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悪役令嬢ですが、死に戻りでハッピーエンドを掴もうと思います  作者: 田中


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第六話

 シャルルが第一応接間へ到着して数分が経過した頃、応接間の扉をノックする音が聞こえた。

 応接間のカーテンは閉じられ、高価な蜜蝋で作られた蝋燭が何本も立てられ、部屋の中は明るく保たれている。重要な客人を迎えるに相応しい部屋をしていた。


「失礼致します、お入りしてもよろしいでしょうか」


「ええ、よろしくてよ」


 サービスカートを押した執事と共に現れたマエリスは深々とお辞儀をする。そして、マエリスが扉を押さえて執事がカートを押しながら応接間へと足を踏み入れる。

 カートが完全に部屋へと入ると、マエリスは音を鳴らさないように扉を閉じて、万が一にも主の採寸中に誰かが入らないよう扉にしっかりと鍵を掛ける。


 応接間の広いテーブルの、最も入口から遠い場所にファートが座り、その右隣へシャルルが腰を下ろす。

 二人の姉は、更に下座へと座らせられる。

 しかし、シャルルもファートもそれに何かを言うことも無く、もちろんそういった礼儀を知らない姉たちもその扱いに何を言うこともない。

 ファートは、ふたりの姉がそれに気が付けば、もちろん席を変えることも考えていた。

 しかし、礼儀作法も席順ですら理解していない現状では変えることができないと思ったのだ。


 その四人の前へ、マエリスの手でシャンパングラスが置かれ、ファートの隣に置かれたサービスカートの上でシャンパンの封が切られ、栓が抜かれる。


「こちら、ヴーヴ・クリコのラ・グランダムでございます」


 執事が告げ、ファートのシャンパングラスへ薄琥珀色の液体が注がれる。

 シャンパングラスの中で弾けた泡が水面へと上がっていく。


「美しいですわね、飲む宝石とはよく言ったものですわ」


 注がれたシャンパンに頬を緩め、持ち上げたシャンパングラスを視線よりも高く持ち上げて見つめたファートの言葉に、シャンパンを注いでいた執事が微笑み、言葉を返す。


「はい、お嬢様。特にヴーヴ・クリコ夫人が作り上げたラ・グランダムは味と香り、その色までもが素晴らしいものだと言われております」


 そんな執事とファートの会話に、平民の声が混ざる。


「すごいね、あたしなんて、この間飲んだシャンパンと何が違うかなんて分かりゃしないよ」


「オリーブ、オジョウサマはそういう言い方はしないもんだよ! ファート様をご覧よ!」


 ジャンヌとオリーブの言葉に、ファートは眉を下げて困ったように唇へ手指を触れさせる。


 シャンパンが注がれた後、それぞれの前にマエリスがプティフールを置いていく。

 そして、流れるようにアニエスが紅茶を注いで置いていく。清龍王国から輸入した、ボーンティエナと呼ばれる、牛の骨灰を含んだ薄く、軽くて何よりも美しい光沢のある白色がシャルマン王国では人気があり、貿易を主な家業として行っているアーミッティウス家では茶器をボーンティエナで揃えているのだ。


 その白く美しい光沢のあるティーカップの中に、紅琥珀色の液体が注がれる。

 テーブルの上にシュガーポットとミルクピッチャーが並べられる。


 それらが全て終わると、メイドと執事はそれぞれ深く礼をし、壁際へと立ち静かに口を閉ざす。


「ふぁ、ファート様。これ、さ、砂糖じゃないのかい」


「ええ、そうですわ。紅茶にお砂糖とミルクを入れると美味しいので、こうして揃えて用意してくださいますの」


 ファートが微笑みながらプティフールを一口とシャンパンで唇を濡らした頃、シャルルが「舞踏会ではどのようなドレスをご着用なさりたいのですか」と問い掛ける。

 その言葉に、ファートはバッグの中からハンカチを取り出してルージュで僅かに色付いたシャンパングラスの縁を拭う。


「そうですわね、わたくしの婚約者がいらっしゃいますから、王家を象徴する金色を入れていただきたいですわ」


「かしこまりました」


 ファートは立ち上がり、アニエスを呼びクラッチバッグを渡す。そして、マエリスがその裾を持ちいつでも歩けるように準備をする。


「ウォルト様、採寸をお願いしてもよろしいかしら」


「はい、勿論でございます、ファートお嬢様」


 第一応接間に作られた衝立の向こうへと、シャルルとファートが向かう。シャルルの軽く曲げられた腕へファートが右手を触れさせ、エスコートを受けて歩く。

 背中で留められたドレスをアニエスが外し、そのドレスをマエリスが受け取り、決して床を擦らないように気を付けながら腕へと掛ける。


「そちらのドレス、素晴らしいですね」


「ええ、そうでしょう。お気に入りですの」


「どなたがデザインしたのでしょうね」


「シャルル・フレデリック・ウォルト様というデザイナーですわ、ご存知かしら」


「それはそれは、随分腕が良いデザイナーに受注しているようですね」


 互いに言葉を重ね、思わずといった様子でファートとシャルルは笑みを交わす。


「それでは、腕を上げていただけますか」


 コルセットまで取り外したファートの体へ、シャルルは巻尺を合わせていく。細くはあるけれども痩せぎすではない、貴族として美しい筋肉の付いたファートの体は、さながら彫刻のようであった。

 首周りや腕、二の腕の周囲に腰周りまでもを測り、それぞれをメモしていく。


「以前測った時とサイズが変わっておりませんね。素晴らしいです」


「まあ、本当ですか? 嬉しいですわ」


「ええ、まるで大理石で作られた彫刻のようですよ」


 身長までを測り「身長は少し高くなっていますね」と告げる。


「あら……では、お出掛け用のドレスも裾が合わなくなっているかもしれませんわね。作り直さなければいけませんわ。

 本日、一緒にお願いしてもよろしいかしら」


「はい、勿論ですとも。お出掛け用のドレスはどのような素材でお作り致しましょうか」


 シャルルの問い掛けに、ファートは僅かに悩む様子を見せる。


「そうですわね、それでは……ベルベットが良いわ。そろそろ寒くなって参りますし。グリーンのベルベット、他にはホワイト、薄いブルーでお願い致します。日傘とヒールもお任せ致しますわ」


「かしこまりました。それでは、今回の舞踏会のドレスなのですが」


 ファートはアニエスの手でコルセットを取り付けられながら普段使いのドレスについてを語り、マエリスの手でドレスを着用していく。


「ええ、時期が時期ですから、地は黒いベルベット、金の刺繍をお願いしますわ。胸の辺りにはアーミッティウス家の家紋をお願い致します」


「かしこまりました、素晴らしいドレスが出来上がりそうですな」


 シャルルの言葉に、ファートは微笑む。


「ええ、ウォルト様の腕を信用しております」


 ファートが軽く微笑んで頷き、アニエスとマエリスを伴って衝立から出る。

 テーブルには、手でプティフールを食べているふたりの姉がおり、ファートは思わず口元を指先で押さえる。


「お姉様方、ケーキはフォークを使ってお食べ下さい。手で食するのは、はしたないですわ」


 思わずと漏れた言葉に、ジャンヌは汚れた手で頭を掻く。


「ごめんよ。あたしら、そういうもん、まだ苦手でさ」


「三ヶ月後までには、礼儀作法を完璧にしてもらいますわね」


 ファートの言葉に、ジャンヌとオリーブは唇をひん曲げて、互いに顔を見合わせる。


「ウォルト様、それではお姉様方の採寸もお願いしてよろしいかしら。舞踏会用のドレスと、お出掛け用のドレス、ネグリジェ、ヒール、鞄もお願いしますわ」


「……そうですね。かしこまりました。公爵家に恥じないデザイン、恥じない作品を作り上げましょう。それでは、お一人ずつお願いします」


「ジャンヌお姉様、手を拭いて、あちらの衝立の向こうへお願いしますわ」


 ファートの言葉にジャンヌは手を拭き、おっかなびっくりと衝立の方へと向かう。

 ジャンヌは未だに膝が外側に向いた歩き方をしており、ガツッガツッと音を立てながら歩いている。

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