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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三章 王乱

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第31話 卒業式

 朝。

 すっかり先生から受けた傷も治り、体調は万全となった。王族の血の治癒能力は半端ない。

 天気は悪く、空には暗雲が渦巻いていた。


「あれ? 先生とワッグテールが居ないな」


 朝食の時間、先生とワッグテールが食堂のどこにも居なかった。

 二人共寝坊したところは見たことない。


「そういやワッグテールの奴、朝から部屋にもいなかったな……」

「なにかあったのかな?」


 カナリアは心配そうな顔をする。


「ふむ。とりあえず私たちで朝食の準備をするか」


 オスプレイの提案。


「そうだな。食事を終えてもまだどっちも戻らないようなら、全員で探しに行こう」


 シグ姉が同意する。

 とりあえず俺たちだけで朝食の準備をして、食事をした。

 全員が完食する時間になっても、先生もワッグテールも姿を見せない。ということで、全員で一緒に二人を捜索することにした。


 最初に足を運んだのは教室。


「いませんね」


 パフィンが言う。


「あ!」


 とカナリアが言うと同時に、教室の扉が開かれた。


「お待たせしました。皆さん、座ってください」


 先生が現れた。カナリアは足音から先生の接近をいち早く察していたようだ。

 いつもの温和な様子……だけどいつもと違い、全身の至る所に包帯を巻き、常に左眼を閉じている。仮面にもヒビが入っている。


 ゾク。と全身に悪寒が走る。何か……不吉な予感がする。


「先生、一体どこにいたのですか?」


 クレインの問いに対し先生は返答せず、椅子を指さす。


「座りなさい。話はそれからです」

「……」


 有無を言わせない迫力。

 俺たちは全員、一旦席に着いた。でもみんな、警戒している。すぐに戦闘に入れるよう、完全に椅子に腰かける者はいない。


 出所不明の不安感が、全員の背筋を舐めていた。


「……長かったですね。ようやく、この日が来た」


 しみじみと先生は言う。


「皆さん、今日は授業はやりません。今日は皆さんの卒業式を()(おこな)います。この学校の卒業式を……」

「ふざけたことを言うな!」


 オスプレイが立ち上がり、先生に詰め寄る。


「ワッグテールをどこにやった!?」


 先生の状態、様子からオスプレイはワッグテールと先生にひと悶着あったのだと思ったんだろう。

 俺もオスプレイと同様の考えだ。欠席のワッグテール、傷だらけの先生、無関係だとは思えない……。


「彼なら、一足早く卒業しました」


 オスプレイが先生の胸倉を掴み上げる。


「まさか、貴様……!」

「うっ!?」


 突然、カナリアが耳を押さえてうずくまった。


「どうしたカナリア!?」


 俺はカナリアのもとへ駆け寄る。


「あの音が……また、聞こえる。鼓動の音が……前より強く!」


 鼓動の音……王卵の脈動か!


「先生……まさか」


 俺は先生に問う。


「ワッグテールを、王卵に喰わせたのか!?」


 先生はジッと俺を見る。

 YES、と目で言っている。


「卒業おめでとう、オスプレイ」


 先生が呟くと、オスプレイの方から呻き声のようなものが聞こえた。

 オスプレイの方へ視線を向ける。


「オスプレイ!」


 床から、無数の黒い手が湧き出てオスプレイの全身に絡みついた。

 黒い手には口もついていて、その口から呻き声が漏れ出ている。


 アレは間違いなく、王卵の手!?


 全身に鳥肌が立つ。

 あの黒い手には、この世すべての闇が詰め込まれているような……そんな感じがした。

 俺の中にある細胞が、『逃げろ』と叫んでいる。


「貴様……!?」


 オスプレイは無数の黒い手に覆われ、真っ黒な卵型になると一瞬にして足元に引きずり込まれていった。黒い染みだけが、オスプレイが立っていた場所に残っている。


「卒業おめでとう、パフィン」


 今度はパフィンを黒い手が引きずり込もうとする。


「クレインさん!!!」


 パフィンがクレインに手を伸ばす。


「パフィン!!」

「助けて……嫌、わたくしはまだ何も――」


 クレインもパフィンに手を伸ばすも、間に合わずパフィンは闇に消えた。


「卒業おめでとう、シグネット」

「なっ!?」


 次にシグ姉が黒い手に絡まれる。


「そんな……! どうして……!?」

「儀式は全て、公平に行う」


 シグ姉はめいっぱい先生を睨み、そして下へと引きずり込まれた。

 ようやくそこで、ぼやけていた意識が覚醒した。

 目の前の異常を前に、麻痺していた思考が動き出した。


 これがカルラオリジナルが言っていた王卵の第二形態!? 王卵は王族を三人喰らうと形態を変え、どこに居ようと俺達を吸収する……アイツはそう言っていた。今が、その時か!

 

「カルラ! カナリアを連れて外へ!」


 クレインは机を先生に向けて投げる。先生は腰から刀を抜き、一瞬で机をバラバラに解体した。


「クレイン! でも!」

「迷ってる場合か! このままじゃ全滅するぞ!」

「……!」


 クレインの目は、覚悟を決めていた。

 俺はうずくまるカナリアを抱き上げる。


「だめ、駄目だよソル! レインを置いてなんていけない!」 


 暴れるカナリアを力づくで押さえる。


「……わりぃ、()()()

「頼んだよ。()()


「レイン! レインっっ!!!!」


 俺は振り返らず、教室を出る。


「レイン……!」

「……振り返るな! 今はここから逃げることだけを考えろ! なにかやべぇのが近づいてきてる!! お前だってわかってんだろ!!」

「でも……でもっ……!!」


 カナリアを抱きかかえたまま玄関に行くと、


「っ!?」


 石造りの鳥が、道を阻んだ。


「ガーゴイル!?」


 ガーゴイルが叫び、俺に向かって突進してくる。

 俺は咄嗟にカナリアを廊下に投げ、ガーゴイルの攻撃を腹で受ける。


「がはっ!?」


 攻撃を受けた俺はその勢いのまま教室の前まで転がった。

 激痛が全身に走る。


「無駄ですよ。カルラ」


 教室から出てきた先生はそのまま俺の所へ歩いてくる。


「……クレインは、どうした……!?」

「彼ならもう、卒業しましたよ」


 先生は俺とカナリアの間に立つ。


「王卵は3人の王族を吸収することで第二形態になる。第二形態となった王卵は体内に世界を造り、近くに存在する王族を私の指示で取り込む。オスプレイも、パフィンも、シグネットも、クレインも、今は王卵の中にいる。大丈夫、()()()()、全員生きてますよ」


 何とか立ち上がり、拳を握る。

 体はフラついて、視線は定まらない。それでも、それでもカナリアだけは……!


「卒業おめでとう、カルラ」

「やめろ……」


 先生に殴りかかろうとするも、黒い手にそれを阻まれる。

 先生が、口を開こうとする。

 ダメだ。そこから先を、言わせるわけには――


「卒業おめでとう――カナリア」


 『卒業』という単語、そして対象の『名前』。

 それが恐らく、王卵への合図。


「やめろぉ!!」


 カナリアの下に、黒い手が湧き出る。


「ソ、ル……ソル……!」


 カナリアは黒い手に絡まれながらも俺に向かって手を伸ばす。

 俺もなんとか手を伸ばすが、届かない。


「カナリア! カナリア!!」

「ソル……助けて……!」


 先にカナリアが真っ黒な卵となり、下へと引きずり込まれた。


「……待ってろ、俺が絶対……助けるから……!」


 視界が真っ黒に染まる。全身を悪寒が包み込む。


 体が落下していく感覚。鼻が詰まり、口も詰まっているのに、呼吸だけはできている。直接空気を肺にぶち込まれているような感覚だ。


 ひたすらに気持ち悪い……!


『さぁさ6人の影武者(ドッペル)さん、一次審査突破おめでとーう』


 真っ黒な空間の中、

 子供のような、高くて不気味な声が聞こえる。


『準備はいいかい? それじゃ始めるよ……“王乱(おうらん)”を』


 次の瞬間、意識が暗転した。

【読者の皆様へ】

この小説を読んで、わずかでも

「面白い!」

「続きが気になる!」

「もっと頑張ってほしい!」

と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります! 

よろしくお願いしますっ!!

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