第1話 鉄鉱石の自動化
職場からの帰り道。
端的に言えば、俺は死んだ。
帰ったら工場作るゲームの銅板製造ラインを拡張しないとな……なんて考えていたら、トラックにはねられて死んだ。
我ながら、あっけない最期だったと思う。
次に目が覚めたときは、真っ白い空間だった。
目の前に立つのは、いかにも女神といった風貌の女性。
「貴方を、ダンジョンマスターに任命します──」
「は?」
「コアを破壊されたら死ぬので、頑張ってくださいね。それでは──」
「いやちょっ、待っ……!」
女神様は消えてしまった。
どうやら俺は転生して、ダンジョン経営を任されてしまったらしい。
◆◇◆
現状を整理しよう。
真っ白い空間は12畳ぐらいの広さだ。
壁にはクソデカいディスプレイが1枚貼り付けてあり、同じぐらいの広さの石室が映し出されている。
石室の中央で煌々と輝く青いクリスタル。
あれがきっとダンジョンのコアだろう。
あのコアを壊されると俺は死んでしまうのだ。
「……もうちょっと説明してくれよ」
ディスプレイの右上には1000Gと表示されている。
この金でダンジョンを強化しろ、ということだろうか。
何を買えるのかと悩んでいると、唐突に画面内に新しいウィンドウが開いた。
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◆ショップ
▷モンスター
▷フロア
▷トラップ
▷トレジャー
▷アイテム
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様々なものが買えるようだ。
手始めにモンスター一覧を見たいと念じると、新たにウィンドウが開いた。
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▶モンスター
○スライム 100G
粘液でできた最弱のモンスター。
モンスターはHPが0になると消滅する。
○バット 150G
小さなコウモリ。
群れをなして大群で襲い掛かる。
○石ゴーレム 200G
石でできたゴーレム。
単純な命令しか聞けない。
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モンスターの種類も多種多様だ。
しかし、HPが0になると消滅するのは好ましくない。
仮に1000G費やしてスライム10匹を買ったところで、全滅させられてしまえば無一文である。
基本的には、スライムが無限発生する巣のようなものに投資したい。
そんな思考に応じるように、ディスプレイは新しいウィンドウを表示した。
いいぞディスプレイ、俺はスライムの巣を買う。
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▶モンスターの巣
○スライムの巣 10000G
1日に2匹のスライムを生産する。
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高すぎて買えなかった。
そもそも、元を取るのに50日掛かるようでは、それまでにコアが壊されてしまうだろう。
消耗品には金を掛けたくないのだが、地道にモンスターを買うしかないらしい。
気を取り直して、次はフロア一覧を開く。
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▶フロア
○新規階層 4000G〜
新しい階層を作成する。
○新規ルーム 1000G〜
新しい部屋を作成する。
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つまるところ、部屋を増築できるらしい。
これも却下、明らかに初期の1000Gで手を出す内容ではない。
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▶トラップ
※トラップは使い捨てです。
○落とし穴 50G
○矢の罠 50G
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これも却下。生き残る可能性のあるモンスターならともかく、完全使い捨てのトラップに金は掛けたくはない。
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▶トレジャー
○木の宝箱 100G
宝物が入っている。
冒険者が喜ぶ。
○薬草の群生地(下級) 500G
薬草を少量採取できる。
冒険者が喜ぶ。
○鉄の鉱床(下級) 500G
鉄鉱石を少量採取できる。
冒険者が喜ぶ。
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冒険者を喜ばせて何になるんだ。
後々、客寄せも重要になるのだろうか。
アイテムも見たが、全て割高だった。
武器防具の他に食料も売っていたが、つまり食事にも金が掛かるということ。
「結局、モンスターに全額費やすのが最善かもな……」
購入可能リストを眺める。
いつも優柔不断で、こういうときに悩んでしまう。
そのとき、ふと閃いた。
鉄の鉱床を買って、俺が掘ればいいんじゃないか?
応じるように、ディスプレイが文字列を表示する。
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◇Tips
採取スポットはマスターも採取できます。
採取したアイテムは売却できます。
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決まりだ。
鉄の鉱床を買い、鉄鉱石を堀り、それを売る。
これなら、危険を侵さず稼げるし、飯を食う分も賄える。
ダンジョン防衛のことは、金が溜まってからゆっくり考えれば良い。
我ながら最高の計画だ。
ダンジョン経営というのも、中々チョロいものである。
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○鉄の鉱床 -500G
○石のツルハシ -200G
◇残高 300G
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◆◇◆
「はぁ……はぁ…………」
甘かった。
完全に見通しが甘かった。
採掘という作業は、それはもう重労働だったのだ。
「これだけ働いて……ようやく6個かよ」
石室から白い部屋に転移して、硬い床に座り込む。
30分近く堀り続けて、手に入ったのは鉄鉱石6個。
売却すると30Gになったが、そのうち20Gは水とコップを購入して消えた。
稼ぎは10G、ブラック企業も真っ青だ。
無気力になりながら白い天井を眺めていると、脳内にけたたましいアラートが鳴り響く。
『侵入者!!侵入者!!』
完全に油断していた。
此処は工場ではなくダンジョンなのだ。
残高310Gで侵入者を迎え撃たなくてはならない。
急遽石ゴーレムを購入。200G消費。
目の前で1m程の石ゴーレムが組み上がる。
「ンゴゴー!」
石ゴーレムは嬉しそうにマッスルポーズをした。
妙に可愛らしいが、それはさておき。
「石ゴーレム、侵入者を撃退できるか?」
「ンゴ!ンゴ!」
石ゴーレムは手をパタパタさせている。
どうやら武器が欲しいらしい。
「よーし、待ってろ。
何か武器を買ってやるからな」
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○石の剣 200G
※残高が足りません。
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俺が鉄の鉱床なんか買ったばかりに……
思い悩んでいると、ゴーレムは俺の手からツルハシを取り上げた。
武器にしたいようだ。武器になるのか?
「まあいいか!コアを守れゴーレム!」
「ンゴー!」
ゴーレムはツルハシを掲げ、石室へと転移していった。
頑張ってくれよ……!
◆◇◆
侵入者は小太りの少年だった。
いかにも新米冒険者といった風貌である。
「新しいダンジョンだなんてラッキー!
ボク、コアを壊してお金持ちになるんだ!」
スキップでダンジョンに入ってくる様子を、モニターから眺める。
弱そうで助かった。これならゴーレムでもやれるかもしれない。
「ンゴー!」
コアを守るように仁王立ちする石ゴーレム。その手には石のツルハシ。
相対する小太りの少年は剣を抜き、ゴーレムに斬りかかった!
「うおー!」
「ンゴー!」
鍔迫り合いの末、ゴーレムは吹き飛ばされた。
やはりツルハシでは無理があったらしい。
「へへっ、コアは貰ったぁ!」
少年はここぞとばかり、コアに突貫してくる。
コアが壊されると俺は死ぬ。
避ける?否…………死!
「矢の罠!矢の罠ッ!!!!!」
俺が叫ぶと同時、矢の罠が2つ出現する。
矢に貫かれた小太り少年は……ばたりと倒れ伏した。
「はぁ……はぁ…………やったか……?」
少年はピクリとも動かなくなった。
何とかコアを守り抜いたのだ。
殺したことに罪悪感が湧かないのは、ダンジョンマスターだからだろうか。
少年の死体や装備を売ると216Gになった。
そう考えると、矢の罠2つで100Gも使ったのは相当な出費だ。
だが、それよりも……
「ゴーレム……お前…………」
最初の相棒、ゴーレムは消えてしまった。
召喚に200G費やし、装備に200G費やしたゴーレムが消えてしまったのだ。
「ンゴ?」
振り返ると、ゴーレムが首を傾げていた。
吹き飛ばされただけで、大事には至らなかったらしい。
「ゴーレム……!」
「ンゴ?」
抱きつく俺に、ゴーレムはずっと首を傾げたままだった。
◆◇◆
ふと、閃いたことがある。
鉄の鉱床をゴーレムに掘らせることはできないだろうか。
「ゴーレム!鉄を掘れ!」
「ンゴ?」
ゴーレムは首を傾げる。
命令を理解出来ないらしい。
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◇Tips
石ゴーレムが認識可能な命令は「攻撃」「防衛」「移動」「待機」のみです。
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「使えないなぁ……」
その言葉に、ゴーレムはしょんぼりした。
ごめんよ……戦闘で頑張ってもらうからね……
「じゃあ……鉄の鉱床を、攻撃?」
「ンゴ!」
ダメ元で言った言葉に、ゴーレムは嬉しそうに鉄を掘り始めた。
しばらくして、足元にコロコロと鉄鉱石が転がる。
成功だ。これで俺が働かずとも鉄鉱石を生産できる。
少額とはいえ、自動で金が入ってくる仕組みを構築できたのだ。
「いいぞゴーレム!頑張れ!」
「ンゴゴー!」
ゴーレムも仕事を貰えて嬉しそうだ。
そんなこんなで、俺の自動化生活が始まった。
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◇モンスター
・石ゴーレム
◇残高 226G




