〈人形〉と呼ぶに相応しいか
⚪︎月×日 記:水無月瑠雨
研究室を追い出されてから約2ヶ月が経った。
最近は隔離棟も悪くないと思い始めた。嫌味を言う人間もいないし、邪魔されることもないから研究に集中できる。
研究室とは対象について研究を重ねる研究の場。人と会話する必要など無いはずなのに。
研究室にいた時はチームの人と会話をしないだけで陰口を言われ、研究の邪魔をされる毎日だった。
人より会話は下手だったが、研究チームとして最低限の会話は行なってきたし、文句や不満をこぼされる筋合いは無いのだが、それでも私を嫌悪する実験室の人達には私は〈人形〉と呼ばれているらしい。
ほぼ外に出ない私の肌は不健康な事もあって真っ白だし、切らずにいた髪は無造作に腰まで伸びている。極め付けに全く稼働しない表情筋のおかげで私は確かに人形の様に思えるかもしれないが、私としては心外だ。
口角どころか全身の動きが停止して、表情筋どころか筋肉という概念すら無い、中を開けても何も詰まっていない人形と同じにされては流石に不快感くらいは覚える。
だが、別にそれにも大して興味はない。他人から何と呼ばれているのかなんて如何でもいい。
私はあらゆる事柄において一つの理念を持っている。
「研究に関する事柄以外、気にする事など何も無い。」
「助けないと。だから、何としてでも薬を手に入れないと!」
「研究の邪魔は許さない。話があるなら後にして」
「見捨てられた人の命も、踏みつけられた草花も、研究の材料になるなら救け出す。そうで無いのならば散りゆくだけ」
彼女は〈人形〉か、本当に彼女は〈人形〉なのか。
自信を縛りつける過去に抗い、悪感情を誤魔化す様に研究に没頭する彼女は果たして本当に〈人形〉と呼ぶに相応しいのか____