第6話 焼死体
焼死体が落ちていく。
いや、焼死体っていうか、あの体のサイズ……。
(ハク……か?)
(ハク!? そ、そんな馬鹿な……!)
あんな、姿に……。
肌がめくれて、体毛は全部無くて、至るところの骨が露出している……み、見てらんねぇ……!
「【おうぞく! おうぞくのしたい!? く、くっていいやつ! くっていいやつ!!】」
卵が――裂ける。
さっきの黒い手がまた生えて、ハクに伸びていく。
手はハクを絡み取り、そのまま裂け目から卵の中へと吸収していった。
――アレは、捕食だ。
昔、本で見た、食虫植物が虫を捕食する様に良く似ている。
卵は死体を喰らうと拍動を止め、静かになった。
卵がハクを『捕食』する様を見届けた所で、俺達の息は限界を迎えた。
「ぷはぁ!」
俺とクレインは湖から顔を出す。
「先生は!?」
「いないみたいだね。良かった」
「ったく、なにがどうなってやがる!!」
「話は後だ。とりあえずここを離れよう」
「クレインさん! カルラさん!」
パフィンがやってきた。俺達はパフィンの手を借りて湖を上がり、柵の外に出る。
「二人とも大丈夫!?」
カナリアが心配そうに声を張り上げる。
「ああ……」
「それでカナリア、音はどう? まだ聞こえる?」
「ううん。もう聞こえない」
「情報共有しよう。外で何があった!?」
俺達は湖の中で起きた事と外で起きた事について情報交換する。
パフィンは語った。先生が焼死体を湖に沈めたことを。カナリアは語った。先生が『おうらん』という単語を口にしたことを。
「ハクの死体を飲み込む黒い卵……先生が呟いた、『おうらん』という単語……察するに、あの黒い卵が『おうらん』なのか?」
「なんか王族を狙っている感じだったよね」
「ああ。王族の死体を求めていた。そんで、ハクの死体を飲み込んだ瞬間、脈の音が消えた。くそ、わけがわからねぇ!」
クレインがパン! と手を叩き、場を一度締める。
「まとめよう。湖の底には王族の遺体を取り込む『おうらん』がある。多分だけど、先生は死んだ影武者をあれに飲ませているんだ」
「じゃあ、アルバ君も……?」
パフィンが恐る恐る聞く。
「恐らく。カルラも聞いたと思うけど、『おうらん』から聞こえたあの声は……」
「アルバの声にそっくりだったな」
アルバを吸収し、アルバの声を得た……って感じかな。
「うーっ! 私もうわけわかんないよ! 頭破裂しそう!」
気持ちはわかる。
「そうだね。色々なことが起き過ぎた。今日はここらで解散して、それぞれ頭の整理をしよう」
クレインの言葉で、女子2人は学校の方へ去っていった。
俺とクレインは2人で話の続きを始める。
「……なぁ、『おうらん』ってなんなんだろうな。アレ、絶対良いモンじゃねぇよな」
「うん。先生はなにか重要なことを僕らに隠している」
「調べようにもこの島の中で得られる情報には限りがあるよなぁ」
「――ならば、外で調べるしかないだろうな」
木影から、眼鏡を掛けた男――ワッグテールが現れる。
「ワッグテール!? おま、いつからそこに……」
「カナリアが去った後からさ。お前らが湖に向かっているのが見えたのでな、カナリアの耳が届かない距離から後をつけていた」
「……ワッグテール。お前はどこまで知ってるんだ?」
「お前らとそう変わらない。湖の底にある黒い卵、王族を喰らう卵……王卵の存在」
王卵、か。
「先生がそこに影武者を入れているということ。俺はアルバの遺体が湖に捨てられる様を見た。その後で、湖に潜り……アレに接触した」
淡々とワッグテールは語る。
「お前、そんな大事なこと一人で抱え込んでたのか?」
「言ったところで信じられるか?」
「それは……微妙なとこでございますけども」
コイツは頭が良すぎるせいで他人を信用しない部分がある。プライドが高いわけではないのだが、一人で行動することが多いんだよな……。
「話を戻すぞ。現状、この島で得られる情報に先はない。ならばどうするか?」
ワッグテールは俺に対して問いかける。
島の中から得られる情報は無い。ならばどこから情報を求めるか? ……答えは簡単だ。
「回りくどい言い方せずに、素直に頼んだらどうだ?」
ワッグテールは鼻を「フン」と一度鳴らし、
「カルラ、次の任務の際、王族の誰かと接触し、王卵のことを聞き出せ」
「なっ……!?」
「王族なら王卵について何か知っているかもしれない。先生の雇い主は奴らだからな」
クレインが俺を庇うように前に出る。
「それはダメだ。ただでさえ任務は危険なのに……そんなことまで任せられない。カルラが危険な目に遭うぐらいなら、僕は王卵の秘密なんて知らなくていい!」
「クレイン……」
ほんっと、お前は心からの親友だよ。
だからこそ――
「やるよ。俺」
「カルラ……!」
「任務の内容的にそこまで大変なことはない。もう1つ仕事が増えたところで問題はない。もちろん、王族と接触できるかどうかは運が絡む部分もあるから、確実にやれるとは言えないけどな。チャンスがあれば、聞いてみる」
「それでいい。頼むぞ……」
クレインが、真剣な顔で対面してくる。
「君が死ぬとカナリアが悲しむ」
「どうかな」
クレインは俺の胸倉を掴んできた。
「冗談で言ってるんじゃない! カナリアだけじゃない、僕だって……君のいない世界じゃ、生きていけない!」
「クレイン……」
「無理はするな! 必ずだ!」
クレインがカナリアに対して強い想いを抱いているのは知っていたが、俺にもここまでの感情を持っていたとは驚きだ。
「ああ、わかったよ」
嬉しい反面、俺なんかにそこまで固執する必要はない……という思いがある。なんつーか、申し訳ない。俺という存在はお前らが固執する程の価値はないんだから。
それからの日々は遊びもせず、行動も起こさず、第5王子の情報と当日の予定をひたすら頭に叩き込み、
あっという間に出発の日はやってきた。
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