第32話 王乱①
「ここは……?」
目覚めたのは石造りの部屋だった。
上に続く階段が一つあるだけの部屋。
部屋の中心には貴族が使いそうな高そうな剣が一本刺さっている。
「階段一つに剣が一本……意味不明だな」
立ち上がり、部屋をウロウロしていると、
『やあ。お目覚めかい? 第5王子の影武者よ』
「誰だ!!」
声の方を振り向くと、三つの翼を持った人間が立っていた。
右半身は女性らしく、左半身は男性らしい。顔は美少年とも言えるし、美少女とも取れる絶妙な所。翼は左側に寄っており、右側は一切翼が生えていない。
不気味にも感じるし、神々しくも思える。そんな存在感だった。
『我はホルス。王位争奪戦の審判、と言ったところかな』
「ホルス……」
その名前からは否応にもホルスクラウンを連想させる。
『ルールを説明しよう。いまお前が居るこの塔はダンジョン、迷宮だ。名をビジョンタワーと言う』
迷宮は複雑な構造の場所を言うんだったかな? 記憶が薄い。
塔ってのは確か、高く上に伸びる建造物のことだよな。
『全364階あり、一日ごとに最下層の階から消滅する。生き残るためには毎日一つは階を登らなければならない』
「おい男女、ふざけるなよ……俺はお前の遊びに付き合う気はない!」
『もうお前は参加してしまっているんだ。逃れることはできない』
俺は拳を握り、ホルスを名乗る怪人に殴りかかるが……ホルスの体は透けて、拳は空振りした。
『我は審判だと言ったろう? 審判は絶対の存在、攻撃することはできない』
「……ちっ!」
『話を戻すよ。ダンジョンの中には魔獣がうようよと居る。そこの剣で倒して進むんだ』
「カナリアとクレインは、他の影武者たちはどこに居る!」
『……塔は三つあり、一つの塔に二人の影武者が存在する。つまり、この塔にはもう一人影武者が居る』
ホルスはほんの少し、口角を上げる。
『塔の最上階で同じ塔に居る二人は合流する。逆に最上階までは合流することは無い。最上階で二人は殺し合い、生き残った一人が塔の屋上……ラストステージへ上がれる』
「影武者同士で、殺し合いだと……!?」
『ま、どっちかが途中の階層で死んだり、どっちも死んだら話は別だけどね。ラストステージに進めるのはそれぞれの塔で生き残った一人。最大で三人というわけだ。この三人で最後殺し合い、生き残った一人が王卵から脱出できる』
全364階のダンジョン。一日で一階消滅するのなら、制限時間は364日、つまり一年。
最上階で塔に居るもう一人の影武者と戦い、勝てればラストステージへ。そこでそれぞれの塔の勝者が戦い、殺し合い、生き残った一人が元の世界へ戻れる。
……ふざけるな、ふざけるなよ……!
『説明は終わりだ。復唱は必要かな?』
「……とにかく、最上階へ行けば他の影武者に会えるんだな」
『うん。そうだよ。もしかしてだけど、まだ全員一緒に脱出とか夢見ちゃってる?』
ホルスはクスクスと笑う。
『今からお前たちがやるのは原初の王位争奪戦だ。その結末がどうなるか、お前はもう知っているはずだろう?』
カルラオリジナルの部屋で見た絵本の内容を思い出す。
最初の王位争奪戦は闘技場で9人の王子で殺し合い、残った1人を王とした。そして8人の敗北した王子の体でホルスクラウンを作り上げた。
今までの情報から考えるに、闘技場とはこのダンジョンのこと。
つまり、この世界で敗北した5人は先に王卵に吸収された3人と共に――ホルスクラウンとなる。生き残れるのは、1人。
『まぁ精々楽しませてくれよ。劣化品共……』
ホルスはそう言い残して消えた。
「……」
まず俺は壁をノックしてみる。
……ただの石じゃないな。ノックしても音がなに一つ返ってこない。蹴っても、小石を投げても、音がしない。壊せる気配がない。
壁を破って他の部屋の様子を見るのは無理だな。
「……くっっっっそがああああああああああああああああっ!!!!!」
思いっきり叫び、剣を引き抜く。
「とりあえず上だ、上を目指す! まずは他の影武者に会う! 話はそっからだ!!」
ガムシャラに気合を入れ、最初の階段を上がった。
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