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【社内恋愛】清純派な彼女が既婚エースと非常階段で盛っていた。誤送信を装い全社員に動画を拡散した結果、二人の人生は完全に詰んだ。  作者: ledled


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第三話 全社員総会での公開処刑(ざまぁ)

決戦の日は、皮肉なほど澄み渡った青空と共にやってきた。

株式会社トヨス・トレーディング、下半期キックオフミーティング。全社員が一堂に会し、今後の経営戦略を共有する重要なイベントだ。会場となるのは、本社ビル最上階にある大会議ホール。最大二百名を収容できるこのホールは、重厚な絨毯が敷かれ、正面には映画館並みの巨大スクリーンが設置されている。

張り詰めた緊張感が漂う中、俺、相沢健太はホール後方のオペレーション卓に座り、無数に並ぶスイッチやフェーダーを見下ろしていた。


「相沢くん、マイクの音量チェック頼むよ」

「了解です。役員席のマイク、一番から順にテストします」


インカム越しに飛んでくる指示に淡々と応える。手元のミキサーを操作しながら、俺の視線は会場の前方、演台の袖に控えている人物を捉えていた。

早川恭介だ。

今日の主役とも言える彼は、一段と気合の入ったダークネイビーのスーツに身を包み、周囲の若手社員たちと談笑している。その表情には微塵の不安もなく、これから自分だけが浴びるであろう喝采を確信しているようだった。


「……愚かなもんだな」


俺は小さく呟いた。

彼が今、自信満々で手に持っているノートPC。そこには、俺が昨日丹精込めて仕込んだ「時限爆弾」が眠っている。爆発時刻は午後一時三十分。ちょうど彼のプレゼンが佳境に入るタイミングだ。


視線を少しずらすと、会場入り口付近で案内係をしている佐々木美穂の姿があった。

会社の顔として、来場する役員たちに完璧な笑顔を振りまいている。「おはようございます、専務!」「お疲れ様です、部長!」その声は鈴を転がすように美しく、誰もが彼女に好意的な視線を向けている。

だが、俺だけは知っている。その美しい唇が、非常階段の暗がりでどんな卑猥な言葉を吐き出し、俺を「ATM」と嘲笑ったのかを。


「相沢さん、お疲れ様です」


ふいに声をかけられ、顔を上げると美穂が立っていた。手にはミネラルウォーターのボトルを持っている。


「はい、これ。喉乾くでしょ?」

「ありがとう、美穂。助かるよ」

「いよいよだね。早川課長のプレゼン、すごいらしいよ? 昨日の夜も遅くまで練習してたんだって」


美穂は声を潜めてそう言った。「遅くまで練習」。ああ、確かに練習していただろうな。ベッドの上で、違う意味の「突き上げ」を。

彼女の瞳には、俺への労いなど微塵もなく、ただ早川の晴れ舞台への期待だけが滲んでいた。


「そうなんだ。それは楽しみだね。俺も特等席で見させてもらうよ」

「うん! 失敗しないようにサポート頼んだよ、健太くん」


彼女は無邪気に微笑み、持ち場へと戻っていった。

サポート。ああ、任せておけ。お前たちの人生を終わらせるための、最高の演出をしてやるから。


***


午後一時。

定刻通りに総会は始まった。

照明が落とされ、スポットライトが演台を照らす。社長の開会挨拶、各部門長の報告と続き、会場の空気は適度な緊張と弛緩を繰り返していた。

そして、ついに司会者が高らかに告げた。


「続きまして、営業部第一課長、早川恭介による『次世代セールス戦略とコンプライアンスの融合』についてのプレゼンテーションです」


盛大な拍手が巻き起こる中、早川が颯爽と登壇した。

演台に置かれたノートPCを開き、プロジェクターのケーブルを接続する。

スクリーンに『Next Generation Sales Strategy』というスタイリッシュなタイトルスライドが表示された。


「本日はお忙しい中、このような機会をいただき感謝いたします。営業部の早川です」


よく通るバリトンボイス。堂々とした立ち振る舞い。

彼はワイヤレスマウスを片手に、流暢に語り始めた。


「現代のビジネスにおいて最も重要なもの、それは『信頼』です。顧客との信頼、そして社内における透明性。これなくして、企業の成長はありえません」


俺はオペレーション卓で、笑いを堪えるのに必死だった。

信頼? 透明性?

よくもまあ、抜けしゃあしゃあと。お前のパソコンの中身は、真っ黒な欲望で濁りきっているというのに。


スライドが次々と切り替わる。グラフ、数値、将来の展望。

内容は確かに素晴らしいものだった。悔しいが、彼がエースと呼ばれるだけの実力はある。会場の社員たちも、感心したように頷きながらメモを取っている。

最前列に座る社長や役員たちも、満足げな表情で早川を見つめていた。


「我々は常に誠実であり続けなければなりません。隠し事のない、クリーンな関係性こそが……」


早川が熱弁を振るい、次のスライドへ進めようとクリックした、その時だった。

時刻は一時三十分。

俺がセットしたタイマーがゼロになった。


突然、スクリーン上のパワーポイントがフリーズした。

早川が「おや?」という顔でマウスをカチカチと動かす。


「……失礼しました。少々機材のトラブルのようで」


彼は余裕の笑みを崩さず、再起動しようとキーボードに手を伸ばした。

だが、次の瞬間。

パワーポイントのウィンドウが勝手に最小化され、デスクトップ画面が露わになった。

そして、何の前触れもなく、けたたましい音量と共に動画プレイヤーが起動した。


『あぁっ、んんっ……早川さん、もっとぉ……!』


静まり返っていた大会議ホールに、濡れたような女性の嬌声が大音量で響き渡った。

空気が凍りついた。

数百人の社員が、一斉に息を呑む。

スクリーンに映し出されたのは、営業戦略のグラフではない。

薄暗い非常階段の踊り場で、二人の男女が激しく絡み合う映像だった。


画質は鮮明だ。早川のスマホは最新機種だからな。

男の顔は、今まさに演台に立っている早川恭介その人。

そして、彼の下で乱れ髪になりながら喘いでいる女は……。


『美穂ちゃん、いい顔するなぁ。「清純派」が台無しだぜ?』

『だってぇ……健太くんじゃ満足できないんだもん……』


会場の視線が、一瞬にして入り口付近にいる佐々木美穂へと突き刺さった。

美穂は顔面蒼白になり、持っていた案内用のボードを取り落とした。

ガシャン、という乾いた音が、異様な静寂の中でやけに大きく響く。


「な、なんだこれは!?」


演台の早川が叫んだ。

彼はパニックになりながら、必死でPCを操作しようとする。だが、マウスカーソルは俺が遠隔でロックしており、彼の操作を受け付けない。

動画は続く。より濃厚に、より醜悪に。


『あいつ、俺たちのこと何も気づいてねえよな。ほんとチョロい』

『うん……ATMとしてキープしとくだけだから……』


俺の名前こそ出ていないが、文脈からそれが誰を指しているのか、周囲の人間には察しがついたのだろう。

オペレーション卓にいる俺の方を、何人かが恐る恐る振り返るのが見えた。

俺はヘッドセットを外し、困り果てたような顔を作って立ち上がった。


「す、すみません! システムエラーです! 制御できません!」


嘘だ。制御なら完璧にできている。

俺は手元のフェーダーを操作し、わざと音量を少し上げてやった。


「早川くん! どうなっているんだねこれは!」


最前列で見ていた社長が、顔を真っ赤にして立ち上がり怒鳴った。

早川は脂汗を流しながら、PCを叩き続けている。


「ち、違います! これはウイルスです! 俺のPCが乗っ取られたんです! 誰かの悪質なイタズラです!」

「イタズラで済む映像か! 映っているのは君と佐々木君じゃないか!」


社長の怒号が飛ぶ。

さらに追い打ちをかけるように、動画プレイヤーの横でスライドショーが始まった。

それは、俺が保存しておいた二人のLINE履歴のスクリーンショットだ。


『あのシステム屋、マジでウザい』

『結婚したら保険金かけて殺しちゃう?(笑)』

『ウケるw 温泉旅行楽しみー』

『会社の経費で落ちるかな? 早川さんの力でなんとかなるでしょ』


会場のざわめきが、悲鳴に近いものへと変わっていく。

不倫だけではない。横領の示唆、殺人教唆とも取れるジョーク、そして同僚への侮辱。

社会人として、いや人間としての一線を越えた会話が、全社員の目に晒されている。


「いやぁぁぁぁぁっ!!」


入り口の方から、絹を引き裂くような絶叫が上がった。

美穂だ。

彼女は両手で耳を塞ぎ、その場に崩れ落ちていた。


「見ないで! 聞かないで! 嘘よ、これは嘘なの!」


錯乱したように叫ぶ彼女の周りから、蜘蛛の子を散らすように人が離れていく。

ついさっきまで彼女をチヤホヤしていた男性社員たちは、汚物を見るような目で彼女を見下ろしていた。

女性社員たちの視線はもっと冷ややかだ。「清純ぶってたくせに」「最低」という囁きが、さざ波のように広がっていく。


「と、止めろ! 誰か止めろぉぉ!!」


早川は半狂乱になり、ついに物理的な手段に出た。プロジェクターのケーブルを無理やり引き抜こうとしたのだ。

だが、俺はこうなることを予測していた。

PCの画面は消えたが、スクリーンには別の映像が表示された。

「予備回線」だ。

俺はあらかじめ、社内共有サーバーの『Public』フォルダに、同じ動画と画像を同期させておき、それをサブのプロジェクターから投影するように設定していたのだ。


「な……なんで消えないんだ!?」


ケーブルを抜いたのに映像が消えない恐怖。

それはまるで、自分の犯した罪が決して消えない烙印となって焼き付いているかのような絶望感を彼に与えただろう。


「おい、総務! 警備員を呼べ! この二人をつまみ出せ!」


専務が怒り狂って指示を飛ばす。

数名の屈強な警備員がホールになだれ込んできた。


「離せ! 俺は課長だぞ! エースなんだぞ!」


早川は暴れたが、警備員に取り押さえられ、腕を捻り上げられた。

その姿は、かつての自信に満ちあふれたエリートの面影など微塵もない、ただの滑稽な犯罪者だった。


「いやだ、いやだぁ……助けて、健太くん……!」


美穂が泣き叫びながら、オペレーション卓にいる俺の方へ手を伸ばした。

警備員に引きずられながら、彼女は必死に俺に救いを求めてくる。

会場中の視線が俺に集まった。

被害者である俺。裏切られた俺。

ここで俺が彼女を庇えば、あるいは悲劇のヒーローになれたかもしれない。


だが、俺はゆっくりとマイクのスイッチを入れた。

会場のスピーカーを通して、俺の冷静な声が響く。


「……システム復旧しました。しかし、流出データの内容に関しては、コンプライアンス違反の疑いがあるため、ログを保存させていただきます」


事務的で、感情のない声。

それが俺の返答だった。

美穂の表情が絶望に染まる。彼女の瞳から光が消え、ただの抜け殻のようになった。


二人が会場から引きずり出された後も、スクリーンには『Connection Lost』の文字が虚しく点滅していた。

会場は騒然としたままだ。社長は頭を抱え、役員たちは緊急会議を開くために慌ただしく退室していく。

キックオフミーティングは完全に崩壊した。


俺はオペレーション卓に座り直すと、大きく息を吐いた。

手足の震えが止まらない。

恐怖ではない。武者震いだ。

そして、心の底から湧き上がってくる暗い歓喜。


「……ざまぁみろ」


誰にも聞こえない声で呟いた。

スカッとした。本当に、胸のつかえが取れたように清々しい気分だ。

一年間、俺を騙し続け、見下してきた報いだ。

信頼、透明性。早川が言っていた言葉が皮肉に響く。

お前たちの関係は、これ以上ないほど透明になり、全社員に共有されたぞ。


「相沢さん……大丈夫ですか?」


隣にいた後輩が、心配そうに声をかけてきた。

彼は俺と美穂の関係を知らないが、動画の内容から察したのだろう。

俺はゆっくりと振り返り、今までで一番穏やかな笑顔を見せた。


「ああ、大丈夫だよ。……ただの、システムのバグを取り除いただけだから」


後輩は俺の笑顔を見て、何故か少しだけ怯えたように身を引いた。

俺は立ち上がり、機材の撤収を始めた。

この騒動の後始末で、システム部は忙しくなるだろう。ログの解析、流出経路の調査(もちろん俺の仕業とはバレないように偽装済みだ)、そして警察へのデータ提出。

やることは山積みだ。だが、不思議と体は軽かった。


窓の外を見れば、秋晴れの空がどこまでも高く広がっている。

俺の人生を覆っていた分厚い雲は、今、完全に吹き飛んだのだ。

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