ、と抱き締めた。
シャロン様が真っ赤になってワタワタしているのを見て、少し反省しました…だが後悔は無い。
だって超いい匂いする…!!柔らかい…髪サラサラ……いつも思いますが、私シャロン様といると、越えてはいけない壁を乗り越えそうになります。
おっとこの位にしておかなければ衛兵を呼ばれてしまいますね。
少し残念に思いつつも、そっと離すと、シャロン様はリンゴの様に真っ赤な顔で私を見ていた。
「申し訳ありません。…シャロン様が、凄く可愛らしかったので。」
「……わ、わたくしが、ですか…?…そんな事、」
戸惑った様な照れ顔もまたキュート…!!
一頻り、そんなシャロン様を愛で満足していると、少し落ち着いたシャロン様は、
俯き加減で視線を彷徨わせながらも、最後にとんでもない爆弾を投げつけてきた。
「……ですが、…その、嬉しかったです…。」
「………!!!」
……吐血しなかった私を誰か誉めて下さい。
「…本当に、私もご一緒してもよろしいんでしょうか?」
書庫の前に辿り着いた私が、扉に手をかけると、シャロン様は不安そうに私を見た。
一緒にお茶をしましょう、とのシャロン様の誘いに即座に頷きたかった私ですが、先約があるのでそうも行きません。
ですが、折角勇気を振り絞り私を誘いに来て下さったシャロン様とこのまま別れるのも寂しい…なら、一緒に書庫へ行きませんか、と誘ったのでした。
「大丈夫。美人さん…アヤネ様はお優しい方ですから。」
そうそう。
先日漸く、美人さんと互いに自己紹介をする事が出来ました。テンパって名乗り忘れていたのです…なんたる事。
「本にのめり込むと、たまに存在自体忘れ去られたりもしますし、興味を持った事には突進しがちですが、基本的に…、」
基本的には面倒見の良い方で、とても素敵な女性ですよ。
そう締めくくる筈だった私は、言葉をそこで飲み込む。
いつの間にか開いていた扉から伸びた手が、後ろから私に絡み付いたからだ。
しなやかな指先が、私の頬を両側から押さえる。
「…余計な口をきくのは…この口かしら?」
「…………………。」
冷ややかな笑みを浮かべるアヤネ様に、私は内心冷や汗たらたら。
…ご、誤解です。
フニフニと両頬を押された不細工な顔で私が、あうあうと混乱していると、腕にぎゅうっと何かがしがみ付いた。
「……あら。」
美人さんはキョトンと目を瞠った後、にんまりと意地悪な笑みを浮かべた。
その視線を辿ると、私の腕に抱き付いていたのは…シャロン様でした。
ビクビクと震えながらも、私の腕を掴んでいるのは、もしや庇ってくれているんでしょうか…!?
か、…可愛い!!!
「今日は可愛らしい子猫が張り付いてるわね。何処から攫ってきたの?」
…すっかり面白がってますね。アヤネ様。
楽しそうなところ申し訳ありませんが、訂正させていただきますよ。
「シャロン様は猫じゃなく小鳥さんです。可憐で綺麗で繊細な小鳥さんなのですよ!」
胸を張って宣言した私を、アヤネ様は、とても残念なものを見る目で見た。
「…訂正するところは其処なの。」
……え。他に何処が?
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