第11話 進路は南
出されたご馳走をすべて平らげると、お腹の膨れたダンデはその場で横になった。
「ふぅー、ごちそう様! もう、食べられないよぉ」
「フフッ お粗末様でしたっ」
シオンは相変わらずダンデにべったりくっついていて、ダンデが地面に寝転がると一緒に隣で添い寝をしようとしてきた。
ダンデは恥ずかしがってシオンから距離を取ろうとするのだが、その度に彼女は余計に密着してくるので追いかけっこのようになる。
なのでしかたなく、ダンデは途中で逃げることをあきらめるはめになった。
また、彼の目の前では、ジャスミンが両肘をついて寝そべっていた。
それにこっちを向いて、なんだか嬉しそうにニマニマ笑っているのだ。
「どうしたのジャスミンたん。なんかとっても楽しそうだね」
「んふふ。ええ、もちろん!こんなに楽しいことはないわよ」
「え、そうなの?」
そうダンデが尋ねると、ジャスミンは元気よく頷いた。
「うん! だって、あたし達の里を救ってくれたダンデが、今度は女神の呪いを解いてくれるって言ったんだもの! 今日は生まれて一番幸せの日よ?!」
「ああ、ううん。それはそうなんだけどさ~ あの時は感情的になって、つい勢いで言ったのもあってさ。ジャスミンたん、まだ具体的にどうすればいいかとか、僕ちん全く分かんないんだけど……!」
昨日あんな風にはっきり宣言してしまった手前、今更こんな弱腰になるのは、ぶっちゃけ自分でもダサいとは思う。
でも神なんて、どうやって倒せばいいのか全く見当がつかない……。
すると、隣にいたシオンがすかさずこう言ってきた。
「大丈夫。ダンデ様ならきっと成し遂げられるよ」
「ななな、何を根拠に???」
「君にはそういう素質があるもの。大きな事を成し遂げる優れた人間の素質が。 フフッ、わたしにはわかるの」
そう言うと、シオンはダンデの額にキスをした。
「ありょほによほへ~~」
ダンデの顔が真っ赤に染まる。
神の事などまだ何も分かっていないが、ダンデはスク族の運命を歪ませた女神アルマを必ず殺すと決めていた。
それにアルマは、記憶を失った自分自身とも深い関係がある。
そう強く感じていたのだ。
そしてダンデは起き上がると、ジャスミンとシオンの二人にこう言った。
「えっと、正直自信はないけど、一度言ったからにはやり遂げるよ。必ず、スク族の呪いを解いてみせるから」
「ありがとうダンデ、あたし信じてるわ」
「うん……!」
「でもその前に、あなたの頭の中にあるものをどうにかした方がいいんじゃないかしら?」
「え、ああああっ!!!?!!??」
それを聞いて、ダンデはタイムリミットの迫った自分の生死の問題を思い出した。
スク族の呪いの話で、彼は今までこの事をすっかり忘れていたのだった。
「そうだった!!! うわぁーどうしよぅ。このままじゃ僕もあのデメニになっちゃうんだよね」
「う~ん。回復魔法は使えるけど、ヒルを取り出すような便利な物は知らないし…… いっそ、頭を開いてヒルを探してみましょうか?」
そう言って、ジャスミンは槍を取り出すふりをした。
いや、彼女の様子を見る限り本当にふりだったのかどうかは疑わしい。
ダンデは、首を激しく横に振ってお断りをした。
「ええ? いい方法だとおもったのに」
「ししし、死んじゃうよぉー。僕死んじゃうからっ」
すると、みかねたシオンはこう言った。
「あまり信ぴょう性は無い話なのだけど、わたし、成りかけから元に戻ったという人を知ってるかもしれないの」
「本当!? シオンたん、その話を詳しく教えてくれないか」
「もちろんよダンデ様。 むかしね、里に来た冒険者にそんな事を言ってたやつがいたのよ。態度がデカくてムカつく奴だったからよく覚えてる。たしか名前はゴライソン・ハム。モルガニアから来たって言ってた」
「モルガニア?」
「この森のすぐ南にある国の事。国中が美の女神モルガメロウを狂信しているようなすっごく変なところだよ。あそこだけ奴隷制があったりで、頭のおかしい集団の集まりね」
「奴隷っ? それはちょっとびっくりだね……」
シオンの話を聞いて驚いていると、横からジャスミンがこう付け加えた。
「でも、モルガメロウはアルマと仲が悪い事で有名だから、その点だけは褒められるわ」
「へぇー、そういうのがあるんだ」
「まあ、あたしたちも聞いただけで行ったことはないんだけど。でも十正神の中だと、そこが一番過激なんじゃないかしら。それにモルガニアじゃ、神山を手に入れるために年中戦争してるそうよ」
「うわぁ……(ゴクリ)」
どうやらこれから向かう場所には、それなりに危険が待っているらしい。
ちゃんと覚悟していった方がよさそうだ。
「よーしっ。じゃあ、準備をしたら早速出発しましょう!」
「あのぉ~ ついて来てくれるのはとても心強いんだけど。 ジャスミンたん、その恰好で行く気?」
ジャスミンの服装は、出会ったときから変わらない露出の多い葉っぱの服だった。
「え。 あたし、何かおかしかった?」
するとジャスミンが上目づかいの困り顔をみせてきたので、ダンデは焦って取り繕った返答をした。
「い、いやいや。 う、うん。あ~、大丈夫かもしれないかなぁ? あはは…」
「…………んふふ、アハハ!」
「え?」
「冗談よ。あたしだって、街では葉っぱの服を着ないことくらいわかってるわ」
「あー。なんだ、そうだよね!」
と、ほっとしたのもつかの間。
ジャスミンは小屋に戻ると、中から布地面積の少ない珍妙な服?を持って現れたのだ。
「都会では革の服を着るんでしょ?里に来る冒険者はみんなそうだったもの!」
「そそそ、それはまさか!! ビキニアーマー?!?」
その時ダンデは思った。
モルガメロウの街に着いたら、まずジャスミンにちゃんとした服を選んであげようと。
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