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一時期飼っていた鳥

作者: はこの中
掲載日:2025/10/25

一時期飼っていた鳥を放すまでの話。



週に数度は掃除を欠かさなかった。

埃一つない、金細工の施された小さな鳥籠。


それを、ぱかりと開けた。



チュン、チチチ。

ひと声鳴いて、その鳥は、周囲を確かめるように、首を一つめぐらせたあと——


まるで始めから決められていたかのように。羽根に風を掴み、空へ舞い上がった。



一度も振り返らなかった。

まっすぐに、かつての故郷を目指して。


__まるで、ここには一瞬たりとも寄ったことなんてなかったみたいに。



……っあは、ははは、ははははは。


それが少し寂しくて、でも同時に、何だかそれが可笑しくもあった。




――そうだ。もっと、もっと。もっともっと遠く、もう戻ってこれないくらいまで飛んでしまえ。




少なくとも私には、そこまで一途な欲望に忠実でいられるほどの潔さはなかったから。



だから、鳥でさえ自分の欲求に素直でいられるという事実に、

どうしようもなく可笑しさがこみ上げてきてしまったのだ。




それくらいがいい。

それくらいがちょうどいいのだ。


それくらい欲望に一途であるほうが、君という小鳥にきっとそれだけの強さを与える。



それくらい、ずっと欲望に一途で忠実な方が、きっとなんだってできる。



私は欲望に忠実じゃないから。








本当は、私も一緒に空に連れて行ってほしい。



私も、あんなふうに空を飛んで、全部忘れてしまいたい。


もう戻らない幸せほど、痛むものはない。

もう居ない人の軌跡をなぞるほど、苦しいことはない。

もう、思い出すほどに辛くなる記憶しか残っていないから、全て忘れて消えてしまいたい。



でもそれは叶わない。

これは私だけの記憶だし、これはあの小鳥だけの逃避行だから。




ようやくもう小鳥が見えなくなる頃。



しばらく小鳥の進んだ方向を放心しながら見つめて。


「もしも、この世界も、私も、あなたくらい自由だったら」

      

そう、筋違いなことを、ふと。




ああ、良くない。

自分の至らなさを他人に重ねるなんて、見苦しいにもほどがある。



ちょっとまだ自分には早かった。

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