▼【雷術・天九雷招法】(シューとプーの話)
【雷術・天九雷招法】
★ ☆ ☆ ☆ ☆
日付もとうに変わった深夜、従姉妹の部屋にノックもせずに闖入する女、プー。
「ハーイ、シュー。調子はどう?」
ソファに寝そべっていたシュー。プーの出現に驚愕し、ソファの背もたれに掛かっていたタオルケットを引っ掴むと、慌てて下半身を隠す。
「うわぁッ!? ちょ! な、なに!? なんなの? プー、あんた!?」
プー、ひどく動揺しているシューを横目に、シューが脚を縮ませて出来たソファの隙間にどっかりと腰掛ける。ソファのスプリングが大きく波打ち、2人の体が上下に揺れる。
「なに? ビックリした?」
プー、シューの大きく開いた瞳孔と、熟成したトマトほどに赤い頬の様子に気が付く。
プー、シューの下半身を隠すタオルケットの先っぽをつまみながら、
「あぁ、ごめーん。そっか、そっか。もしかしてオナニーしてた?」
シュー、プーに言い当てられた図星で羞恥心のマッドマックスを全開にし、そのほとばしりを口元から剥き出した鋭利な犬歯で表明する。ソファに敷き詰められているラシャ製カバーのクッションを、掴んではプーの顔面に投げ、掴んではプーの顔面に投げて、
「バカッ! そんなことやってない!」
プー、顔面に迫り来る無数のクッションを邪険に払い除けながら、
「いいじゃん。恥ずかしがらなくっても。みんなやってるよぉ。わたしもやってるし」
プー、ふと顔を上げて、一度座ったソファから腰を浮かせてキョロキョロと何かを探しながら、
「なんか道具とか使ってないの?」
プー、テーブルの上に程よい長尺のシャープペンを見つけて、
「ああ、これ? ペン使ってんの? いいよねー、ちょうどいい大きさだよね。どこにでも持っていけるし。怪しまれないしね」
シュー、ロケットのような推進力で右手を突き出し、獲物を捕獲した猛禽類と同等の致命的握力を誇る指先を、プーの喉笛に埋め込ませて、
「プー、あんた、本当に、今ここで息の根を止めるわよ」
プー、チアノーゼ気味の青白い顔面で、
「ず、ずびばぜん……」
☆ ★ ☆ ☆ ☆
【登場人物紹介】
★シュー(シュアラ・クレメ)★
魔女を目指す法都在住の学生。
おっぱいがない。(幾度となく捜索隊が出たが、彼らは遂にシューのおっぱいを見つけることができなかった)
外出時に魔女の叔母からもらったハロウィンハットを被るので、周囲からひどく浮いている。
自分の身長プラス15センチで眼鏡を掛けた細マッチョの彼氏が欲しい。
オナニーなんてしていません。
☆プー( プロフィトロール・オ・ショコラ)☆
シューの従姉妹で、シューと同い年。
おっぱいが大きい。(オープンカフェで会話をする2人組のビジネスマン。道路を挟んでカフェの反対側の歩道にプーが歩いている。プーに気が付いた男2人の視線が、たちまちのうちにプーの胸元へ吸い込まれる。プーの歩調に合わせ、まるでプーとは独立した意志を持つ巨大な球状ゲル生物2体が服の下で暴れでもしているかのような、衝撃的な上下運動をするプーの胸元。金縛りに遭ったように微動だにしないが、視線だけはプーの胸元を追い続ける男2人。プーの姿が曲がり角の向こうに消える。金縛りから解かれた男2人、互いに顔を見合わせるとほぼ同時にこう叫ぶ。『見たかよ、あのデカパイ!』)
彼氏はいないけど一夜の恋人は法都中に居る。
オナニーするくらいなら24時間年中無休で稼働する男友達を呼び出してセックスする。
☆ ☆ ★ ☆ ☆
ソファに深く座り込んで頭を抱えるシュー。
「なんなの? あんたなんなの? いま何時?」
プー、チョコレートバーを頬張りながら分厚い魔導書を持ち上げるが、重量に耐えかね、テーブル上へ叩きつけるように落とす。
ソファの前に備えられたマホガニーテーブル。テーブルの脚の高さはソファに合わせて、シューが自分でヤスリがけして調節した。
テーブル上。ミートソースで汚れた白磁の皿とプレーンフォーク。飲みかけの冷めたコーヒーが入った七色チェック柄のマグカップ。淡青色のガラスを組み合わせて造形されたカブト虫の置物。細身のガラス製円筒型一輪挿しにコスモスが咲く。その花弁は赤紫色の半透明。A3スケッチブックに描かれた真円の魔法陣の内側は、多彩で精密な幾何学模様に埋め尽くされている。スケッチブック上に散らばる24色クーピーペンシル。ツノの先割れから6本足の節まで、消しゴムを精巧に彫刻して造形されたクリーム色のカブトムシの置物。赤いフリットを散りばめたオレンジのガラスボウルに雪色の金平糖が山になっている。黒光りするカブト虫。カブト虫。ヘラクレスオオカブト。
魔道書の背表紙をブルドーザーのようにして、テーブル上の物々を乱暴に押しやって無理矢理スペースを作るプー。
「1時半。ちゃんとパンツ履いた? ねぇ、すっごい魔導書見つけっちゃったんだぁ。持ってきてあげたんだよ」
「つーか、そんなの、明日でいいんだけど。なんでこんな夜中に持ってくるんだよっ!」
「善は急げって言うじゃん? それにあたし明日は朝からキャンプ行くんだぁ。あっ、シューも行く? 夜、みんな全裸になってキャンプファイヤーすんの。楽しいよぅ」
「はぁっ? 全裸!? ななんで?」
「来まってんじゃん、明日は満月だからだよ! 満月の夜は裸になるでしょ?」
「い、いやいやいや、ならないし……しゅ、宗教?」
「違うよぉ、儀式だよ! 服着てたら月光のパワーが浴びれないじゃん? おかーさんも魔女になる前によくやってたんだって。そのおかげで魔女になれたんだって言ってたよ?」
「えっ。マジで?」
「うん。あー。でも、最終試験の試験官だった教授が一緒にキャンプに参加したせいかもしんない、とも言ってた。どういう意味かわかんないけど」
「……」
「で。で。シューも一緒にやってみる気になった?」
「……やんない」
「えーっ、絶対楽しいのに」
「あんた明日、っていうかもう今日か、朝早いんだったらさっさと帰んなよ。寝起き悪いくせに、起きれんの?」
「大丈夫! シューに起こしてもらうから」
「あぁ?! あんた、まさかウチに泊まっていく気なの?」
「だめなの? いいじゃーん。あ、オナニーの続きなら気にしないでやっていいからね。あたし寝たら朝まで起きないし」
「お、オナニーなんてしてないって言ってんでしょ!」
「大丈夫! もし眠ってなくても、シューが始めたらちゃんと目を閉じて、寝たふりしてあげるから」
シュー、ロケットのような推進力で右手を突き出し、獲物を捕獲した猛禽類と同等の致命的握力を誇る指先を、プーの喉笛に埋め込ませる。
シュー、口から剥き出したアパタイトなサメ歯をギラギラと光らせて、
「いい加減にしないと、マジ絞めッ殺すわよ」
プー、チアノーゼ気味の青白い顔面で、
「ず、ずびばぜん……」
☆ ☆ ☆ ★ ☆
シュー、プーの持ってきた分厚い魔導書を自分の手前に引き寄せる。魔術書の中ほどのページを開くと、細かな埃が舞い上がる。シュー、右手で口元を覆い隠す。
「うわっ、古っ! カビクサッ! こんなのどこから持ってきたのよ?」
「ウチの屋根裏だよ。隅っこの箱ん中に入ってた」
「なんで屋根裏なんかに」
「屋根の上でセックスしようと思って。ほら、今日、雲ひとつないいい天気だったでしょ? だから屋根の上でやろうって」
「……ああ、そう」
「うん。最初はマットレスにヒモ引っ掛けて、屋根からコトレッタ、ああ、コトレッタってのは最近バーで知り合ったセックスフレンドのことね。女の子だけど。で、屋根に登ったコトレッタが紐引っ張って、あたしが下からマットレス担いでハシゴ登ってくつもりだったんだけど、コトレッタったら全然力がなくて、2階のベランダで上がんなくなっちゃったの。だめだよねー、コトレッタってばあたしより腕太いのに。それで、しょうがないからマットレスは諦めて、ビーチ用のビニールシート敷けばいいかってことになって。そんで屋根に上がるために屋根裏行ったら、見つけたの。箱。そん中に入ってた」
「……ああ、そう……」
「どったの? ああ、ちゃんとセックスしたよ?」
「あんた、女の子でもいいんだ……」
「うん、たまにね。どうして? シューも興味あるの?」
「やめて。……叔母さんが保管してる資料じゃないの?」
「かもねー。でねでねぇ、見てみて、法都の魔術書じゃないんだよお。ああ、違う、もっと前のほうのページだよぉ」
シュー、ほぼ全体がカーキ色に酸化し、表面を指でなぞるとジャリジャリするページの端っこを、汚れ物を扱うような指使いで摘み、ぺろぺろとめくってみる。
「本当だ。何かしら、この文字って。専門じゃないから分かんないけど、極東の文字?」
「さっすがぁ、シュー! 古いエト文字だよ」
「エト? エトってあの、『森都・干支』のこと?」
「イグザクトリー(そのとおりでございます)! 『ニンジャー』の国だよー。ニンジャー、サムラーイ、えーっと、ぎゅ、牛タン?」
「『寿司』、『天ぷら』、『芸者』」
「あー、そうそう、それそれ。知ってる? 『ニンジャー』ってNingをする人の事を言うんだってさ。だから【Nin-g-er】なんだって!」
「いや、違うでしょ。だいたいNingってなんなのよ」
「えー? でも昔エッチしたニンジャーはそう言ってたよ?」
「……なんですって?」
「すっごいんだよ、ニンジャーってばさ! こっちで言うナイトストーカーみたいなもんじゃない? ああ、ストーカーはされてないけど。要は相手に気が付かれず忍び寄って、ヒュッ、ってなんか凄い速さで音も立てずに倒しちゃうんでしょ?」
「いや……知らないけど。そうなんじゃないの」
「エッチしたニンジャーも、エッチの最中に全然音立てないんだよ! すっごいの! あたしが何やっても、声だって出さなかったんだから! 相当訓練しているんだねぇ」
「あ、あぁ、そう、凄いねぇ……」
「そう! 凄いの! 入ったのも分かんなかったくらい! あたしビックリして思わず聞いて確かめちゃった!」
「……」
「そしたら『ニンジャーの刀はどんな場所でも扱いやすいように、短めなのさ。ハッハッハ』ってさぁ! あとで調べたら、本当に言うとおりだった! 徹底してるんだぁ、って感心しちゃったよぅ!」
「……」
「それでね、朝起きたらもうベッドからいなくなってんの。明るいところでは姿を見せないって、本当なんだねぇ。あれから1回も会ってないやー」
「あんたって、本ッ当に、分別ないっていうか……」
「ん? なに?」
「放っといたら、近所の犬でも猫でも、連れてきて始めそうよね……」
「ひっどいなぁ! そんな事はしないよう」
「そうね。ごめん、ちょっと言いすぎた。なんか、もう眠くって、イライラしてんの」
「うん。でも獣人としたことあるから。ああ、セックスをね。ううん、動物かぁ。あながち間違っていないって言えば、いないんじゃないかな」
「ああ、もう。本当に頭が痛くなってきたんだけど……」
「船乗りの【ラプタタ】とセックスしたんだぁ。つい最近、半年くらい前だよ」
【ラプタタ】
ラプタタは、人間と狼を掛け合わせたような外見の、二足歩行をする獣人。内骨格の構造はイヌよりも人間に近い。全身に体毛が生えており、身長は平均2メートルを超える。個体の知能と身体能力は人間と同等かそれ以上である事が多い。独自の言葉や文化、魔法技術、高度な航海技術を持つ。古くは手製のイカダや船舶などで世界中の海洋を横行し、他種族の商船や客船を襲撃する海賊行為で生計を立てていた。
若干だが現在も海賊行為を生業とする部族が存在する。それ以外の部族は主に海岸沿いの、独自に建てた都で生活をしているか、または異種族の建てた都で異種族と共生している。数世紀を海上で生活してきたラプタタだが、海がなければ生きていけないわけではなく、少数だが内陸で生活する者も存在する。
法都に居住するラプタタもおり、その多くが法都の管理する商港に勤務している。
※人間との異種族間生殖行動が可能な種族。
【終】
プー、頬を紅潮させ、口角からヨダレを垂らしながら、
「すっごかったよぉ、ラプタタ。人間のがソーセージだったら、ラプタタのは21インチの魚雷だよ! もう本当に、今までのは何だったの? って感じ! ビックリしちゃった! ニンジャーの10倍は軽くあったね! ラプタタをワンコだワンコだ、なんていう人がいるけど、あれは間違ってるよ。ワンコなんかじゃなくって、ケンタウロスだね。ああ、勿論脚が四本あるわけじゃないよ。又の部分がね、ケンタウロス。お馬さん」
「もう、何ていうか、プー、あんた、すごいわ。心から」
「褒めてくれてるの!? ありがとー!」
シュー、ロケットのような推進力で右手を突き出し、獲物を捕獲した猛禽類と同等の致命的握力を誇る指先を、プーの喉笛に埋め込ませて、
「だが殺す」
プー、チアノーゼ気味の青白い顔面で、
「ず、ずびばぜん……」
☆ ☆ ☆ ☆ ★
★ 続く ★
作業用BGM
【Nyan-Cat】
http://www.youtube.com/watch?v=QH2-TGUlwu4