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側室(仮)の発起。



「………………美味しい。」



カンナの淹れてくれたお茶を飲み、ゆっくり深呼吸をしたシャロン様は、そう小さく呟いた。



「…よかったです。」



落ち着いた様子のシャロン様に、私も漸く安堵の息をついた。



もう涙は零れていないものの、目は充血しているし、目元も鼻の頭も赤い。

一目で泣いた事がバレてしまうシャロン様をお部屋に帰すわけにもいかないので、一時私の部屋に避難していただきました。



侍女の皆さんが心配してしまうので、言伝をカンナにお願いしたので、今は部屋に二人きりです。



「落ち着きました?」


「………………。」



私の問いかけに、シャロン様はコクリと頷く。

カップを置くと、顔を上げ、じっと見つめていた私と視線を合わせた。



「…ご迷惑をおかけ致しました。」



ゆっくりと、だが綺麗な所作で頭を下げるシャロン様に、私は慌ててかぶりを振る。



「迷惑じゃないです!!寧ろ役得…じゃなかった…此方こそ驚かせてしまって。」



やっばい本音がダダ洩れた。

言い繕う私をシャロン様は不審に思う事は無かったようで、穏やかな微笑を浮かべ『ありがとうございます。』と言ってくれた。



それから少し恥じる様に頬を染める。



「…子供みたいに泣いてしまって…驚かれたでしょう?」


「いえ!寧ろ激萌えた………ゴホン、…不安定な時くらい、誰にでもあります。」



…うん、自重しようか私。


さっきから言動が変質者だから。なんか最近女子高生の皮を被ったオッサンになりつつあるから。



冷や汗をかきながらも、誤魔化す為にヘラリと笑むと、シャロン様は不思議そうに首を傾げた後、ニコ、と控え目に笑んだ。



「……私、此処に来てから、優しくされた事がなくて……あ、勿論侍女の皆は良くしてくれるんですが…対等に話して下さる方がいなくて…………その、嬉しかったんです。」


「…………!!!!」



シャロン様は、僅かに俯きながら、はにかむ様にクシャリと相好を崩す。



不意討ちに見てしまった私は、思わず顔を真っ赤に染めた。



…へ、変態とか言っちゃダメです。

だって見たかった笑顔が、こんな早く、しかも間近で見れたんですよ!?



…ていうか、可愛いー…!!!!!



ガン見している私には気付かず、シャロン様は俯き加減のまま話を続ける。


旋毛も愛い←



「…故国は、寒さ厳しい国でした。冬がとても長く、ほんの僅かな夏の間だけ訪れる渡り鳥はいましたが…あんな色鮮やかな鳥は、初めて見たのです。…だから、どうしても近くで見てみたくて。」


「…それで餌付けなさってたんですか。」



成る程。

確かに、鮮やかな鳥って寒い所にはいなそうなイメージだよね。



「………そんな事をしては、他の皆様の迷惑になるかもしれない、と分かっていたのですが、止められなかった。……私は寂しかったのかもしれません。」


「……シャロン様。」


「……ですから、あの…………これからも、仲良くしていただけますか…?」


「勿論…!!!」



思わず私がこぶしを握り締めて断言すると、シャロン様のお顔が嬉しそうに綻ぶ。


ああもう何ですかこの子。ぎゅうってしたいぎゅうってしたいー!!!



「…良かった。…此処に来て初めて、優しい方にお会いしました。」


「えっ、そんな事ありませんっ!」



そんな、おこがましい!!

私なんて、側室の皮を被ったセクハラオヤジですよ!?



ぶんぶん首を振って否定する私を見て、シャロン様は、何かを思い返す様に、伏し目がちに微笑する。



「……私、此処がずっと怖かったんです。他の側室の方も、衛兵も侍女も、…陛下も。」


「陛下も…?」



私は、シャロン様の言葉に、瞠目した。


私の中の陛下は、とても誠実で優しい人。


何を怖がる事があるのだろう、と思う。



だけどシャロン様は、堅い表情のまま続けた。




「…王族に生まれたからには、政略結婚は当然です。…ですが、鴻帝(こうてい)に嫁ぐ心の準備は出来ておりませんでした。」


「………?」



鴻帝とは、鴻国の王を、他国の人間が呼ぶ別称、とは聞いていたけれど…何か違和感を感じた。



それは、発音的な問題だけじゃなくて………怯え、畏怖の様な。



「………………。」



私は、この国の事を……いや、この世界の事を、何も知らない。



突貫的に詰め込まれた少ない知識だけでは、分からない事だらけだ。



シャロン様の国の場所も、

青い鳥の名前も穀物の名前も、



――シャロン様の、怯えの理由も。




「………………。」



…いいえ。私は、頭では分かっている筈です。


シャロン様の国は、鴻国の藩属国だと教えられました。

その時に、頭の片隅で思ったじゃないですか。



…戦争があったのかな、って。



現代っこの私には、テレビ画面の向こうの出来事。

でも此処では、現実…そう現実なのです。




…目を逸らすのは、ダメなのですよ、私。



これを機に、学ばなければいけないのかもしれません。



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