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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三章 王乱

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第28話 たった一人の決戦 その①

 ソルとレインが敗北した、次の日の早朝。

 第2王子の影武者(ドッペル)、ワッグテールは学校から離れた場所にある大木の前に来ていた。


「こんな早朝にお散歩ですか? ワッグテール」


 ワッグテールは振り返る。背後に立っていたのは仮面の男――先生だ。


「アンタは散歩――ってわけではなさそうだ。腰に随分と物騒な物をぶら下げている」


 ワッグテールは先生の腰元を見る。そこには鞘に収まった刀がある。


「……やはり、昨日のカルラとクレインの力を見て、計画を早めることにしたのか」


 先生は眉をピクリと動かす。


「カルラの見立ては合っていたんだろうな。王卵に入れる前に、影武者(ドッペル)達はある程度育てる必要がある。しかし予想外のアルバとハクの死、未熟な体のまま死んだアイツらを補えるぐらい、アンタは俺達を育てる必要があった。だがまた、アンタの予想外の展開が来た。それはカルラとクレインの想像以上の成長スピード。後数か月ほどで、奴らの牙はアンタに届く。そう確信し、アンタは失敗覚悟で早めに王卵を起動させることにした。違うか?」

「……本当に、あなたは恐ろしい」

「その刀が証拠だな。俺を殺して王卵に喰わせることにしたか」


 先生はワッグテールの行動に疑問を持っていた。

 なぜ、そこまでわかっていて、単独行動をしたのか――と。


「結果的に、アイツらのやったことは失策だったな」

「アナタの言っていることはほとんど当たっていますが、一か所だけ違う部分がありますよ。私は――失敗覚悟で王卵を起動するわけではない。あなたたちは私を殺すため、ここ数年で目を張るほど成長した。今のあなたたちならば、アルバトロスとハクを補える。それだけの力がある。昨日、あの二人に恐れを抱いたのは事実ですが、同時に私は歓喜しましたよ。あの二人の能力はすでに完成している。生贄として、完成している」

「なるほどな。俺達の思惑を知っていて放置していたのは、自分という目標をぶら下げて、心身の成長を促す意図もあったのか」

「その通りです。しかしワッグテール、あなたの行動がわかりませんね。なぜ、ここへ私をおびき寄せたのですか?」


 ワッグテールと先生の、相手を探るような視線が交錯する。


「学校を出る際、わざと私にわかるよう物音を立てましたね。すぐにでも王卵を起動したい私が、誰かが単独行動をすることを待っていたことはわかっていたはず。単独で動き、私をここまで誘った理由……私にはさっぱりわかりません」

「俺はな、先生、ずっと待っていたんだよ……アンタの底が知れる時を」

「……ほう」

「アンタ、昨日本気でアイツらに対応したろ。おかげで、俺はアンタの底が見れた」

「アレが私の全力だとでも?」

「少なくとも、奥の手のカードを切っただろ。俺は昨日のアンタを見て、確信した……今なら勝てるとな」


 ワッグテールは白い太陽光のようなオーラ――陽氣を纏う。


「これは……」


 先生が驚いたのは、陽氣の『流れ』。

 まるで熟練の術師の如く、自然に、穏やかに、陽氣は流れていた。


「学校から距離を取ったのは、アイツらに援護させないためだ。今の俺にとって、奴らは足手まといに過ぎない」

「驚きましたね。あなたがこんな愚行に出るとは。本当に私に一対一で勝てると?」

「俺とアンタじゃアンタの方が強い。だけど、いま俺の手札をアンタは知らず、逆に俺はアンタの手札を知っている。それにアンタは昨日のダメージをまだ引きずっている。陽氣もまだ万全ではないし、この後に王卵を起動させるなら余力を残す必要もある。わかるか? 今ここだけなんだよ。俺がアンタに勝てるのは……」


 ワッグテールの言う通り、先生には色々な(しがらみ)がある。

 前日の疲労、陽氣の消費、

 ワッグテールを倒した後、王卵を起動するための力の確保。

 さらにワッグテールをなるべく傷つけず殺す必要がある。肉体の欠損や必要以上の出血は避けたい。


 全快全力の状態を100とするなら、ワッグテールとの戦いは40程度の力で挑まざるを得ない。

 逆にワッグテールは何も気を遣う必要が無い。兄弟が人質に取られないよう学校から距離は取ったし、体力は万全、いくら先生を無残に殺しても困ることは無い。


 だが前提として、ワッグテールの戦闘力はたかが知れている。頭が良いのは先生も認める所だが、こと体術や剣術に関しては教室内でも下から数えた方が早い。


 先生はワッグテールの能力値を頭に浮かべる。その上でやはり思う。いくら自分が全力を出せない状態だとしても、あまりにワッグテールの今の行いは無謀だ。


 しかし先生は知っている。ワッグテールが勝率の低い賭けはしないと。


「俺が無謀なことをしていると、アンタの目には映っているだろうな。確かに俺には武術の才能は無かったが……こっちの才能は、どうやら天才的だったみたいだぞ?」


 ワッグテールは纏っていた陽氣を消費し、自身の影を大きく広げた。


「馬鹿……な……!?」


 先生はワッグテールの影を見て、動揺する。

 ワッグテールは影を実体化させ、影を尖らせて先生に向けた。


「影の濃化、広域化、実体化、変形……! 指導者も無しに、見本も無しに、あなたは……影法術を習得したというのか!?」

「ここで全てを終わらせる……俺はアイツらと、ここを出る」

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