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側室(仮)の勉強。



「鴻国の歴史は、侵略の歴史。」





書庫の一角に設置されていたテーブルに地図を広げると、美人さんはそう語り始めた。



クリーム色の紙に書かれた地図は、やはり私には見覚えの無いもので、此処が異世界である事を改めて感じる。

地図に描かれているのは、犬の横顔のような形の大陸が一つ。そしてその鼻先から口の辺りにかけて、大きめ島が二つ。


小さな島を除けば、描かれているのはそれだけ。

この世界に大陸が他には無いのか、それとも航海の技術が発展していない等の理由で発見されていないのかは、判断がつかない。



「この国は、初めは小さな国だった。…鴻国の前身は、大陸の南方にあった国『(さい)』。農業が盛んな小国にすぎなかったわ。」



美人さんは犬の下顎の辺りを指差し、この辺りね、と指先で小さな円をかいた。



「その小さな国は、ある日襲撃を受けた。…襲ったのは、故郷を持たない流浪の民『鴻』。一族の大半の人間が傭兵などを生業としていた、戦闘部族相手に、農業国に勝ち目など無く、『采』はあっさりと滅びたそうよ。」


「……それじゃあ、鴻国を起こしたのは、」


「そう。王族全員を処刑し、新たな王として立ったのは、侵略した部族の長。国名を部族の名と同じ『鴻』と定めた男が、鴻国の始祖よ。」



美人さんが言った通り、鴻国の歴史は侵略の歴史だった。


戦闘に特化した部族が治める国は、次々と戦争をおこし、周辺諸国を飲み込んでアメーバの如く国土を広げていったそうだ。


サラリと説明された美人さんの言葉は、シンプル故に包み隠さず、全編通して実に血なまぐさかった…。



今の鴻国の国土は、大陸の約三分の一。

現時点では戦争は無いものの、数年前までは争いがあったらしい。

鴻国の北に位置し、険しい山を挟んだ隣国である『レダ』は、シャロン様の母国。先の戦争で鴻国に敗れた国と同盟を結んでいた為、終戦後、鴻国の藩属国となったという。



……シャロン様が、怖がるのは無理のない話でした。


負けた国のお姫様が、元敵国へ嫁ぐ。…それは想像以上の恐ろしさでしょう。



「ちなみに、『レダ』の同盟国『カイロア』を滅ぼしたのは、現皇帝陛下よ。」


「…………え……?」



私は、目を大きく見開いた。


ついでの様にあっさりと告げられた言葉に、何の対処も出来ずに、ただ呆然とする。



「戦争を起こしたのは先帝であるあの方の父君だけれど、指揮をとり、戦の勝利を掴み取ったのは、現皇帝陛下。」



皇太子でありながら前線で指揮し、馬を駆り敵を屠る彼の人を、自国の民は『軍神』と、他国の民は『死神』と呼んだという。



個人の能力もずば抜けているが、戦略を練り人を動かす事に長ける彼は、指揮を任された戦い全てを勝利へと導き、鴻国の発展に多大な貢献をした。



…自国から見れば、ヒーローであり守り神であっても、他国から見れば、侵略者で略奪者。



呆然としたままの私を一瞥し、美人さんは、地図をパタンと閉じた。



「…通り過ぎた後に血の道が築かれる、血塗れの『紅帝』。……お嬢様の初恋相手としては、少々厄介すぎやしないかしら?」


「……私は、」


「…貴方が優しいと感じたあの方の手は、沢山の人間の血に塗れているわ。…直接的ではないかもしれないけれどその中には、貴方位の女の子や、小さな子供のものも、含まれている。」


「…………………、」



一言も発しなくなった私を、美人さんはじっと見ていた。

質の悪い好奇心、と言っていたのに、その瞳は、思慮深い光を宿している。



「……あの方は、貴方の手に負える様な方ではないわ。」



背負いきれないのなら、聞かなかった事にするのも選択肢の一つよ。



そんな言葉を聞きながら、私は握り締めていた手をゆっくりと開き、手の平を見つめていた。



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