表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

第15話 紅き牙の拠点

 3日後の朝、リーゼが宿の前に来た。


 1人だった。前回と同じ旅装だった。


「来たか」


「はい。出発できます」


 グリムとレンが後ろに立っていた。リーゼが2人を見た。それから前を向いた。


「ついてこい」



 グレンフォードを出て、南西に向かう。


 街道から外れた。獣道のような細い道が続く。木々が密になった。


 1時間ほど歩いた頃、開けた場所に出た。


 廃屋を改築したような建物が3棟あった。周囲に柵が張ってあった。見張りが2人いた。リーゼを見て、それからナナたちを見た。


 柵の中に入った。


 人がいた。


 数えた。13人。リーゼを含めると14人。全員がこちらを見ていた。様々な目だった。値踏みするもの、警戒するもの、純粋に興味があるもの。


 その中で、1人が前に出てきた。


 大柄な男だった。30代前半。槍を持っていた。顔に古い傷があった。目が鋭かった。


「ダリオだ」


 リーゼより低い声だった。ナナを見ていた。


「黒い翼の団長か?」


「はい。ナナと言います」


「子供だな」


「そうです」


 ダリオが腕を組んだ。


「リーゼから話は聞いた。俺たちに黒い翼に入れと言っているそうだな?」


「お願いしています」


「お願い、か」


 ダリオが少し目を細めた。


「断る理由を話してもいいか?」


「聞かせてください」


「俺たちは盗賊だ。長年そうやって生きてきた。傭兵団に入るということは、その生き方を変えるということだ。簡単に決めれることじゃない」


「そうですね」


「それに——」


 ダリオがナナを真っすぐ見た。


「お前を信用する理由がない」


 ナナは少し間を置いた。


「その通りです」


「反論しないのか?」


「はい。私たちは今会ったばかりです。信用は実績で作るものですから、今の段階でダリオさんが信用しないのは当然です」


 ダリオが少し黙った。


「じゃあ、なぜ来た?」


「全員の顔を見ておきたかったからです」


「顔を見てどうする?」


「名前と顔と役割を覚えます。一緒に動くなら、全員のことを知っておく必要があります」


 ダリオが少し眉を上げた。


「……今日、覚えるつもりか?」


「はい。よければ1人ずつ紹介してもらえますか?」


 ダリオが黙った。


 リーゼが言った。


「ダリオ」


「……分かった」


 ダリオが振り返った。


「オズ」


 細身の男が前に出た。40代くらい。眼鏡をかけていた。帳簿を脇に抱えていた。


「オズです。補給と経理を担当しています。よろしくお願いします」


「ナナです。よろしくお願いします」


「ジャック、ジョン」


 2人が並んで出てきた。どちらも20代。ジャックの方が少し背が高かった。


「ジャックだ。斥候やってる。よろしくな、団長さん」


 軽い口調だった。


「ジョンだ」


 それだけだった。


「ミラ」


 女が前に出た。20代半ば。落ち着いた目をしていた。腰に薬入れを下げていた。


「ミラと申します。衛生を担当しています」


 丁寧な言葉遣いだった。


「ナナです。よろしくお願いします」


 残りの8人も順に名前を言った。ナナは全員の顔と名前を繰り返した。声に出さずに確認した。


 全員の紹介が終わった。


 ダリオが言った。


「覚えたか?」


「はい」


「全員か?」


「はい」


 ダリオが少し黙った。それからジャックを指した。


「こいつ、こいつの名前は?」


 ナナはジャックを見た。


「ジャック。斥候。背の高い方」


「……こいつは?」


 ダリオが別の男を指した。中肉中背の男だった。


「カイル。剣。3番目に並んでいた方」


 ダリオが今度は小柄な女を指した。


「あいつは?」


「ティナ。左端に立っていた。武器は見えなかったので確認が必要です」


 ティナが少し笑った。


「ナイフです」


「分かりました」


 ダリオが腕を組んだ。しばらく黙っていた。


「……全員だな」


「はい」


「1回見ただけで覚えたのか?」


「覚えることは基本です。部下の顔と名前を覚えていない指揮官は信用されません」


 ダリオが少し目を細めた。


「部下、か。俺たちがそうなると決まったわけじゃない」


「そうですね。今日はそれを決めに来たわけでもありません」


「じゃあ何しに来た?」


「顔を見に来ました。それだけです」


 ダリオが黙った。


 リーゼが言った。


「飯にしよう。せっかく来たんだ」


 誰かが笑った。空気が少し緩んだ。



 食事は外でとった。


 火を焚いて、鍋を囲んだ。14人と3人が混ざって座った。


 ジャックがグリムの隣に座ってすぐに話しかけた。


「あんたが副団長のグリムか? すごい強かったよな。リーゼさんを倒したって聞いたけど、本当か?俺は気を失ってたから信じられなくてな」


「倒したとは言えない。峰で打っただけだ」


「それで倒れたんだろ? 十分すごいじゃないか」


 グリムは何も言わなかった。


 ジョンがレンの隣に座っていた。2人とも無言で食べていた。しばらくして、ジョンが言った。


「あの時の弓使いか?」


「そうだ」


「俺も弓を使う」


「そうか」


 それだけだった。2人とも黙って食い続けた。


 ミラがナナの隣に来た。


「失礼ですが、ナナさんは魔族ですか?」


「はい」


「魔法が使えるのですか?」


「少し」


「4属性と聞きました」


「誰から?」


「リーゼさんから。……すごいですね。治癒魔法は?」


 ナナは少し間を置いた。


「使えますが、消耗が大きいです」


 ミラが少し目を輝かせた。


「私、薬草と処置の知識はあるのですが、魔法はからきしで——あなたのような方と一緒に動けたら、助かる命が増えると思っています」


(真剣だ)


「治癒魔法は多用できません。ミラさんの処置と組み合わせて使うことになります」


「それで十分です。よろしくお願いします」


 ミラが頭を下げた。


 オズが向かいに座っていた。帳簿を見ながら食べていた。顔を上げた。


「ナナさん、黒い翼の現在の財務状況を聞いてもよいですか?」


「聞いてどうするんですか?」


「17人体制になった場合の試算をしたいです。収支が合うかどうか確認したいのです」


(すでに17人体制を想定している)


「構いません。後で話しましょう」


「ありがとうございます」


 オズが帳簿に何か書き込んだ。


 食事が終わった頃、ダリオがナナの前に来た。座った。


「1つだけ聞かせてくれ」


「はい」


「お前は黒い翼をどこまで大きくするつもりだ? リーゼに聞いたら、まだ言葉にできないと答えたそうだな」


「はい」


「今も同じか?」


 ナナは少し考えた。


「今も同じです。ただ——」


「ただ?」


「今ここにいる全員が、最後まで生き残れる場所を作ります。それだけは言えます」


 ダリオが少し黙った。


「……なかなか言うな」


「言うだけなら誰でもできます。だから今日、顔を見に来ました」


「どういう意味だ?」


「約束は言葉ではなく、相手の顔を見て交わすものです」


 ダリオがナナを見た。長い間、見ていた。


 それから立ち上がった。


「返事は明日出す。今夜、仲間と話す」


「分かりました」


「泊まっていくか?」


「お言葉に甘えます」


 ダリオが少し目を細めた。


「……度胸だけはあるな」


「盗賊団の拠点に来るくらいの度胸はあります」


 ダリオが短く鼻を鳴らした。笑ったのかもしれなかった。


 踵を返して仲間のところへ戻った。


 リーゼがナナの隣に来た。


「どう思った?」


「いい人たちです」


「盗賊団にしては、か?」


「盗賊団かどうか関係ありません」


 リーゼが少し間を置いた。


「ダリオは首を縦に振ると思うか?」


「分かりません。ただ——」


「ただ?」


「あなたが首を縦に振っている。それで十分です」


 リーゼが黙った。


 夜のとばりが降りていた。焚き火が揺れていた。


 グリムがレンと並んで火のそばに座っていた。ジャックがまだグリムに話しかけていた。グリムが短く返していた。


(悪くない)


 前魔王が言った。


『14人、か。賑やかになるな』


(そうだ)


『我の時代は1人だったからな。想像もできない』


(慣れろ)


『……努力する』


 ナナは焚き火を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ