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側室(仮)の思案。(3)

 


「よくお似合いですよ」


 心の中で突っ込みを入れつつも、笑顔で答える。


「本当に?」


「はい」


 少し不安げに訊ねるホノカ様の言葉に、私は大きく頷いた。

 お世辞ではない。明るい色合いも、主張しすぎないデザインも、ホノカ様のイメージにピッタリだ。

 流石、ホノカ様のお父様。娘に似合うものを良く知ってらっしゃる。


 私が迷いなく答えた事に安堵したのか、ホノカ様の表情が緩む。紅潮した頬に両手をあてた彼女は、えへへ、と照れ笑いを浮かべた。


 可愛いなあ、もう。


「本当に、良くお似合いです」


「!?」


 突然、背後から声をかけられたホノカ様は、驚きに跳ねた。

 脅かされた猫みたいな反応に、思わず私も目を丸くする。


 振り返るホノカ様と同じく私も、視線を彼女の後ろへと向ける。すると、入ってきたばかりの少女は、困ったような表情を浮かべた。


「驚かせてしまいましたか……?」


 彼女が小首を傾げると、玉飾りの付いた紐で結ったプラチナブロンドが、サラリと肩口から零れる。八の字を描く眉の下、透明度の高いサファイアの瞳が不安げに揺れた。

 淡い桃色と紺を組み合わせた、可愛らしくも品の良い裙襦に身を包む美少女……シャロン様は、窺うように私達を見る。


「ごめんなさい。ご挨拶もせずに、突然声をかけたりして」


 しゅん、と萎れてしまったシャロン様に、私は慌てる。


「大丈夫ですよ! 全然驚いてません! ね、ホノカ様?」


「えっ……。あ、えと、うん。そ、そうね。驚いてないわ。全然」


 唐突に話を振られ、ホノカ様は動揺した。何で私に振るのと言いたげな視線を向けられたが、いいから頷いて下さいと目で訴える。

 空気の読めなさに定評のあるホノカ様だが、今回は伝わったようだ。全然驚いてないわ、全く、これっぽっちも。なんて、焦りながら繰り返している。


 でもね、ホノカ様。落ち込ませまいと必死なのは分かりましたが、言えば言うほど嘘くさくなっているという悲しい現象にはお気づきでないのですね。


 空回っているホノカ様と、沈んだシャロン様を順番に眺め、どうしたものかと、私は心の中で嘆息した。


「シャロン様」


 名を呼ぶと、彼女は俯きかけていた顔をあげる。


「シャロン様のお着物も素敵ですね」


 取り敢えず、意識を逸らそうと別の話を振ることにした。


 でも実際、シャロン様の裙襦も素敵だと思います。

 上は白の内衣に淡い桃色の上衣を重ね、下衣は深い紺。交領や帯も紺なので、全体的にバランスが良い。

 紺とピンクの組み合わせ、やっぱり可愛いなあ……。


「あ、ありがとうございます」


 シャロン様は、白磁の肌を淡い桃色に染めた。超かわゆいです。


 照れ笑いを浮かべるシャロン様と私の間に、ほのぼのとした空気が流れる。


「……そうよね」


 しかし、すぐに空気は固まった。

 不機嫌そうな声を聞いて、嫌な予感がした。ぎぎ、と油切れを起こしたロボットのように、ぎこちない動きで声の方を見る。

 すると、すっかりへそを曲げたお子様が、ジトッとした目で私を睨んでいた。


「シャロン様の方が可愛いわよね。……私より」


 ほっぺをプックリ膨らませて、ホノカ様はソッポを向いた。

 声も表情も動作も、全てで『拗ねてます』と主張している。


 しまった。また面倒臭いスイッチ押してしまいましたよ……。

 といいますか、さっきからループしてません? 拗ねる→ご機嫌→拗ねるって繰り返してませんか?

 私は一体、どのタイミングでタイムリープをしたんだろう……なんて遠い目をしながら私は現実逃避をしていた。




 その後、なんとか機嫌を直してもらい、三人でお茶をする事になった。


「お着物の翠にホノカ様の御髪の色が映えて、とても素敵です」


「え、そうかな。ありがとう」


 ホノカ様はシャロン様にも褒められて、すっかりご機嫌。面倒臭いけど本当、可愛い人です。


「マトリの布で仕立てられたのですね」


「そう。お父様からの贈り物なの」


 きゃいきゃいと、女の子らしい会話に花が咲く。

 うん、眼福眼福。可愛い×可愛いの可能性は無限大ですね。そんな変態くさい感想を抱いていた私だったが、ふと何かが引っかかった。


「……?」


「どうしたの? サラサ」


「いえ……。今、シャロン様は『マトリの布で仕立てた』と仰いましたよね」


 顎に指をあて、少し考えてから口を開く。


「はい」


「マトリの染め布は、一目見て分かる特徴があるのですか?」


 私もさっき、ホノカ様の着る裙襦を見て、マトリ産の染め布かもと思いました。でもそれは、あくまで推察。完璧な根拠あっての言動じゃない。

 でもシャロン様の言葉は疑問形ではありませんでした。


「はい。ございますよ」


「えっ。サラサ、知らなかったの?」


 もしかして、と思って聞いた言葉は、アッサリ肯定された。

 シャロン様は微笑んで頷き、ホノカ様は目を丸くする。


 この反応は、もしや常識だったりするのですかね。


「色彩の変化も見事ですが、最も特徴的なのは柄です」


 シャロン様の説明を聞きながら、ホノカ様を見る。すると彼女は私に見せてくれるためにか、わざわざ立ち上がってくれた。


「見て。この花の模様は、縫ってある訳じゃないのよ」


 ホノカ様の裙襦には、白い花の模様がある。

 それは糸で刺繍したものではなく、布に直接描かれていた。


「はぁ。そうですね?」


 思わず間の抜けた声が出た。

 確かに絵柄は美しいし見事なものだけど、何がそんなに珍しいのかが分かりません。


「……本当に分かっている? 刺繍ではなく、布に描いてあるのよ?」


 訝しげな目で見られ、私は戸惑う。


 確かに、私やシャロン様の裙襦の柄は刺繍。思い出してみると、陛下や他の側室方のお召し物も殆ど刺繍。

 もしかして、画期的な技術だったりするんでしょうかね……?


「わたくしの母国レダにも、文様染めはございましたが、このように細かで鮮やかな絵を着物に定着させる技術はありませんでした」


「定着ですか」


「はい。普通の絵の具でも描くだけならば出来るでしょうが、濡れれば落ちてしまいます。それに布に描いた場合、乾く前に他の色と混ざり合ってしまうでしょうね」


 シャロン様の分かり易い説明に、私はなるほど、と頷いた。

 日本生まれの私は、和服などで見慣れているため、その価値が分からなかったけれど、この世界では珍しいという事ですね。


「……」


 そこまで考えて、私は動きを止めた。


『この世界の文化水準は、私のいた時代からすると大分遅れている。向こうの世界の専門的な知識を持つ人ならば、歴史書に名を刻むことも出来たかもしれない』


 昨日の私が考えていた言葉が、頭の中を巡る。


 いくら珍しい物だからといって、その技術が異世界から持ち込まれたものだと考えるのは、短慮かもしれませんけれど……可能性はゼロじゃない。


 少し、調べてみましょうか。


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