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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三章 王乱

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第38話 無双転臨

 シレナ、レイン。

 これが俺が選んだ道だ。

 応援してくれとは言わない。


――見守っていてくれ。



 ---



 エクリプスが地面に溶け、俺の足下に影の紋章――太陽の紋章を造る。


「幻影封氣――『無双転臨(むそうてんりん)』」


 上空に影の歪みが生まれ、そこから真っ黒な棺が俺の側に落ちる。

 棺の蓋が落下の衝撃で開かれる。


 中に掛けてあったのは鳥の模様が描かれたマントだ。


 先生は怪訝な表情でマントを見て、刀を構え直した。

 俺はマントを羽織り、剣を握って飛び出す。


「見せてもらいましょうか。この1年で成長したあなたの力を!!」


 俺は間合いの外から――剣をぶん投げた。


「またあなたは……!」


 先生は態勢を崩しながらも剣を弾く。


「そう簡単に武器を捨てるものじゃ――」


 がら空きの懐に潜り、右拳を握る。


「速い!?」


 右拳で先生の腹を殴る。


「『石化(せっか)』」

「!?」


 インパクトの瞬間、俺の右拳は()になった。


「……ぐふっ!」


 先生を思い切り殴り飛ばす。

 先生は花畑の外、4本の木々をなぎ倒してようやく止まる。

 上空に弾き飛ばされた剣をキャッチし、先生に向ける。


「教えてやるよ先生。『無双転臨(むそうてんりん)』は骸を武器に変える力だ。死んだ生物を影に取り込み、造り変え、また影から出す。それが俺の力」


 先生は血の痰をペッと吐き出し、


「……この島に人間の遺体はないはず。一体そのマントは何から作ったのですか?」

「『無双転臨(むそうてんりん)』の対象は人間だけじゃない。魔獣や動物も対象だ」

「っ!? そうか、ガーゴイルの遺体を利用して……!」

「ペットから目離しちゃダメだろ、先生」


 ガーゴイルから造られたこのマントの名は『石化法衣(せっかほうい)』。

 マントを羽織ることで好きなタイミングで好きな体の個所(かしょ)を石化できる。


「わざわざ能力を教えてくれるなんてね。余程、私を(あなど)っていると見える」

「俺は王になる男だぞ。アンタみたいな負け犬相手に、手札を隠すようなことはしない。その程度の器量じゃないさ」

「挑発ですか。いいですね、乗りましょう」


 先生の後ろに、全身を鎖で縛られ逆さづりにされた男の影法師(ゲンガー)が現れる。


「幻影封氣、『奴隷王(ハングドマン)』」


 影法師(ゲンガー)が先生の中に入る。同時に足下に鳥籠の紋章が浮かぶ。

 すると先生の額に鍵穴のような痣が出来て、両手両足には鎖の外れた枷が付いた。


影武者(ドッペル)の未来に栄光なんてない。それを教えて差し上げましょう」


 先生が俺の居る花畑に向けて走り出す。

 その速度は王卵で戦ったレインよりも上だ。俺は避けることはせず、真っ向から剣で先生の刃を受ける。


「つっ!」


 片手で振るわれた剣を、両手で握った剣で受ける。

 それなのに、この衝撃――駄目だ、受けきれない!

 キィン! と弾かれるが、なんとか剣を手放さないように右手で剣は捕まえている。そのせいで右腕が上がり、右脇腹がガラ空きになった。


 先生はその隙を逃さず、剣を握っていない左拳を脇腹に叩きつける。


――“石化”。


 直前で、右脇腹を石化させる。

 防御力は肉体強度+陽氣密度で決まる。石の強度に集中させた陽氣、これなら防げる……と思ったのだが、


「――っ!!?」


 今度は俺が、思い切り殴り飛ばされた。

 花畑外の大木まで飛ばされる。幹にぶつかり、地面に落ちる。


「なんだこの馬鹿げた腕力は……」


 脳内にエクリプスの声が響く。


『アイツの影法師(ゲンガー)は主の影を媒介にしているのだろう』

「……影を?」

影法師(ゲンガー)は影を媒介にして現実に干渉する。どの影を媒介にするかは影法師(ゲンガー)によって違う。私は『遺体の影』を媒介にする影法師(ゲンガー)、一方でアイツは『主の影』を媒介にする影法師(ゲンガー)。あのタイプは影から本人に干渉し、身体能力に多大な強化作用を生み出す。アイツとの肉弾戦は分が悪いぞ、ソル』

「……いいや、やりようはあるだろ」


 剣を握り直し、立ち上がると、


「!? 体が……!」


 重い。

 疲れから来るものじゃない。上から、ズッシリと押さえつけられている感じだ。


「私の幻影封氣が、たかが身体強化だけだと思いましたか?」


 余裕の顔で先生が歩み寄ってくる。


「先ほどの礼で教えてあげましょう。影法師(ゲンガー)奴隷王(ハングドマン)を憑依した私は相手にダメージを与える(たび)、相手の体を重くすることができる。ダメージが深いほど、重量も増える」


 体の重さに負けて、膝をつく。


「術の名は『グラビティ・チェイン』」


 そうか。

 先生と手合わせした時、レインが動けなくなったのはこの術の効果か……。

 やはりあの時、この人は幻影封氣を使っていたんだ。今のこの力を見るに、かなり加減はしていたようだがな。


「思い知りなさい。我々は生まれながらに羽を()がれた鳥なのです。この鳥籠から羽ばたくことなど――」

「もういいよ先生。いい加減、アンタの弱音は聞き飽きた……!」


 全身から陽氣を放出し、立ち上がる。


「凄まじい陽氣量……! その重さでよく立てましたね。けれど、それだけの陽氣で体を強化したところで、私の身体能力には及ばない」


 森を激しく動き回りながら先生と剣を合わせる。


「くっ……!?」


 剣がどんどん重く!? この人の術は、武器にも干渉するのか!!


「ちぃ!!」


 俺は重くなった剣を捨て、殴り掛かる。先生は俺の拳を軽くいなし、腹を蹴り飛ばしてくる。

 俺は何本も大木を突き破り、背中から硬い物体に突っ込んだ。


「はは……なんの因果かね。コイツは」


 俺は学校の前に戻ってきていた。

 俺が突っ込んだのは台座……黒曜刀・影打の台座だ。


「黒曜刀・影打、お前も、このままずっと、偽物のままでいいのか?」


 重くなった体を何とか持ち上げる。


「……一緒に来い。俺がお前を、本物の王の剣にしてやるよ……!」

【読者の皆様へ】

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