4. 安否
※グロテスクな表現が含まれます。苦手な方はご注意下さい。
あ………え……?
由香……?
由香なのか……?
あの血だらけで倒れている女の子が……?
「嘘だろ……っ」
俺は由香に駆け寄り、由香の手を握って
「由香っ!!頼む……目を開けてくれ……っ!!」
頭ではわかっていた……
もう息がないこと……
だけど、俺はそれをどうしても認めたくなかった……
それだけは、認めたくなかった……
「お願いします……由香を……助けてください……っ!!」
俺は神にでも縋るようにそう言うが、現実は冷酷なもので……
――由香が呼吸をすることはなかった。
「由香……っあ、あぁ……由香……っ」
「あああああああああああああッッッ!!!!」
俺は由香の亡骸を抱きかかえて崩れ落ちた。
どうして……こうなってしまったんだろう……
どうして……俺は由香を助けられなかったんだろう……
俺は……由香の兄なのに……
もう、二度と由香の声は聞けない……
もう、二度と動いている由香は見れない……
もう、二度と―――
◆
「お兄ちゃん!!あそぼー!!」
俺が学校から帰ってくると、由香はいつも駆け寄ってくる。
「仕方ないな〜!ちょっとだけだぞ〜!」
そう言うと
「大希、あんた明日修学旅行なんだから早く準備済ませちゃいなさい。」
「わかってるよ母さん。でもちょっとだけ〜!」
俺はそう言って由香と遊び出す。
「もう〜!ちょっと遊んだらすぐ準備してね!」
「はーい」
そう返事をして、由香に向き直る。
「何して遊びたい?」
由香にそう聞いた瞬間、庭の方からガサッと音がした。
「なんだろう?」
気になった俺は立ち上がり、庭を覗いてみた。
「何もないな」
「お兄ちゃーん!早くあそぼーよ!」
由香が待ちきれないと言わんばかりに裾を引っ張ってくる。
「わかったわかった!遊ぼうな〜」
そうして俺はしばらく由香と遊び、夕飯を食べた後、自室で明日の準備をした。
明日から俺は修学旅行だ。
今日は早めに寝たほうがいいだろう。
俺は、部屋から出ると由香に声をかける。
「今日はもう寝るから。おやすみ、由香。」
俺がそう言うと、由香は
「うん!おやすみお兄ちゃん!修学旅行……ちょっと寂しいけど楽しんできてね!」
俺は驚いた。
昔はあんなに寂しがりな子だったのに……
成長したな……
「ありがとう、由香。」
俺は由香の頭を撫でると、自室に戻って布団に入った。
明日はきっと、バスで修斗や瑠奈と話して、初めて行く場所で色々なものを見て、「楽しいな」って感想を言い合うのだろう……
修学旅行、楽しみだな……
◆
俺が目を覚ますと、場所は教室だった。
どうやらショックで気絶していたらしい。
時間を見ると19時24分。
1時間も気絶していたのか……
「……そうだっ!由香!!」
俺は辺りを見渡すが、そこには誰もいなかった。
さっきまで、ここには由香の亡骸があったはずなのに……
由香がいないどころか、教室は血痕もない綺麗な状態になっていた。
「……どういうことだ?」
見間違いだったのか?
……いや、そんなはずはない。
あの瞬間、血だらけの由香を抱えたときの重みは間違いなく本物だった。
「由香……」
由香を探さないと……
たとえ亡骸でも……大切な妹に変わりない。
今……探しに行くからな、由香……
俺はゆっくりと立ち上がると、よろよろと教室から出る。
廊下を歩いていると、向こうから瑠奈が歩いてくるのが見える。
「大希くん、由香ちゃんいた?」
そう聞いてきたが、俺の顔を見ると心配そうにこう言った。
「どうしたの?大丈夫?なんだかすごく疲れてるみたいだけど……」
「……いや、大丈夫だよ。ありがとう。」
だけど、このままじゃまた心配をかけてしまうだろう。
「とりあえず、顔洗ってくるよ。」
「うん、わかった……」
そうして、俺はトイレの手洗い場で顔をバシャバシャと洗う。
今頃、修斗は何か見つけただろうか?
そろそろ修斗とも合流したいところだが……
さっきのことは、2人に話すべきだろうか?
けど、由香が血だらけで倒れていて、ショックで気絶して、起きたら何もなくなっていたなんて……
誰が信じるのだろう?
俺は顔を洗い終わり、ハンカチで顔を拭いていると、パリンと鏡が割れる音が聞こえた。
顔を上げて鏡を見ると……
「……え?」
ヒビ割れた鏡に映っている自分がこちらを睨見つけていた。
俺はゾッとして後退りして、一度瞬きをすると、鏡にはただ驚いてギョッとしているだけの俺が映っていた。
見間違いだったのだろうか……
黒い影の件といい、やっぱり俺は疲れているようだ。
ハンカチをポケットにしまうと、俺はトイレから出て瑠奈のもとへ戻る。
「お待たせ」
俺がそう言うと、瑠奈が心配そうに言う。
「うん……もう大丈夫なの?」
俺は、これ以上心配をかけないように言う。
「あぁ、もう大丈夫だよ。とりあえず、そろそろ修斗と合流しよう。全員で情報共有したいから。」
瑠奈は心配そうにしつつも同意する。
「……うん、そうしよっか。休みたかったら言ってね?」
「もちろん。ありがとう、瑠奈。」
そうして俺たちは修斗と合流するために階段を降りる。
情報共有をしたいというのは本音だが、それ以上に別れて行動することに対して不安があったのだ……
由香が血だらけで……でも、気絶して起きたら何もなくて……
もう何がなんだかわからない……
だけど、血だらけの由香が現実なら……
ここは危険だ。
修斗……お前は無事だよな……?




