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Cendrillon  作者: しし
3/7

贈り物

初めての同伴の約束を取り付けた、バイトフル稼働の日。


私は昌也に、紗雪さんとの同伴があるから午前中に家を出ることを伝えた。


「そんなんあるの?今までなかったよな、キャバクラに店替えでもしたのか?」


「違う、半年間指名も同伴も1本もなかったからだよ。ずっと第10王子だったの。」


驚く昌也にそう説明すると、そっと抱きしめられた。


「俺の一番はいつだって翔菜だよ。」


謎の慰めをもらって家を出た。

傷ついてはいないけど、同情されるのは少し痛かった。



---


昌也が嫌がるかもと思って伝えなかったが、

紗雪さんとはホテルのロビーで待ち合わせをしていた。

重厚なソファに座る彼女を見つけて、内心少し怖かったが、近寄っていった。


「お待たせしました。」


紗雪さんは微笑んで、「レストランを予約してあるの」と言い、

ホテル併設の高級そうなレストランに私を連れて行った。


圧巻だった。

インテリア、食器、食材、提供スタイル。

すべてが計算されて、さりげなく配置されていた。



---


「何でも聞いていいわ。そのために個室を取ったんだもの。」


そう言ってくれた紗雪さんに甘えて、私は思ったことをそのまま口にした。


「このお皿、すごいですね……盛り付けも、どうやったらこんなに……」

「香りがすごい。スパイス、いくつくらい使ってるんだろう」

「盛り付けの高さって、どうやって安定させてるんですか?」


紗雪さんは楽しそうに、少し誇らしげに一つひとつ答えてくれた。

私が身を乗り出すたびに、クスクス笑いながら補足してくれる。



---


レストランを出て『Cendrillon』のソファ席に座っても、

私は料理の話ばかりをしていた。


「やっぱりあなた、食いしん坊なのね。」


そう言われて、少し恥ずかしくなって俯いてしまった。



---


紗雪さんをお見送りする時、エントランスで深く頭を下げた。


「今日は本当にありがとうございました。……すごく勉強になりました。」


紗雪さんは何も言わずに、少しだけ笑って私の腕を軽く叩いた。

まるで「よしよし」と子犬をなだめるみたいに。

その仕草が、紗雪さんらしい優しさなんだと思った。


でも、子犬のままでいたくなかった。



---


「……ちゃんと役に立ちたいです。」


思わず口に出た言葉に、紗雪さんは一瞬目を丸くして、それからまた穏やかに笑った。

そして何も言わずに、私をじっと見つめた。

その瞳は何かを試すようで、でも優しくて、少しだけ怖かった。


しばらくして、紗雪さんが小さな声で言った。


「……じゃあね、ショウくんの作ったお弁当が食べたいな。」


私は思わず顔を上げた。

それは自分でも少しは得意だと思えることだったから。

嬉しくて、恥ずかしくて、気づいたら大きな声で、


「お任せください!」


と言っていた。

紗雪さんは小さく吹き出して、それから本当に嬉しそうに笑った。



---


次の週の土曜日は、紗雪さんからの同伴を断った。

『貴女のためにお弁当を作るから』とDMを送ると、


『いつの間にそんな返しができるようになったの?

侍従長に教わったの?

私の子犬はそのままでも可愛いのに』


と返事がきた。


私は絶対に「美味しい」と言わせてやると心に決めた。

バイトがない日も試作品を作り続け、昌也が「いいんじゃない?」と合格点を出してくれて、お弁当を完成させた。



---


『Cendrillon』に来店した紗雪さんの卓に、お弁当を持って近づいていった。


「貴女のために用意しました。」


氷と雪を思わせる透明な器と白いカトラリーは、

紗雪さんをイメージして選び、

その中に姫に捧げる花として九つの彩りを詰めた。


「雪姫への花籠、です。」


恥ずかしさで声が震えたけれど、それでもまっすぐに差し出した。



---


紗雪さんは嬉しそうに、一つ一つ意味や食材を私に問いかけて、

美味しそうに食べてくれた。

その様子に、他の卓の姫も視線をこちらに向けていた。



---


閉店作業中に、侍従長に声をかけられた。


「あのお弁当、3個くらい毎週土曜日作れるか?

売れる。

材料費とか出す、単価決めるぞ。」


驚いたが、それ以上に嬉しくて、


「はい」


と返事をした。



---


5000円と強気の値段設定のお弁当は本当に売れた。

個数制限も相まって、土曜日の予約来店をしないと食べられない「幻のお弁当」となり、客足の安定にもつながった。


そして、いつの間にか私の称号は「第4王子」になっていた。

信じられなかった。


侍従長はそのナンバーを私に伝える時、そっと呟いた。


「優良客だが、抱き込まれるなよ。」




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