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第5話 急転直下

 ダンデは、ジャスミンの手のひら返しに驚いた。


「どうして!? スク族の集落に連れてってくれるって言いだしたのは君じゃないか!」


「ゴメンなさい。でもあなたみたいな何処から来たのかも分からないような素性の知れない人間は危険だわ。命の玉もないし、人間でもないかもしれない」


「僕は記憶喪失なんだ。何も分からないのは仕方ないんだよ」


「随分都合がいい話ね。 それによく見ると、あなたのその左側の金色の目。特別な魔力が秘められているみたい。そんな力をもってる人が、どうしてこんなところで記憶喪失になってるのよ」


「さあ? それに関しては、僕にもサッパリ分かりまちぇん……」


 鑑定眼の力は使えたが、眼をもらった相手(女神)の事についてはまだ思い出せていなかった。


「ねえっ、本当に何も覚えていないの?」


「ううん…… 実は、少しだけ思い出した事があるんだ」


 彼は自分が何者かについてはまだなにも分からなかったが、なぜボロボロの状態でこの森に棄てられていたのかだけは思い出せていた。

 ダンデは、記憶を失う前に自分が透明人間たちに捕まっていたことを話した。

 それから6日以上、このジャングルの中をさまよい歩いていたことも。


 それを聞くと、ジャスミンはダンデに何が起こったのかをおおよそ理解していた。


 そして、彼を憐れむような表情をみせたのだ。


「そうだったのね……。今の話を聞く限り、やっぱりあなたはデメニになってしまったようね」


「えッ それはどういう事なんだ?!」


 ダンデは、いきなり自分が人間でないと言われて驚いた。


「正確にはデメニの()()()()って所ね。 あなたを連れ去った肌が透けている人間達というのは、おそらく魔大陸ダークヘイブンから来たインベーダーよ」


侵略者(インベーダー)?」


「ええ。人間種でも魔物でもない、魔大陸で生まれた別の生き物。透明な肌のせいで日の光を浴びると死ぬから、正体は吸血鬼なんて噂もあるわ」


「吸血鬼だって?!」


「うわさよっ。インベーダーはこの大陸に住む生き物じゃないから、詳しい事は誰も分からないの。でもあいつらは自分たちが持っていない命の玉を手に入れるために、このデオグランド大陸を乗っ取ろうしているのだわ。この森の隣の土地は元は獣人族の物だったんだけど、今はインベーダー達に支配されてしまっている。話を聞く限りじゃ、あなたが捕まったのも多分そこね」


 恐ろしい怪物の話をたくさん聞いてダンデは既に陰鬱であったが、彼は一番重要なことをジャスミンに尋ねた。


「あのさ、本当は聞きたくないんだけどさ。 その……デメニって何なんだ? なんで僕がその化け物になってしまうって分かるんだよ」


「ええと……デメニっていうのは、簡単にいうとインベーダーが人工的に生み出した人食いの化け物なの。やつらは人間から命の玉を奪い盗ると、頭の中に寄生魔物を植え付けるのよ。その寄生魔物が完全に成長すると、本体の人間はやがてデメニになってしまうというわけ」


「……そんな…」


 陽の光を浴びると死んでしまうインベーダーが、日中でもデオグランド大陸の侵略を進めるために生み出したのが、デメニだった。

 またインベーダーの故郷─魔大陸は、常に紫色の暗黒の瘴気によって陽の光が遮られていたのだ。


 ─じゃあ、あの時のヒルが寄生魔物だったというのか……─


 ダンデは自分の身に起こったことをようやく理解した。


「この森はダークヘイブンに一番近いからね。この辺りの人間ならみんな知ってることだわ。 その顔を見る限り、やっぱり心当たりがあるようね」


「うん… そうだね……」


「ごめんなさい。あたしには何もしてあげられないわ。 あなたは今はまだ人間だけど、やっぱり里にも入れられないっ。いつ化け物になってもおかしくないもの」


 ハーレムの高揚感から一気に怪物変化の絶望へと叩き落され、ダンデの心はこれ以上ないくらいに落ち込んでいた。


「なあ、これから僕はどうしたらいいんだ? もう、助からないのか」


「ごめんなさい」


「そう…なんだ」


「あ、でもッ、ふつう寄生魔物を入れられた人間は、一日もかからず症状が出てデメニに変化してしまうと聞くわ。だけどあなたの話が本当なら6日以上も無事でいる事になる。それならまだ希望はあるのかも……?」


「ほ、本当!!?」


 まだ助かるかもしれない。その嬉しさのせいでダンデは羞恥心も忘れ、いつの間にかジャスミンの身体におもいっきり抱きついていた。

 だがジャスミンは興奮するダンデを自分から引き離すと、落ち着かせるようにこう言った。


「ダンデ、まだそんなに喜ばないで。ちゃんと聞いてた?可能性があるかもしれないってだけの話だからねっ」


「あっ、うん。 ……そうだったね」


「でも、もしあなたが助かってる原因があるとしたら、多分その左目の魔眼の力が関係あると思うの」


「なんでもいいさ。助かる可能性が少しでもあるってだけで、僕は生きる希望が持てるんだ。 それで、僕はこれから何をすればいいんだ?」


「う~ん、やっぱり、頭の中のヒルを成長する前に殺せばいいんじゃないかしら。その方法は私には分からないけど」


「そうか……」



 するとその時、二人は少し遠くの森から立ち上る白い煙に気が付いた。

 その方角は偶然にも、スク族の集落のある方向と一致していた。


「何かしら。…煙? 木炭作りの季節ではないし…」


 ジャスミンは里から立ち上る煙を呑気に眺めていた。

 だが一早く死の気配を感じ取ったダンデは、一目散にそこから駆け出しスク族の里へと向かった。


「あっ 待ちなさい!」



 ──ダンデがスク族の里にたどりつくと、そこには地獄の光景が広がっていた。


 まるで炎の嵐が通ったように、里は荒らされ木製の家々にはすべて火がついていた。

 さらに地面には、中途半端に食い散らかされた女たちの死体がそこかしこに転がっていた。

 下半身がないものや、頭だけのものなどだ。


 そして、それら無残な光景の中心にいたのは、3メートルくらいの不気味な巨人だった。

 四肢は細く、胴体は丸みを帯びている。

 なにより特徴的なのは、身体に対して頭部が異常にデカい事。そして口の裂けた満面の笑みで固定されたお面のような顔だった。


「あいつッ!!!」


 後からきたジャスミンは、仲間が食い荒らされた現場をみると、怒りのままに怪物へ突っ込んでいこうとした。

 それが危険だと判断し、ダンデは咄嗟に腕を掴んで彼女を制止した。


「ダメだ! あんなの、絶対さっきの食虫植物より強いじゃないか。君一人じゃ勝てっこないよ」


「ダンデ……。あいつがデメニよ!」


「な、なんだって?!」


 ─嘘だろ。このままいくと、僕ちんあんなヤバい化け物になっちゃうわけ?─

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